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【租税法】司法試験過去問検討① サンプル問題・第1問

 

新司法試験 サンプル 選択科目 租税法 第1問

 

  1.  AとBは,夫婦で飲食店(ポップ&モム)を経営している。店舗の敷地の所有権や食品衛生法の許可などの名義は,夫Aとなっていたが,材料の仕入れについては,その時々の状況により,それぞれの名義A,Bを用いて取引を行っていた。このような場合,当該飲食店(ポップ&モム)から生ずる所得はどのように課税されるか。
  2. 甲は,フランス料理店(トワエモア)を経営しており,配偶者である乙が事業に従事していた。甲は,毎月乙に対して60万円を支払っていたが,乙は,毎月,料理店の材料の仕入れのため,そこから20万円程度の支出をしていた。また,家族の食費等の生計費として30万円を支出していた。乙の受ける支払,並びに,乙が材料の仕入れのために支出する金額,さらに生計費としての支出は課税上どのように扱われるか。

 

 

【答案構成】

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【答案】

 

小問1.

 

飲食店から生ずる所得(事業所得と解される。所得税法第27条第1項)がA又はBいずれかに帰属するのか,AとB両方に帰属するのかがまず問題となる。

所得税法上の所得の帰属は,「事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者」が単なる名義人である場合,当該者ではなく,「〔その収益〕を享受する者に帰属する」(所得税法第12条)。夫婦が相互に協力して1個の事業を営んでいる場合における所得の帰属者は,その収入が何人の勤労によるものであるかではなく,何人の収入に帰したかで判断され,事業収入はその経営主体であるものに帰す(裁判例)。

当該「経営主体」概念は評価概念であり,当該概念の評価根拠事実として,事業に対する関与度,取引上の代表名義,事業に供する資産の名義,事業上の負債等のリスクの帰属などを総合考慮し,経営主体を判定するものと解される。なお,ここで夫婦間に組合契約があり,対等なパートナーとしての事業経営がなされているという明確な外観があるという事情などがあれば,共同経営で各人に所得が分属するということもありうると解される。

本件では,事業用資産である敷地の所有権はAに帰属している,食品衛生法上の許可名義がAになっているという事実は,Aが経営主体であるという評価を支える事実である。AもBも事業に必要な経費をそれぞれの計算で支出しているという事実は,共同経営としてAの経営主体という評価を障害する事実というよりは,単に本事業とA・Bの家計の分離が曖昧であるという事実にすぎず,評価中立な事実である。Aが夫であるという事実も考慮して,本件ではAが経営主体であり,当該飲食店から生ずる所得はAに帰属する。

よって当該飲食店の収入は,事業所得の計算上,Aの収入となり,A・Bがそれぞれ支出している経費は,Aの事業所得上の必要経費となる。Bが支出しているものに関しては,Aの支出をBが代行しているものと実質的に解し,収入帰属と整合させるべきである(もちろん,AがBが支出した費目についても必要経費として申告することが前提となる)。Bを当該事業への従事者(所得税法第56条)又は青色事業専従者(所得税法第57条1項)と解するのが相当である。

 

 

小問2.

 

1.乙の受ける支払は課税上どのように扱われるか

(1)甲が白色申告者の場合

「居住者と生計を一にする配偶者…がその居住者の営む…事業所得…を生ずべき事業に従事したこと…により当該事業から対価の支払を受ける場合」に該当し,乙の労働に対し受領した「対価」に相当する部分は所得税法計算上ないものとみなされ,所得税は課税されない(所得税法第56条第2文)。

本件では,飲食店トワエモアは事業に該当する(所得税法第27条第1項)。また,甲と乙は生計を一にしているものとみられ,また,甲の営む事業からAは金銭を受領している。ただし,そのうちの20万円の部分は単に仕入れ等の経費の支払のために預託された金銭であり,労働の「対価」ではないので対価相当分ある40万円のみが所得税法上ないものとみなされる。なお,20万円の部分はそもそも乙の所得に該当せず,所得税法第56条は関係がないと考える。

(2)甲が青色申告者の場合

生計を一にする親族への支払により受けた乙の所得は,給与所得に係る収入金額とされる(所得税法第57条第1項)。ここでも上記同様,20万円は単に立替えのためのTemporaryな金銭預かり分であるから所得ではなく,40万円が乙の給与所得金額となると考える。

 

2.乙が仕入れのために支出する金額は課税上どのように扱われるか

乙が支出している外観を有しているが,実質は,甲の事業上の経費を乙が立て替えているに過ぎない。そのため,上記のように乙が所得として受領している金銭は40万円にとどまると解することと平仄を合わせ,当該支出の20万円は「甲」の事業上の必要経費として課税上扱われるのが妥当と考える。これは青色申告・白色申告で取扱いに差がない。当然,甲の確定申告の巧拙により結論は変わりうるが。

 

3.生計費としての支出は課税上どのように扱われるか

これは青色申告の場合から検討するのがわかりやすい。乙が支出している生計費としての30万円の支出は,給与所得の計算上控除できるものではない(給与所得控除(所得税法第28条第2項・第3項),給与所得特定支出控除(所得税法第28条第2項・第57条の2)のいずれにも該当しない)。

白色申告の場合は,乙の所得はないものとみなされるので乙の課税上はいかなる必要経費・控除項目足りえない。問題となるのは甲の経費となるかどうかであるが,所得税法第56条をよくみると,「その親族〔本問では乙〕のその対価に係る各種所得〔本問では給与所得〕の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は,その居住者〔本問では甲〕の当該事業に係る…事業所得の金額…の計算上,必要経費に算入する」とある。とすると,給与所得の計算上,「必要経費」という概念はなく,生計費としての支出は乙の所得計算上も必要経費ではなく,その意味で甲の所得計算上必要経費として算入する前提を欠く。

なお,これは,家事関連費の必要経費不算入(所得税法第45条第1項)の話ではないことに留意が必要である。

 

4.補足

なお,上記の通り,甲が青色申告であれば,乙の所得金額である月額40万円(年額480万円が甲の当該事業年度の事業所得の計算上必要経費として控除される(所得税法第57条第1項)が,他方,甲が白色申告であれば,86万円と甲の事業所得金額の2分の1の金額の低い方の金額が,甲の当該事業年度の計算上必要経費とみなされ控除される(所得税法第57条第2項第1号イ・第2号)。この点は本問では少なくとも直接には問われていないと解される。

 

 

【出題趣旨(法務省)】

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