k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

製造業におけるセル生産方式に関する考察

 日本のモノづくりが重大な危機にさらされている。

 

 日本の輸出の9割は製造業が担っており、製造業の付加価値は全産業の4分の1を占めている。この製造業が中国を中心としたアジアへ進出し、国内産業の空洞化が懸念されている。量産型の汎用製品については、人件費の安い中国などとの競争の帰趨は目に見えている。

 

 しかし、高付加価値製品や多様な顧客ニーズによる受注型製品の生産では日本のものづくりの競争力は決して弱体化していない。日本の製造業には長年にわたって積み上げてきた世界に冠たる生産技術、生産方式、生産管理、品質管理などがあるが、本記事では特に日本発のセル生産方式に注目したい。

 

 

サマリー

セル生産方式の創成経緯

・これまでの生産方式に勝る特徴

・メリットと課題

・その他各種セル生産方式の現況

 

 

1.生産方式の変遷と生産革新

 

(1) 生産方式の変遷

 

 20世紀、アメリカの自動車業界で画期的な生産方式として注目されたのがフォード生産方式であった。それまでの自動車メーカーでは、個別注文による少量生産によって高価な車を生産し、工場作業者には低賃金を支払うことによって巨額の利益を獲得していた。これに対して、フォード社は3S(単純化、専門家、標準化)の徹底とベルト・コンベア法を採用することにより、単一車種の大量生産により、顧客に低価格で車を提供し、工場作業者には高賃金を支払うという難題を見事に克服したのであった。

 

※フォード生産方式はつくれば売れた大量生産時代の、また少品種生産の時代には抜群の生産性向上を示したが、多品種少量生産の時代に入ると大量のムダが発生し生産性は低下することとなった。加えて、ベルト・コンベア方式による時間強制的生産方式は労働者に多大のストレスと人間性疎外をもたらした。

 

 次に,ボルボ社で70年代初頭にカルマー工場で導入した「カルマー生産方式」が世界の注目を集めた。そこではチームの作業員は自分を電気系統、機器系統、運転・制御系統、仕上げ、内装など各部門の専門家と感じることができた。六角型が組み合わされた形の工場内部では、自分達の作業場以外にもチームごとに休憩所が設置され、時間内で所定の作業が終了すればそこで自由にリラックスできるようになっており、チームへの帰属意識も高まる設計になっていた。チームの編成はそれぞれのメンバーに任されており、経営首脳部の指示や職長の命令もなく、職長はむしろ相談役、教師であった。


※この生産方式は、約15人ずつに分かれた25の作業チームで構成されており、作業員各人の職務は拡大され、伝統的なコンベア組立方式を廃して、これに代わるプラットフォームのような台車(キャリア)が利用され、作業者は人間工学的に無理のない姿勢で作業を行うことができるものであった。

 

 この流れを継ぐかたちで85年にはウッデバラ工場で人間性と生産性を同時に高めるよう設計されたウッデバラ生産方式が導入された。作業における労働の人間化、人間性の向上には成功したが、生産性の向上には見るべきものがなかったカルマー工場の失敗を教訓として、人間性ばかりでなく生産性も向上できる生産方式の導入が期待されたのである。しかし、この工場も、自律性を持った小規模チームでの組立や欧州向け製品の計画生産から受注生産への変更などでは成果がみられたが、職人スタイルとの批判があり生産性の向上面では期待に十分応えることができず結局92年には閉鎖されている。

 

※ウッデバラ生産方式では労働の人間化の面では優れた成果がみられたが、生産性の面では、とくに大量生産を前提とした生産性の向上というよりは少量生産を前提とした職人仕事となってしまった。ウッデバラ生産方式の場合、生産性面での明確な向上データが得られないまま工場閉鎖となっている。

 

 一方、カンバン方式を導入したトヨタ生産方式の場合はどうであったか。カンバン方式JIT生産方式(欧米ではリーン生産方式)ともいわれるが、カンバン方式は小ロット生産、全社的品質管理(TQC)などと同様、JIT 生産方式を構成する一つのサブシステムとして位置づけられる。カンバン方式とは「必要なモノが必要な時に必要なだけ指定の場所に供給されるシステム」。あらゆる種類のムダを廃し、作業能率を大幅に改善しようとする生産方式である。

