k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

インフラファンドに関する考察

金融投資家から見たインフラファンドの機能(純投資)

ファンドは後ろに金融投資家(生損保,銀行,年金基金等)を抱えており,金融投資家に目標としているリターンを返していく必要がある。そこで,インフラファンドはインフラ事業会社への投資の後,①安定した収入と収益の獲得,②財務リスクを低下させられるのか,ということを話し合って結果を出していく。

ファンドがインフラ事業会社へ投資した後は,いかに当該インフラ事業会社の売上を安定させるか,運営コストを削減できるか,投資時に想定した課題(投資課題)の解決に努める(①)。そしてもう1つは,財務リスクを低下させる(②)。

②はあまり意識されない点だと思うが,売上が安定しコストが下がれば利益が上がってくると,今あるインフラ事業会社の借金を良い条件で借換えを行うことができ,それによってインフラ事業会社の財務リスクを低下させることができる。このように財務リスクが低下したとき,インフラ事業会社の株式の評価は上がる。インフラ事業会社の株式の評価は,向こう10年20年の長い期間のキャッシュフローを予測していくのだが,この長期間のキャッシュフローの合計を一定の割引率で割り引いて現在価値として評価する。したがって,財務リスクを低下させることにより,割引率が下がり,事業価値(現在価値NPV)の評価額が上がっていくこととなる。

その結果,投資家の期待水準のリターンが実現される(①と②は発射台としてのキャッシュフロー(cとする)とマルチプル(mとする)という関係〔c*m〕で,値を決定する要素は共通する部分はあるものの項目それ自体としては二重評価による減殺関係にない独立関係でかつプラスにもマイナスにも相乗効果がある)。

安定した収入があって運営費に無駄が多ければ効率的な運用をして財務リスクが低下する。インフラファンドは,インフラ事業会社にそのようなことを行えるガバナンスがあるのかどうかを投資する前から審査する。インフラ事業会社の組織体を見て役員レベルがどうなっているか,経営企画部がどうなっているか,そして実行するメンバーがどうなのか,あらゆる角度から議論して投資前の事業計画や投資後の100日計画等を実行し,さらに1年後や5年後を目標にした計画を実行していく。その後,事業運営の改善が見られる2年から3年後にインフラ事業会社においてローンをリファイナンスし,財務リスクを低下させていく。

 

金融投資家から見たインフラファンドの機能(リスク分散)

金融投資家がどういう期待を持ってお金を預けているのか。現在は,市場環境が難しく投資の期待収益も低下して,市場の変動も激しくなっている中,もっと安定して投資収益を得たいと考える投資家が20年程前から欧米を中心に出てきた。

分散投資の1つとしてインフラ事業会社への投資が注目されている。投資家がインフラ事業会社株式に注目する理由は次の4つ。①インフラ事業会社は公共性が高いので地域に不可欠のサービスであり存在し続ける,②参入障壁が高く競争条件が緩やか,③20年以上に及ぶ長期的なキャッシュフローの予測ができる,④料金料率等の価格設定の時にインフレ部分が考慮されるためインフレヘッジの手段になる。このような項目に着目した結果,非常に安定した投資手段ではないかと考える投資家が増えている。特に欧米やオーストラリアで注目を集めている。

一方,個人が銀行や証券会社の窓口で買う投資信託は大半が上場している株式に投資しているもので,株価を決める要因の9割は会社の業績よりも市場の要因で決まっていく。どんなに業績が良くてもその国のマクロ経済状態ファクターが大きいのである。

インフラファンドを出資先に選ぶ投資家は,そういう市場リスクの排除を重視している。業績が安定していれば配当が定期的に得られ,投資先のインフラ事業会社をファンドが売却する時には,高く売られることも期待される。

 

インフラ事業会社からみたインフラファンドの機能(インフラファンドの競争力の源泉)

次に,インフラ事業会社から見たインフラファンドはどういった位置付けになるのか。まずどういった形でファンドを活用できるのか。上場していないインフラ事業会社の立場としては,資金調達の手段としてファンドを考えることができる。つまり,インフラ事業会社にとっては,インフラ事業会社の株式や運営権に投資をすることを使命とするファンドが株式の資金の出し手になる。それに加えて,経営の指針を示される,あるいは共同でインフラ事業会社の経営を行うスタッフ等のリソースがシェアされる。ファンドに株式を売却して資金を調達したいという場合は,財務的にノンコア事業であるインフラ事業を売却せざるを得ないとか,財政的に厳しいから民営化したいという背景のもとにファンドに対してアクセスが行われることが一般的である。

それでは,インフラファンドの競争力の源泉はどこにあるだろうか。まずはスピード感という点である。インフラファンドは,一つ一つの投資案件が大きく,投資候補先を極めて多くの人間が関わって審査していくことになるが,一度に複数の案件をチェックできる態勢がないと投資機会を逸してしまう。グローバルなインフラファンドにおいては,一般に,実行や検討の事例も蓄積しており,大きな投資案件に関する初期段階のデューデリジェンスを社内で実施することができ,かつ,大胆にデューディリジェンスなどの検討コストの配分を決められるなど,確度の高い判断を早期に行うことで売主買主双方にメリットが出ることが多い。

