k's point of view

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バフェットの経営哲学⑥ 投資家が企業に提供する価値

本稿では,株主の役割と経営者がどう企業を経営し,どう株主に接するべきか,バークシャー・ハサウェイのケースをベースにして考察している。第6回。

 

 

投資家が企業に提供する価値

 

バフェットは,大株主として上場企業の経営に安定性を提供することを基本スタイルとしている。彼のような長期的にコミットする大株主が存在することにより,株主などから短期的な業績動向への圧力などのノイズの少ない非上場企業のような環境で経営をすることが可能となる。上場企業の中には実際に非上場になる企業もありますが,同じメリットをコストをかけずに享受できるのである。バフェットは,1985年にキャピタルシティーズ・ABCの大株主になった時に,あえて株式売却を制限する合意をしたのだが,その理由を次のように述べている。「このような合意があれば,一流の経営者と我々の利害は合致し,経営者は事業の運営と長期的な株主価値の最大化だけに集中することができる。この状況は,資本家に入れ替わり立ち代り「ゲーム」の対象とさせられて,経営に集中できない状況とは比べものにならない。今日,企業が不安定になっているのは,議決権付株式が広く分散保有されていることが原因である。大株主が現れると,調子の良い美辞麗句を口にすることが多いが,彼らは通常無意味な考えを心に秘めている。我々は保有する大量株式の売却を制限することを常としているが,これは安定性を高めるためだ。素晴らしい経営者と素晴らしい事業が安定性と組み合わさることによって,十分な財務上の収穫を生み出す最高の土壌が作り出される。」バフェットが述べているのは,売らない大株主がいることにより,経営者は投資家に邪魔されることなく経営に集中できるということである。これは,彼自身が議決権の33%を保有するバークシャー・ハサウェイの大株主であることに加えて,ほとんどの株主が長期株主であるという安定的な環境でこれまで持続的に優れた業績を出してきたことが影響していると考えられる。実際,英国や米国の企業の多くにおいて,ファンドが上位株主となっている一方で,種類株式の発行により創業者や創業者一族が大株主の地位を維持する企業も少なくない。

 

トヨタ自動車は持ち合いや系列という安定性に重きを置く仕組みの中で継続的に業績を拡大してきた。また,2015年には種類株式を発行することにより,長期株主の比率を高めている。一方,日産自動車は持ち合いや系列というトヨタと同じ仕組みの下で長期にわたり業績が低迷し,仏ルノーの傘下に入る結果となった。その後,新経営陣が持ち合いや系列を否定し安定性よりも競争を重視することにより,短期間で優良企業として復活した。興味深いのは,持ち合いや系列に代わり,ルノーというコミットメントの高い大株主が日産の経営に安定性を提供していることである。つまり,形は変わっても,安定性は担保されている。ルノーはバフェットとは異なり,日産に経営陣を送り込み経営に積極的に関与するが,経営に安定性を提供する大株主である点では同様である。今後,日本企業による持ち合いの解消が継続的に行われていくと考えられるが,株式市場からの牽制が強化される分,どこかで安定性を補いバランスを取る必要があると思われる。

 

バフェットは,企業の潜在能力を引き出せるようにするため,投資先の企業の経営に口を挟むことはない。買収基準の一つに優秀な経営がいることという条件があるため,その必要はないのである。バークシャー・ハサウェイ保有する全事業は,かなりの水準で自律的に経営されている。ほとんどのケースで,長期にわたり保有する主要事業の経営者は本社にあるオマハに来たことはないし,事業経営者同士がお互いに会うこともない。バークシャー・ハサウェイが事業を買収するときには,売り手は,売却前と全く同じように経営する。同社が彼らのやり方に適応するのであって,その逆ではない。 

 

自主経営であればバークシャー・ハサウェイに売却しなければ維持できるはずだが,なぜわざわざ売却をするのであろうか。それは,もちろん経営者が保有する持ち株を同社に売却することにより資金を得ることもあるが,同社の傘下に入ることにより,事業経営により集中することができ,事業の潜在能力を引き出す可能性が高まることも理由のひとつである。というのも,同社の傘下に入ることにより,CEOの業務にまつわる儀式的で非生産的な活動(取締役会,広報インタビュー,投資銀行のプレゼン,証券アナリストとの会話,資金調達,格付け,EPSの予想)から解放されることになる。

 

とはいえ,問題がないわけではなく,自主経営の行き過ぎが時に生じることをバフェットは次のように認めている。「当社の数多くの子会社には,我々の監督や監視はまったくなく,自律的に経営をさせている。そのため,経営上の問題を発見するのが遅くなったり,また相談を受けたならばチャーリーと私が反対したはずの経営上および資本上の決定がなされたりすることが時にはある。しかし,ほとんどの事業経営者は,我々が与えた独立性を堂々と使い,大組織ではめったにお目にかかれない非常に貴重な株主志向の姿勢を維持することによって,我々の信頼に報いている。息苦しい官僚制が原因となり,意思決定が遅くなったり,まったく意思決定が実行されなかったりすることから生じる多くの見えざるコストを被るよりも,いくつかの悪い意思決定という見えるコストを被るほうが良い。」

 

このような問題がありながらも,現在は約90社の企業がバークシャー・ハサウェイの傘下に入っていることを考えれば,問題点よりも利点の方がはるかに多いのだと考えられる。自主経営を認めることが買い手としての信頼につながり,さらに多くの企業が傘下に入るという好循環が生まれているのである。