k's point of view

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物権と債権・物;インスタグラムのアカウントの売買に関する一試論

今回は物件と債権を考察するということで,アカウントの売買に関する試論を展開したいと思う。

 

Instagramアカウントを購入すると、ソーシャルネットワーク利用規約に違反する。Instagramでは、「アカウントのあらゆる側面(ユーザー名を含む)を購入、販売、または譲渡したり、他のユーザーのログイン資格情報やバッジを要求、収集、または使用したりすることはできない

Instagram TOS

https://help.instagram.com/581066165581870

Instagramアカウントを購入すると、アカウントについて何か不審な点を見つけた場合、Instagramがいつでもシャットダウンできることに注意して購入する必要がある。

この売買プロセスは「テーブルの下」で行われるため、詐欺も横行しやすい。

では,その法的効果はどうなるか。Standing(当事者適格)の問題がある。YouTubeでもそうだが,著作権者以外は著作権侵害コンテンツであることを申し立てられないというグランドルールがある。別に第三者による報告制度を設けてもいいのだが,公益に関わらない私権という整理で,また,自社プラットフォームでの
コンテンツを充実させたいという思惑,さらに,権利者以外からの申し立ては取るに足らないものも多く,審査コストが膨大になってしまうという懸念からだろう。

 

Instagramでも同様の整理がなされているようだ。ここにReportに関するページがある。

https://help.instagram.com/368191326593075/?helpref=hc_fnav&bc[0]=Instagram%20Help&bc[1]=Privacy%20and%20Safety%20Center&bc[2]=Report%20Something

 

ここでReport対象になるのは,以下の通り。実はアカウントの不正譲渡(譲渡は常に不正)に関するReportが想定されていない。これはStandingが誰にもないことの表れではないかと思われる。あるいは表向きの行為規範とは異なり,サンクションとしての利用停止という評価規範がない状態を敢えて放置している可能性がある。ここで言えるのは,アカウントの不正譲渡には,自動的にアカウントの停止をもたらす物権的効果はなく,Standingのある人からの申立てを待って停止する債権的効果はあるものの,構造的にStandingがある人がいない(譲渡人はStandingを失っている),ということである。

Hacked Accounts
Impersonation Accounts
Underage Children
Hate Accounts
Intellectual Property
Exposed Private Information
Self-Injury
Abuse and Spam
Exploitation
Other Types of Reports

実際にアカウントが譲渡されても一見Instagram側には損害がないかもしれない。何重にも責任回避の条項もあるだろう。

 

しかしSNSの本筋に立ち返ると,個を起点としたSocial Networkingがこれまでのハブアンドスポークのシステムに対してDisruptiveであり,Coolだったのであり,ここの「個」が譲渡目的のアカウント作成が横行して空疎になってくると,土台が崩れていく。さらに放置していると,ロングタームではInstagramの存立を脅かしかねない事態が生じると考えられる。

 

「サクラが少ないこと」=「そのSNSの価値」という視点に立脚して,Instagramも今後アカウントの譲渡に対しては何らかの対応をしてくることもありうるのではないかと考えられる。

日本ではその辺りの議論が全く見られない。それはおろか破産した会社の売却資産としてInstagramのアカウントも対象になっているようである。

 

換価対象となる破産財団とするためは,以下の要件を満たすものである必要がある。果たしてInstagramのアカウントにはその要件は充足されているだろうか。法人だろうが個人であろうがそのアイデンティティと結びついた「アカウント」なるものに,財産性及び差押可能性を認めることはできないと考えられる。

・「財産」であること(換価価値があること)
・破産手続開始時に破産者が有していること
・差押えが可能であること