 

 カンバン方式は「事前に決められた生産計画に従って見込みで各工程の部品を生産するのではなく、必要な時に部品を使う後工程が部品をつくる前工程に必要な数の部品を取りに行く生産方式」である。つまり、MRP(資材所要量計画)のような見込み生産計画に従って生産するのではなく、1つ注文が来たら最終工程で製品を1つだけつくるいわゆる「一個流し」の思想である。

 

 JIT 生産方式の経営目標としては、「ゼロ在庫」、「高品質」および「高生産性」が挙げられる。これら3つの経営目標は三位一体の関係にあり、それらの目標を達成するための経営原理がジャスト・イン・タイムである。つまり、まさに必要な時に、必要な部品・製品を必要な数だけ生産し、供給するという原理である。

 

 この原理を実現するためには生産ロットを切り替える際の段取り時間の削減が不可欠になる。この前提があってはじめて小ロット生産が可能になり、カンバン方式TQC も効果的に機能することになる。小ロット生産のもとでは、少量の部品が必要な時に必要な数だけつくられ(究極は1個流し)、次の工程に引き渡されるから、つくりすぎのムダ、在庫のムダをはじめさまざまなムダは発生せず、不良品も直ちに発見される。その不良品は直ちにそれをつくった工程にフィードバックされその原因が探求され、再発防止の手が打たれる。これはJIT 生産方式のサブシステムであるTQC と連動して徹底的に不良率の低減が行われる。

 

 JIT 生産方式の優位性として上げられるのがフレキシブル・マーケティングの効果である。つまり、この生産方式は現代の消費者ニーズの多様化に対応するために必要な多品種少量生産や変種変量生産を、大量生産の場合に劣らない低コストで可能にするからである。

 

 このようなカンバン方式を中核とするJIT 生産方式は、今や自動車業界にとどまらず組立作業を行う多くの業界で採用されると同時に、国内だけでなく欧米、アジアの諸外国でも多くの企業によって実施されている。

 

 

(2) JIT生産方式の課題

 

 JIT 生産方式の場合、既述のようにカンバン方法の導入により生産性の向上や品質面では高い成果を示したといえよう。しかしながら、大野耐一氏自身が究極の生産性向上の切り札として構想したベルト・コンベアの撤廃までには進んでいない。さらに、JIT システムのサブシステムである全社的品質管理における「全社的」の意味は品質改善のための品質管理担当部門だけでなくすべての関連部門(下請・関連企業も含めて)ですべての人が協力し(全員参加)、さらにモノをつくる現場の作業者自身が品質管理に直接の責任を有するのであり、現場に頭をかえす「現場責任」である。

 

 このため、工場現場では周知の通り従業員が品質管理活動を自主的に組織・運営する小グループからなる「QC サークル」がつくられており、いわゆる7つ道具といわれるQC 手法を活用して職場の管理・改善を継続的に全員参加で行っている。人間性向上の面では、このQC サークル活動は、行動科学で強調される人間の最高次の欲求である自己実現欲求や創造欲求を実現する手段ともなり、労働生活の質(QWL)を高揚させることにも繋がると考えられる。

 

 しかし、コンベアの撤去が行われない以上、フォードシステムに伴う時間強制性からの開放は達成できず、場合によっては作業改善が労働強化に繋がることも否定し得ない。また、この生産方式は全社的とはいってもどちらかといえば生産現場中心、セット・メーカー本位の生産方式であって、ある意味では下請け・関連メーカーの犠牲の上に成立している生産方式といえるであろう。例えば、下請けメーカーはジャスト・イン・タイムの配送を行うために多頻度配送を行わなければならず、その経費は下請持ちである。またそのための倉庫も必要となる。

 

 

2.セル生産方式

 

(1) セル生産方式とは

 

 セル生産方式とは、90年代初頭、それまでのJIT生産方式に代わって出現した(しかし根源はJIT 生産方式にある)、ベルト・コンベアを部分的あるいは全面的に撤廃した生産方式であり、一人ないし数人の作業者が一つの製品をつくり上げる自己完結性の高い自律分散型の生産方式である。多品種少量生産や変種変量生産に適している。