また,インフラ事業会社は公共性が強く,制度的な支援がある一方で規制が多くある。金融出身者と制度や運営に詳しいインフラ事業会社出身者で構成されるハイブリッド体制が強みになる(いわゆる「金融と産業の複合業務」)。

また,政府との協働という点もインフラファンドの特徴である。政府や公共団体から直接打診があったり,公募入札で2番札だったのにも関わらず,インフラファンドの運営実績面を考慮した裁量判断により,落札できることがある。

ファンドの中でもことインフラファンド投資における競争優位性については,以下の点が上げられる。①欧州のインフラ資産に対する規制が整備・拡充される時期に蓄積された「豊富な投資・事業運営経験」,②インフラ投資の主要リスクである規制リスクの軽減に寄与できる「規制についての深い理解」,③売主が売却するインフラ資産から提供されるサービスにを引き継いでDay1から新規所有者であるインフラファンドが同様のサービスを提供できるという「安心感」,④大規模な経営資源と複数取引に同時に厳格な期日管理で進めることができる「進行/エグゼキューション力」,⑤カーブアウトなどで特に課題になるストラクチャリングやタックスやガバナンスなどを多面的に検討し最適をデザインする「オーナーシップ移行の専門性」,⑥関連する政治的リスクを軽減するため,実績があり信頼できるインフラ投資・事業運営者との協働を望む「政府部門との協働」。これらから導き出される優良な投資機会・相対的に低い取引コスト・交渉におけるプライシング力・投資後のバリューアップ機会の獲得に反映され,他のファンドや他のインフラファンドに対して,相対的に高いリターンを生み出す源泉となる。

 

インフラファンドの投資対象としてのインフラ事業の類型論

(1)開発段階によるインフラ事業の違い

一口にインフラ事業と言っても投資家の目線で見ると様々ある。ここでは,開発段階によるインフラ事業の違いから,①開発インフラ事業(ゼロから新しいものを造っていくもの),②拡張インフラ事業(すでに事業会社があり運営が行われているインフラ施設で何か設備投資をして拡張すべきだという資金需要があるもの),③既存インフラ事業(既存インフラはすでに運用されて安定したキャッシュフローが生まれているものの,資金繰りの問題で外部からお金を調達したいというもの)の3つに類型化される。

投資家の期待は固くて安定していることなので,一般的なインフラファンドの投資先は,拡張インフラ(②)や既存インフラ事業(③)の株式を選好する。

一方で,開発インフラになる場合があるが,拡大や既存に比してリスクが高いので,期待リターンが異なる水準になる。開発途上国は開発インフラ事業(①)が多いという傾向はある。また,当然カントリーリスクも考慮される。

(2)収入構造の違いがファンド特性に及ぼす影響

次にインフラ事業会社を収入構造ごとに分類すると,①景気の影響を受けやすい利用量に依存するインフラ事業会社と②4年〜5年という一定期間毎に決定されるタリフなどの料金料率の設定により長期的に安定した収入を得ることができるインフラ事業会社に分類される。前者(①)は,道路,港湾,駐車場,(タリフの設定がない)空港,鉄道などがこれらに分類される。後者(②)は,電力,ガス,水道事業,一部の空港などがこれらに分類される。タリフの設定のもとに運営費や財務リスクなどを削減していければ,比較的安定した利益が得られるインフラ事業会社群である。

また,③収入が契約によって決められているインフラ事業会社がある。例えば,特定の生産物の供給に対して,使用する,使用しないに関わらず一定の金額を支払うといった契約が締結されている熱電併給プラントや,サービス対価などで収入保証を伴う官民連携事業(PPP)の枠組みを活用した有料道路などがこれらに分類される。

ちなみに,空港事業の収入は航空系と商業系に分けられるが,航空系収入部分にタリフの設定があるものとないものとが存在する。タリフの設定がないものは利用量により収入が大きく変動するグループ(①)に分類される。

リーマン・ショック後に注目されている投資先は,収入の安定性が追求できるもの,あるいは将来のキャッシュフローの予測が堅くできるもの,例えば,電力,ガス,水道,タリフの設定がある空港などとなっている

 

インフラファンドのアジアでの投資事例

インフラ投資はアジアでは韓国が進んでいる。アジア・太平洋では最もインフラ事業へのファンド投資が進んでいるのは韓国とされる。その理由は,1998年に韓国は財政破綻し,IMF国際通貨基金)から救済を受けた歴史があり,それによって政府や自治体が保有していたインフラ事業に民間の資金を導入していこうという動きが活発化したためである。また,韓国は,財閥が極めて多くの事業を行っており,主要事業ではなく,ノン・コア事業としてインフラ事業を行っている企業が結構ある。その中で一定期間,外部の人に株式を持ってほしいというニーズがある。

ここでは,オーストラリアの金融グループであり,グローバルインフラファンドのジャイアントであるマッコーリーの,韓国の都市ガス事業会社でSK E&Sの事例を取り上げる。

