#外国人の人権 #生存権 #参政権 #憲法 #司法試験 #問題演習
【問題】
在留資格を有し,日本に居住し事業を営む外国人Xは,生存権の保障を受けるか。また,国政選挙・地方選挙につき参政権の保障を受けるか。比較しつつ論ぜよ。
【問題点の整理】
生存権・参政権の人権としての性格論に立ち返るとこのような方向はどう評価されるか。本問は在留外国人の人権そのものよりもむしろ,生存権と参政権の性格の異同を主題としている。
【解答】
1.在留外国人の人権
在留外国人の人権共有主体性については,人権の性格に応じて可能な限り保障され,問題となっている人権の性質を個別に見ていく必要がある。
2.生存権の性質
生存権は社会の構成員ゆえに与えられるべきものであるが,国籍も構成員たるかの1つの考慮要素となる。すなわち,生存権の具体的内容は,「その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであ」り,具体的立法に当たっては,多方面にわたる政策的判断が必要であるところ,国籍非保持者の処遇についても,「特別の条約の存しない限り,当該外国人の属する国との外交関係,国際情勢,国内の政治・経済・社会的諸事情に照らした政治的判断により決定でき」るからである(堀木訴訟,塩見訴訟)。
以上から,国籍を全く無視した肯定説は支持できず,通説である許容説が妥当であると解される。
※福祉立法の上では国籍要件が大幅に緩和されている。社会保障関係法令については,1981年に国籍要件が原則として廃止された。また生活保護法については「国民」を対象とする法文はそのままに,すでに1954年の厚生省社会局長通知により,一方的行政措置として定住外国人にも適用を認めている。
3.参政権(国政レヴェル)
国民主権の下,国政レベルの参政権の主体を確定するのは「国籍」の本質的機能である。
4.参政権(地方レヴェル)
地方参政権については,地方自治の捉え方が議論に影響する。長期の在留外国人を含む「住民」こそが住民自治の担い手であり,そのことが地方自治制度の核心部分をなすとすれば,立法裁量を広く認める制度的保障説からも国籍要件は違憲となる。しかし,地方自治も,国民主権の妥当する国政の下にある。地方自治の核心部分には国籍要件を考慮してはいけないという規範的要請が含まれる,とまではいえないだろう。この点で要請説は採れない。
他方,禁止説も支持できない。理由は,①憲法15条1項では「国民」,93条では「住民」と文言が使い分けられている,②地方自治の本旨には下からの住民自治が含まれる,③94条により条例は法律の範囲内でしか認められないから国民主権原理との決定的な背馳は生じない,という点にある。この意味で許容説が妥当である。
5.まとめ
いずれも「保障は受けない」が解答であるが,許容説が妥当する生存権や参政権(地方レヴェル)においては,いったん立法で保障を認めた場合は,その改廃について,「改廃前の水準から合理的理由なく保障が後退しないこと」という憲法上の保障が及ぶ(保護範囲の拡張がある)ことになる(ベースライン論,制度後退禁止原則)。