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経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

海外旅行の自由(旧司法試験 憲法 昭和61年度第1問)

【問題】
 
基本的人権の保障の限界に関しては,憲法第12条,第13条などにいう「公共の福祉」との関係において説が分かれているが,その相違を論拠とともに説明し,それと関連付けながら,海外旅行の自由の制約について,集会の自由の場合と比較して,説明せよ。』
 
 
【問題の整理】
 
問題文はやたらと修飾語が多いが,本問題のメインポイントは,「海外旅行の自由の制約(保障の限界)について説明すること」。
 
海外旅行の自由は「経済的自由か精神的自由か」「自由権の請求権的側面」の説明の軸がある。
 
さてどう料理するか。
 
 
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【回答】
 
総論
 
「海外旅行の自由とは,一時的な海外への移転の自由であり,憲法第22条第1項(何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。)の「移転」の自由として保障される。」
 
このように,文理上,移転の自由に含まれることを指摘し,国内・海外の区別なく保障される人権であることを指摘する必要がまずあると思われる。
 
次に,移転の自由の沿革・保障根拠・保障の限界(合憲的制約)について説明することが必要(「海外」の特殊性にいきなり飛びつかないこと。)。
 
(沿革)
憲法第22条第1項に規定する移転の自由は,歴史的には,職業を選択する自由の前提として,身分制の下で人を一定の土地と結び付けていた制度を廃止した結果生じたものであり,経済的自由としての側面を持つ。」
 
(保障根拠)
「しかし,上記の経済的自由の側面とともに,自ら生活の場を選択し,自由に他の地域の人々と情報や意見を交換するための条件をも保障するもので,人格の発展を基礎づける精神的自由としての側面もある。」
 
(保障の限界(合憲的制約))
「移転の自由が右のように多面的な性格を有していることから,その保障については,制約の目的に対する注意深い分析が必要になる。」
 
制約の目的が,経済的なものであれば経済的自由の側面のロジック(内在的制約のみならず政策的制約まで許容,目的二分論)で,精神的なものであれば精神的自由の側面のロジック(内在的制約まで,厳格審査)で処理するようになると思われる。そこで,一旦人権の制約事由である「公共の福祉」について考察をする必要がある。
 
 
公共の福祉の学説
 
「公共の福祉(人権保障の限界)の学説については,次のような学説の対立があり,C説が通説である。
A説 一元的外在制約説 公共の福祉は,憲法上の権利を一般的に制約する根拠となる外在的原理であるとする説。
B説 二元的制約説 公共の福祉による外在的制約が許されるのは,憲法第22条及び第29条の保障する経済的自由と,国家権力による積極的な施策を求める社会権に限られる。それ以外の自由権に関しては,「公共の福祉」ではなく,権利自由に内在する制約のみが許されるとする説。
C説 一元的内在制約説 人権相互間の矛盾衝突を調整するための公平の原理が「公共の福祉」であり,一元的に内在的制約で説明する説。憲法第12条,第13条の公共の福祉は「自由国家的公共の福祉」とされ,人権一般の制約原理となる。一方,憲法第22条,第29条の公共の福祉は「社会国家的公共の福祉」(憲法25条等の社会権規定の趣旨から)とされ,経済的自由に妥当するの制約原理となる。」
 
「海外旅行の自由は,基本的には経済的自由であり,自由国家的公共の福祉と社会国家的公共の福祉双方の制約を受ける。ただし,個別の場面で,精神的自由としての側面が強い場合,換言すると制約理由が経済的理由でない場合(海外の政治集会に出席させない理由での制約など),自由国家的公共の福祉の観点からの制約のみに服し,社会国家的公共の福祉(積極目的規制)が合憲的な制約理由とはならない(目的違憲となる)。」
  
(規範定立)
「海外旅行の自由を制限する場合,他人の人権を保護する目的ではなく社会経済の発展などの政策的目的を達成するための制限は,それが主として経済的規制となっている場合のほかは許容されない(憲法第22条1項の「公共の福祉」は,移転の自由が政策的制約に服する場合もあるということを明示したものである。)。そのため,制限されている自由が具体的に専ら経済的側面を対象としているかどうか,対象となる人の行為の目的・客観面や政府の規制の目的が専ら経済的側面を目的としているか精神的側面を目的としているかどうか,という複合的観点から,制限されている自由の内容・制限の目的を分析した上で,政策的目的による制限の可否を判断することになる。」
 
海外旅行の自由は移転の自由一般に対して,何か特殊な点があるか,検討し説明する必要がある。
 
「現在,海外旅行は,パスポートの発給を受けなければできない法制度となっており,また,外務大臣が,著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者について,パスポートの発行を拒否できるようになっている。この制約が合憲かが海外旅行の自由の制約に関して問題となる。」
 
 
旅券法の許可規定の合憲性
 
(法令の合憲性)
「まず旅券法の許可規定の合憲性について判断する。上記から,当然,移転の自由一般と同様,経済的自由の側面があるため政策的制約に服する場合がある。また,日本政府の保護を受けあるいはそれを期待しつつ一時的に海外へ旅行する自由は,一般の移転の自由と性格を大きく異にしており,人の生まれながらの自由としての性格とは異なる部分がある。旅券法の規定は海外旅行の自由の広範な制限になり,また,外務大臣の裁量も認められ,人権制約の程度が高い特殊な規制態様となっているが,合理的な制限であり,旅券法の規定が法令として違憲とはいえない。」
 
(法令の適用の合憲性)  
「ただし,たとえ旅券法の規定が法令として違憲とはいえないとしても,海外旅行の自由が持つ重要性(精神的自由の側面)を考慮するならば,個別事例において,外務大臣の裁量逸脱を認めるべき場合が存するものと思われる。たとえば,ビジネストリップではなく,海外での講演活動・政治集会への出席のための海外旅行であれば,精神的自由としての側面が濃厚で,内乱・外患の蓋然性が客観的に存在し,日本国の利益又は公安を著しく害する場合に当たる場合(内在的制約,憲法第12条,第13条の「公共の福祉」)を除き,その旅券発給拒否は旅券法の適用上違憲となる。」
 
 
集会の自由との比較 
 
「集会の自由は市民会館等の公共用物を使用して実現することが多く,自由権であるとともに場所の提供を求めるという請求権的側面を有している。海外旅行の自由も同じように,現地の大使館や条約に由来するの一定の特別な保護を受けながら,日本の警察力の及ばない海外でも,「日本国民」ということで特別に安全で快適な旅行を図ることができ,一部請求権的側面を有するという点で共通している。しかし,集会の自由が精神的自由の核心の一つであり,明白かつ現在の危険で制約の合憲性がテストされるのとことなり,海外旅行の自由は「国益」という観点から外務大臣の専門的判断の裁量にゆだねられる人権という点では異なる。」

 

まとめ
 
「経済的自由か精神的自由か」 → 制約事由の許容範囲の問題
自由権の請求権的側面」 → 行政庁の要件裁量の範囲の問題
 
 

【参考文献】

伊藤正己「居住移転の自由」の論文は非常に明晰で,一読の価値があります。

 

 

法律学講座双書 憲法

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司法試験論文本試験過去問 憲法

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