 

 

(2) セル生産のメリット

 

 セル生産方式は、最終的にはベルト・コンベアを撤去した生産方式であるが、かといってフォード以前の手作業への回帰を意味するものではなく、テイラーの科学的管理法、フォード生産方式、ウッデバラ生産方式、JIT 生産方式の各メリットを吸収し、さらにグループテクノロジーやサプライチェーン・マネジメント(SCM)の概念を取り入れたLCA(Low Cost Automation)の生産方式である。この生産方式は受注組立生産を前提とし、生産現場は重視するがセット・メーカー本位の生産方式ではなく顧客本位の生産方式である点に特徴がある。

 

セル生産から得られるメリット
①生産量の増減への機敏で柔軟な対応
 例えば、品種の変動については一人方式のセル採用により、また量の変動については巡回方式のセル採用によって両方の増減に対応できる。
②在庫(製品在庫、仕掛在庫)の大幅削減
 製品在庫については、常時在庫補充が可能になるため在庫を持たなくてもよい。またセル生産では各工程間が完全に連結しているので仕掛在庫も工程間に発生しない。
③生産性の向上
 ムダな作業の削減、生産量増減に対するタイムリーな対応、作業員の士気高揚など各種メリットに加えて作業編成効率の向上、停滞時間減少による手待ち時間の減少、段取り時間の削減等により生産性は向上する。
④生産リードタイムの短縮
 作業工程間が連結しているため停滞時間は削減されリードタイムは短縮される。
⑤作業者の士気の高揚
 受け持つ組立部品数が増加し責任も大きくなるが、「自分達のライン」という意識が芽生え、モチベーションは高まる。また,モノ作りの全工程を担当するため、自分の作業が全体の中でどのような位置を占め、どのような機能や役割を果たしているかを理解することができる。セル生産は、JIT 生産で採用されたQC サークルを併用することによりさらに高い労働生活の質を実現することになる。
⑥品質意識の高揚と不良率の低減
 作業の標準化、多能工化を進めた上で、作業員の士気が高揚すれば品質意識は高まり、不良率は低減する。
⑦設備投資の軽減
 セル生産の特徴はLCA であり、一部の検査設備や器具等を除いては大型設備や大型投資を必要としない。

 

 

(3) セル生産実施上の課題

 

セル生産を実施する場合に克服すべき課題
①作業者個人の技量の差が出る
 作業者の熟練度、多能工度、士気の程度によって作業速度や生産性が異なる。そのため作業速度については、ある程度のセル規制をかけて目標を達成する必要性も出てくる。しかし、この規制のかけ方については、作業者の自由度との関連で士気を下げさせないよう注意することが重要である。
②過大な責任はストレスになる
 セル生産では受け持つ組立部品数が増大し、各作業者に対する責任も増大する。ある程度の責任増大はヒトのモティベーションを高めさせるが、その責任が過大になり過ぎると返ってストレスになり、不良品等の増加をもたらすことにもなりかねない。
③より多くの多能工が必要になる
 セル生産は自己完結性の高い自律分散型の生産であるため,多くの作業者の多能工化が必要である。特に一人方式では多能工というよりも全能工的技能が要求される。
④高価な設備をラインに設置しにくい
 大規模な設備投資を削減したLCAセル生産の基本であるが、場合によっては高額な検査機器や解析機器などが必要となる。そのような場合、必要とされる機器の機能を重要ポイントに絞り込み、多機能機器でなくより安価な単機能機器を組み合わせるなどの工夫が必要となる。
⑤周囲の説得に時間がかかる
 JIT 生産でもコンベアは撤去できなかった。それに加えて一個流し、在庫ゼロ生産、自己完結性の高い自律分散型生産を生産現場に理解してもらうことは難しい。

 

 

(4) 各種セル生産の現況

 

