k's point of view

このブログは,司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。→刑事訴訟法まとめノート・租税法まとめノートを販売しています(サイドバーのリンクをご参照ください)

バフェットの経営哲学④ IR戦略

本稿では,株主の役割と経営者がどう企業を経営し,どう株主に接するべきか,バークシャー・ハサウェイのケースをベースにして考察している。第4回。

 

 

IR戦略

 

バークシャー・ハサウェイ社は,IR部門を持たず,アナリストを情報拡散のチャネルとして使うこともなく,利益予想も提供しない。

その代わり,経営者と株主の直接的なコミュニケーションを好み,株主総会をアイデアの交換場所としている。バフェットは,株主総会で話すことは株主にとって効率的あり,またすべての参加者が同時に経営者の発言を聞くことができるという点で公平である,と考えている。

バフェットがCEOとして直接的にオープンに株主とコミュニケーションするのが同社の情報開示の基本姿勢であり,IR部門を中心に組織的に情報開示を行う大企業の仕組みとは異なる。これは,株主構成に占める長期株主の比率が高いため,短期的な業績の説明に労力を割く必要がないことに加えて,バフェットによる情報開示が投資家や株主の情報ニーズを十分に満たしていることも要因だと思われる。

 

 

バフェットによる情報開示の特徴

 

(1)業績予想を開示せずバリュードライバーの数値(内在価値を推定するのに必要な情報)を開示すること

投資家による内在価値の算出をサポートすることを指針にしている。バフェット自身が投資家であることから,バフェットは投資家が内在価値を算出する際に必要とする情報を理解している。

企業には多くの利益の源泉が存在するため,企業をセグメントに分けて,それぞれのバリュードライバーについて数値を開示することが,通常必要になる。

株主や投資家は,その情報に基づきセグメント別の内在価値を算出し,それらを合算することにより同社の内在価値を算出することが可能となる。そして,その結果に基づき株価水準が割安なのか割高なのかを判断することになる(バフェットもまったく同じ情報を活用して,同社の内在価値を算出している)。一方で,業績予想は開示しないため,予想EPSに予想PERを掛け合わせて株価予想をするような投資家にとっては同社の情報開示は都合が悪いものとなっている。

 

(2)CEOが自分の言葉で説明をすること

バフェットは投資家の視点から次のように述べている。「株主は,経営の現状とCEOによる現在と将来の事業評価についてCEOから直接聞く権利を持つと私は信じている。非上場企業であれば当然な要求であるが,上場企業にも同じことを期待するはずだ。年次のスチュワードシップに関する報告をスタッフやPRコンサルタントに任せてはいけない。彼らは経営者と株主という関係で率直に語る立場にはないのだ。」

バフェット自身も投資家の立場から,バークシャー・ハサウェイ傘下の企業のCEOに対して全く同様のことを求めており,彼らから得られた情報に基づき自分の結論をまとめ,株主に伝えている。

彼はまた次のように述べている。「本当に重要な数値と情報をアニュアルレポートにおいて株主に提供する。チャーリーと私は,当社の業績にかなりの注意を払っているし,各事業が運営される環境を理解する努力もしている。たとえば,当社の事業は追い風を受けているのか,もしくは逆風を受けているのか。チャーリーと私は,どちらの状況が優勢なのかを正確に理解し,それに合わせて見通しを修正する必要がある。我々は,自身の結論を株主に伝える。」

 

(3)公平性の高い情報開示を実践すること

大株主であろうが,著名アナリストであろうが,情報面で有利になることはない。同じ情報を同時に開示するのが,バークシャー・ハサウェイ社の方針となっている。同社は,アナリスト及び大株主に収益予想やその他の価値ある情報を提供するという一般的な慣習には従わない。同社の目標は,すべての株主が同時に新たな情報を得るようにすることである。バフェットは次のように述べている。「我々にとっては,完全な会計報告とは,30万人のパートナーに同時に情報を伝えることだ。よって,我々は年間決算と四半期決算を金曜日の取引終了時刻と翌朝の間にインターネット上に掲載する。そうすることにより,株主と当社に関心を持つ投資家はこれらの重要なリリースにタイムリーにアクセスすることができ,また月曜日の取引開始時刻の前にリリースの情報を十分な時間をかけて消化することができる。」

IR部門がなく1対1のコミュニケーションを行わないため,情報開示はインターネット上での決算資料の掲載と株主総会での直接的なコミュニケーションに限られる。IR部門の人数やホームページの美しさは関係ない。なお,2016年の株主総会は初めてインターネットでライブ中継された。総会に参加できない株主も含めて同時に情報開示をすることが実現したのである。 

 

(4)悪いニュースを早く正直に伝えること

企業が,悪いニュースについて正直に伝えることは投資家からの信頼を得るには不可欠なことである。バフェット自身も投資家として傘下の事業経営者に対し同じことを要求しており,「悪いニュースだけ教えてくれ。良いニュースは放っておけばよい」という格言を信じている。バフェットはすでに起こった悪いニュースだけでなく,今後起こりうる悪いニュースも警告として伝えている。投資家のリスク許容度によっては,そもそもバークシャー・ハサウェイの株主になることが不適切であることも考えられる。

事実,同社の保険事業は大災害に対する保険を引き受けているため,大災害が連続して発生するようなことがあれば,その収益が大幅に悪化することも考えられる。そのことを警告をしておくことにより,リスクを許容できる投資家だけが株主となるため,実際に大災害が発生して収益が大幅に悪化したとしても,株価が過度な水準にまで下落することを回避することができるのである。