Macquarie to buy stake in gas distributor

New infrastructure fund to acquire 49 percent of SK E&S shares

Mar 09,2006
The private equity management unit of Australia-based Macquarie Bank will buy a 49-percent stake in Korea’s major gas provider SK E&S Co., as part of its plan to invest in the nation’s utility industries, according to the head of the company.
David Russell, the head of Macquarie Korea Opportunities Management Inc., said yesterday the firm would establish Macquarie Korea Opportunities Fund and buy nearly half of SK E&S’s shares. His comment was made during an interview with Korean reporters.
SK E&S, an affiliate of SK Group, holds a 25-percent stake in the local gas distribution market with its 11 subsidiaries, including SKGas, Daehan City Gas Co., Pohang City Gas and Pusan City Gas.


http://koreajoongangdaily.joins.com/news/article/article.aspx?aid=2695325

SK E&Sは,SKという財閥グループとアメリカのエンロンが共同で作った会社で,50対50の対等合弁企業として1999年に設立された。その後,エンロンが破綻した際に,マッコーリーのファンドMKOF1(MKOFはMacquarie Korea Opportunities Managementを表す)が2006年3月に49%の持ち分をエンロンより取得した。SK E&Sは韓国で最大の25%の市場シェアを持っていた。投資時のタリフ上の株式による資金調達コスト(期待収益)はIRRで6%ぐらいだった。投資後,売上を安定させ,運営費を削減し,ノン・コア事業部分の売却等の取組みを行った結果,株式評価はIRRで7.8%ほど上がり,合計するとIRRで13.8%になった。欧米,韓国等の既存のインフラ事業に対する期待収益率は,ネットIRRで10%〜13%程度だが,当ガス事業は当初の想定通りの投資収益となり,最終的に投資後3年で売却された。SKグループがもう一度買い戻したいと希望があり,さらにIRRで7.4%高いところで売却することができ,この結果Exit時はIRRは21.3%となり,3年間で約60%程度評価が上がったところで売却ができた事例になっている

 

日本におけるインフラ事業を対象としたキャピタルマーケット

インフラファンドは,世界各国に比べて日本への投資が少ない。

ファンドを設立する判断に3つの視点がある。1つは投資対象の案件がたくさんあること。2つ目はファンドを設立した場合にお金を出してくれる投資家がいるかどうか。3つ目は投資するインフラ事業に対しての制度的問題で安定した実績があるかどうか。日本についてはそういう環境が拡大の方向,よい方に向っているが,マッコーリー羽田空港ビルに投資したのは2006年だが,その時はファンドを設立する時期でなかったという判断があり,マッコーリーの自己勘定で投資した。現在,日本で案件として出て来ているのは太陽光発電風力発電等の再生可能エネルギー事業,コンセッションなどがあるが,最低1つのファンドを設立するのにファンドサイズ1000億円ぐらいの資金で,そのファンドがどれくらいできるのか,問題となるところ,日本はまだ案件が潤沢でない。現状の5倍以上の案件がないといけないとされる。また,投資運営の実績のないものに投資家はなかなかお金を出さない。

また,制度についても,制度的にどう変革するか不透明である(カントリーリスク)。以前に郵政民営化が進められたのに元へ戻ってしまうこともあり,当時オリックスかんぽの宿に投資して,難しいという判断になったことが報道された。あれだけ規制のサンドボックス内閣府経産省が言っても各省庁がついてこず,AirBnBUberの狙っている業法規制領域もことごとく規制側が跳ね返し警察権を及ぼし続けている。投資する側は怯えてしまって難しいところがあるのもやむを得ない。ロジカルでない政治的領域での政策決定により(はんこ屋がIT大臣になったりする),規制のサンドボックスを埋める方向で法整備を続け,今までの規制を止めたりすることがないため,この位の確率・範囲で大丈夫ですというところが見えない。そうでないとリスク係数βが無限となり投資家も他人の資本を預かるファンドも投資判断ができない。

 

ステークホルダーの協働

インフラ事業会社の目線で見た場合,ファンドは資金調達の手段になるということ,一緒に経営を考えて会社の業績を上げていくような施策を行っていける組織であるということがポイントとなる。一方で投資家サイドとしては,長期にわたって堅くて安定していることを期待してファンドにお金を預けられる。また,制度リスクが最小になるような規制当局との調整も必要となる。投資家とインフラ事業会社の両者のバランスをうまく取り,かつ,専門性の高いファンドにおいて,規制当局との調整も行う。以上のような点にインフラファンドの独自の役割がある。

日本においては,インフラファンドといっても代表的なのは太陽光発電のような,ほぼ設備とタリフとメンテナンス業者のみで回る収益管理のためのSPCの株という程度ではないか。

ガバナンスや経営企画やオペレーションといった人やITが重要な,本格的な「インフラ事業」の投資・運営は,まずまだ案件が少ない上,二次流通もなく,開発ステージの案件のみで,PPPでゼネコンやデベロッパーがその役割を担っている段階といえるが,今後二次流通もテーマになってくると思われる。