 セル生産方式多能工化された少人数の作業員で編成される生産方式の総称でもある。名称としては長浜キヤノン(キヤノン子会社)、松下電器産業宇都宮工場、NEC長野工場、さらにはソニー岐阜県美濃加茂工場では単にセル生産といっているが、例えば、「デジタル屋台生産」(ローランド・ディージー、浜松市)、「多能工ライン」(ソニーイーエムシーエス株式会社幸田テック)、「一人生産ライン」(東芝青梅工場)等数多くの名称が使われており、またソニー白石工場の「ダイヤグラム生産」や日産車体湘南工場の「モジュール化生産」にもセル生産の考え方が導入されている。これらの例に見られるようにセル生産は基本的にはヒトに依存した生産形態であるため、大きな重量物や部品が多い製品の加工や組立にはセル生産の採用は困難があるといわれており、電気・電子機器や精密機械などの産業分野で多く採用されているが、自動車産業での採用企業は少ないのが現況である。ここでは2社のケースを取り上げてみよう。


キヤノンのケース
 98年、キヤノンでは周辺機器事業部の製品であるレーザービームプリンターのインクカートリッジなどの生産を手がけている子会社、長浜キヤノンからセル生産による生産革新が始まった。まずセル生産を正式に導入する前に、「間締め」から取り組んだ。
 間締めは、工程のレイアウトを見直し、作業者間の間隔を縮め、仕掛品の受け渡しに伴うムダな動作をなくすことである。次の段階で主用部品であるレーザースキャナユニットの20メートルのベルト・コンベアラインのセル化を実験した。ところがベルト・コンベアに慣れていた現場従業員は柔軟な生産スピードに戸惑ったり、間締めによって作業現場が狭くなったことに対する不満が高じて生産性は却って低下してしまった。
 しかし、この現場の混乱を解決したのは自主的な改善活動に目覚めた女性従業員達であった。自分達のペースで作業ができるので手足の動かし方、作業の順番などの作業内容を自分達で改善した。設備や治工具もセルに適したものをつくり出した。そしてチームとして最良な方法を標準化していった。こうしてチームとしての連帯感が生まれ、他チームとの競争意識も高まった。モノの移送には手押し台車を使い99年には組立ラインのベルト・コンベアは完全に消滅した。
 このように長浜キャノンではいきなり工場全体の組立ラインのセル化に取り組むのではなく規模の小さなラインのセル化からスタートし、そこで中間在庫の削減やスペースの節約、そして生産性の向上という目に見える効果を上げることで工場全体への普及を促したのである。その後、カメラの大分キヤノン、化成品のキヤノン化成、インクジェットプリンターキヤノン福島工場などへと次々と普及し、2002年末現在、国内17工場、海外11工場でセル生産方式を導入している。また同時に取引先の部品メーカーにも導入を勧めている。セル生産といえばキヤノンといわれるほどその後も劇的な効果を上げている。

 

松下電器産業のケース
 松下電器産業の宇都宮工場はデジタルテレビの生産拠点であり、松下最後のブラウン管(CTR)テレビ工場である。同工場では2002年6月からチューナー、STB、CATVとカテゴリー別にセル生産を導入した。セル生産への移行に際して、旧来の長い製造工程を自動機、人手、画面調整、検査の4つのブロックに分けて、ブロックごとにセル生産を導入している。テレビの組立工程と画面調整・検査工程まで240メートルあった長い生産ラインを32メートル(16メートル往復)のミニライン一箇所に集約させ、間締めを行った。
 同工場では現在、機種の変動、数量の変動に対応するため、次の3つの生産ラインをうまく組み合わせて、大量生産にも変種変量生産にも対応できる柔軟な生産体制を築いている。
1) 生産ラインを徹底的に間締めし、少量生産に対応できるミニライン
2) 量産機種の生産変動にもリニアに対応できるロットMIX ライン
3) 自動機を活用した変種変量生産に対応できるライン
 ミニラインで小ロット向けの生産変動に対応し、大ロット向けの機種変動ではロットMIX ラインで対応する。ロットMIX ラインでは従来の大ロットでダンゴ状に連続生産する方式から販売で売れた部分だけをできるだけ速く補充し、毎日生産割合をリニアに調整しながら、全機種を連日生産する「日々全機種生産」に切り替えている。しかし、このラインでは変種変量生産には十分対応できないので、自動機と人手をうまく組み合わせ機種と量の変動に対応するセル生産を行っている。
 同工場でもいきなり全面的にセルラインに移行するのではなく、これら3つのラインをうまく組み合わせ、セル生産が市場変化や生産変動にどれだけ有効か、その成果を検証しながら推進している。同社では国内工場が今後生き残る条件として、①開発工場、②柔軟対応工場、③マザー工場の3つを挙げている。

