k's point of view

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バフェットの経営哲学③ 財務戦略

本稿では,株主の役割と経営者がどう企業を経営し,どう株主に接するべきか,バークシャー・ハサウェイのケースをベースにして考察している。第3回。

 

 

財務戦略

 

財務戦略では株価への影響を意識しないことが重要である。配当や自社株買いなど財務戦略は株価に影響することが多いが,企業が株価を意識した行動を取れば,同様に株価を意識する投資家が近寄ってくる。価値ではなく価格を重視する株主が増えれば株主構成が悪化することになる。バークシャー・ハサウェイの財務戦略は非常に保守的だが,これは財務戦略を材料に短期的な投資をする投資家を近寄らせないことが理由の一つである。特に財務戦略は,意図せぬ誤解を生むことが多いため,一挙手一投足に気を配る必要がある。

 

バフェットは,自社の株主の一人一人が,自社が実現する一株当たりの内在価値の成長性と比例するリターンを株式保有期間に得て欲しいと考えている。これが実現するためには,自社の株式の内在価値と市場価値の関係が一定であることが必要となる。そのためバフェットは,自社の株価が高水準であることよりも公正な水準であることを望んでいる。自社の方針やコミュニケーションを通じて,株主が合理的な行動を取るように促進しており,こうした行動が結果的に株価も合理的にすることになる。このアプローチにより,他の株主の投資の失敗からではなく,会社の成長から利益を得ようとする長期的な株主を引き寄せる可能性が最大になる。

 

バフェットの財務戦略について特徴的なポイントの一つは株式分割に対する姿勢である。バフェットは株式分割に非常に否定的である。株式分割などの,事業価値ではなく株価に着目した行動を取れば,既存株主よりも質の低い買い手(新たな株主)を引き寄せることになる。分割で得をすると考えたり,分割を理由に株式に投資したりする投資家は,当社の現在の株主構成の質を確実に悪化させるとバフェットは考えている。バークシャー・ハザウェイはA種株式に関しては株式分割を行わず,その結果,株価は2006年には10万ドル,2014年には20万ドルを突破している。簡単に投資ができる株価水準ではないが,バフェットは株式分割がもたらす株主構成の質の悪化というマイナス面を重視している。株式分割により期待される流動性の改善に関しても非常に否定的であり,次のように述べている。「パートナー数人と共同で事業を行っている場合に,パートナーが共同事業から頻繁に退出することを望むならば,我々は落胆するだろう。上場企業を経営する際にも,我々は同じように考える。」

 

バフェットは株式の発行に対しても特徴的なアプローチをとる。バークシャー・ハザウェイは,1996年にB種株式という種類株を発行した。2010年1月に50分割されたため,現在では発行価格はA種株式の1500分の1,議決権は1万分の1となっている。種類株式の存在は,ガバナンスの面で望ましくないとされることが多く,バフェットも種類株式の影響は理解しているが,株式分割を回避して株主構成の質を維持するために種類株式を発行する決断をした。その背景には,同社の高水準の株価を逆に利用しようとするユニット型投資信託の販売の話が持ち上がっていたことがある。このユニット型投資信託が集めた資金がバークシャー・ハザウェイ社の株式に投資されれば,業績とは無関係に株価は一時的には上昇することになり,さらにそれにつられて信託に投資をする投資家が増えることになる。バフェットはユニット型投資信託の販売を阻止するために,(通常であれば,株式分割により株価を下げることを選ぶと思われるが,)種類株式の発行に踏み切った。この手法でも株主構成の悪化は避けられないので,さらに細心の注意を払ったのは,種類株式の発行(IPO)の仕組みであり,売り出しの規模をオープンエンド(上限がない形式)にすることにより,過小供給局面で生じる短期な価格上昇のチャンスをうかがうIPO投資家を近づけなかった。こうした工夫によりIPO直後のB種株式の出来高は,一般的な水準を大幅に下回る結果となった。