 

 

3.セル生産方式の本質

 

(1) 受注生産方式

 

 セル生産方式の一大特徴は、見込み生産ではなく受注生産である。見込み生産(Make to Stock: MTS)は在庫を前提とした生産であり、四半期、月次、週次などで予想を前提に生産を行う。これに対し受注生産は顧客からの確定受注をもらってから生産を開始する生産である。

 

・受注生産方式は受注と生産のタイミングの差によって、4種類に分類できる。

①仕様組立生産(Configure to Order: CTO)
 予測で仕掛品を生産、在庫しておき確定受注後、組立生産を行い出荷する。
②受注組立生産(Build to Order: BTO)
 予測で原料・資材・部品を調達しておき、確定受注後、加工・組立生産を行い出荷する。
③受注生産(Make to Order: MTO)
 生産活動のすべてが確定受注後動き出す。受注後に生産計画を立て、資材を調達し、加工・組立を行い出荷する。
④受注設計生産(Design to Order: DTO)
 確定受注後、製品を設計し、その後生産計画を立てて、資材を調達し生産を開始する。仕様組立生産(CTO)では仕掛在庫が発生するし、受注設計生産(DTO)は特殊品や特注品などが中心になろう。マス・カスタマイゼーションを前提にした標準化製品を対
象にする場合、BTO かMTO を目指すべきであろう。

 

 BTOやMTOは基本的には在庫を持たない「無在庫生産」・「低在庫生産」である。そして最終的には顧客の多様なニーズ、仕様に応じながら、顧客満足を高めようとする生産のやり方である。JIT 生産方式も受注生産を前提とするがメーカー側のそれもセット・メーカー本位の生産を強調するものである。セル生産方式での受注生産では顧客満足の向上を最終目標としている。ムダの徹底排除によるコスト削減や生産効率の向上もこの一点にある。


 しかし、いずれの受注生産方式への移行についても、生産リードタイムや運搬時間の大幅な短縮、情報処理や調達リードタイムの短縮、段取り時間の短縮、在庫管理精度の向上、サプライヤーによる多頻度納品システムの構築などクリアすべき課題は多い。

 


(2) 顧客本位の生産方式

 

 90年代以降の経済・経営・市場における環境変化は少しずつ、日本的経営の優位性であったJIT 生産方式を色褪せさせてきたといえるかもしれない。これに影響を与えた要因として、市場の一層のグローバル化・オープン化、顧客の多様な要求に応じるマス・カスタマイゼーションの進展、製品のコストダウン重視から顧客価値重視・顧客満足の極大化への転換、モノづくりでの現場本位の部分最適化からサプライチェーン全体の最適化、系列による閉鎖的取引から系列関係を超えたオープンな取引への流れなどがある。


 このような変化に対して、JIT 生産方式にいくつかの欠点が目立つようになっている。つまり、①それは生産現場重視という「部分最適化」でしかなく、サプライチェーン全体の最適化ではない、②セット・メーカー主導のモノづくりであり、下請企業、ディーラーなどの立場や要求が十分に反映されていない、③系列取引のような閉鎖的で透明性に欠ける取引がある、④無在庫といってもセット・メーカー本位であってサプライチェーン全体の在庫圧縮・コスト削減に必ずしも繋がっていない、⑤ITの発想や仕組みを重視しなかったのでその取り組みに遅れた、などを挙げることができる。

 

 JIT 生産方式を超えるものとしてセル生産方式が出現したものと捉えることができるが、最大の特徴は顧客本位の生産方式つまり顧客満足最大化の生産方式であることである。それはJIT 生産方式よりも徹底したMTO やBTO といった受注組立生産方式にあるといえる。それはセット・メーカー主導のビジネスモデルではなく顧客からの注文がすべての起点となる顧客主導のビジネスモデルである。


 さらにマス・カスタマイゼーションの時代において市場競争に打ち勝つには機敏な経営が要求される。製品企画・開発でのアジルな競争要件は顧客満足を高める製品設計能力であり、生産段階では顧客一人一人の多様な注文に応じられる製品供給能力であり、調達段階では部品・資材等のJIT 調達である。販売段階では顧客の多様な注文に基づいて顧客価値を最大化する価値創造能力であり、物流段階では顧客が要求する納期までに確実に配送できる能力である。

 


(3) SCM 重視の生産方式

 

 このようにみてくるとMOT 革新としてのセル生産方式の展開では、生産現場だけの、あるいはセット・メーカー主導の部分最適の生産方式ではなく、もっと広くてオープンなサプライチェーン全体を対象とする全体最適化の経営(SCM)が重視されることになる。それはセット・メーカー、サプライヤー、ディーラー、物流会社のすべてを巻き込み、企業間や業種間の壁を乗り越え、注文から納品、資金回収に至るまでの一連の活動を継ぎ目なく繋げた一つのシステムである。


 SCM はメーカーの理想である受注組立生産方式を実現する手法でもある。それは具体的には、サプライチェーン全体を対象とした活動で、まずムダの徹底排除から始め、次に在庫削減、リードタイム短縮、コスト削減に取り組み、最終的には価格、納期、品質、サービスなどの面で顧客ニーズを十分に満たして顧客満足度の向上を可能にするものである。特にメーカーにとっては、在庫のムダ、つまり過剰在庫は不良在庫を生じさせ、結果的にトータルコストを上昇させるため、過剰在庫を最小化させ、在庫回転率を上げることが狙い目となる。また過剰在庫をなくすことがコスト削減のみならず納期短縮、リスク回避、顧客満足度の向上にも繋がるものである。


 企業のグローバル化やオープン化に向けて、従来の系列取引を超えて、国内のみならず、海外も含めた世界最適の調達や生産が行われるようになってきた。今日、日本企業が国際競争に勝ち抜くにはグローバルなサプライチェ―ンの形成が必要であり、世界のメーカー、サプライヤー、ディーラー、物流会社との緊密なコラボによって顧客価値創造のための強力なグローバルSCM を構築することが重要性を増している。

 


まとめ


 製造業がアジア企業との競争力を高め、国内で生き残るためには何が必要か。

 

 (U 字型カーブ)である。これによれば。この法則は今やパソコン業界のみならずほとんどの製造業に当てはまるであろう。


 この点,「スマイルカーブ」にいち早く気づいた米国のハイテク産業は、自社の経営資源を付加価値の高い上流部門と下流部門に集中させ、付加価値の低い組立・生産部門を売却したり、アウトソーシングしたり、海外移転して水平分業型のモノづくりに切り替えている。日本の製造業でもこれに倣って、組立・生産部門を中心として生産拠点をソレクトロン(米)などのEMS(Electronics Manufacturing Service)に売却したり、外部委託したり、中国や東南アジアに工場を移転させる企業がみられる。

 

※スマイルカーブ:一番付加価値が高くて儲かるのは上流の設計・開発部門と下流の販売・サービス部門であり、一番付加価値が低くて儲からないのは中流の組立・加工部門だという事実


 確かに、量産型の汎用製品に限ってみれば、人件費や部材費が高い日本国内で生き残ることは無理かもしれない。しかし、日本には設計・開発から部品・材料の調達、そして加工・組立、販売・サービスに至る垂直統合型のモノづくりの伝統の中で、自前の技術とノウハウを蓄積し、ムダを徹底的に省き、良品質の製品を安く、速く顧客に届けることで競争優位を確立してきた実績がある。そこで今後は付加価値の高い日本でしかつくれない受注型あるいは多品種少量型、変種変量型の製品を、どこよりも速く開発・試作・生産・市場投入することが競争優位を確立する方法と考えられる。

 

 

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