k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

司法試験過去問・憲法・平成21年度・遺伝子治療研究

[公法系科目](平成21年度)

 

〔第1問〕(配点:100)


遺伝子は,細胞を作るためのタンパク質の設計図である。人間には約2万5000個の遺伝子があると推測されている。遺伝情報は,子孫に受け継がれ得る情報で,個人の遺伝的特質及び体質を示すものであるが,その基になる遺伝子に係る情報は,当該個人にとって極めて機微に係る情報である。遺伝子には,すべての人間に共通な生存に不可欠な部分と,個人にオリジナルの部分とがある。もし生存に不可欠な遺伝子が異常になると,細胞や体の働きが損なわれるので,その個体は病気になることもある。既に多数の遺伝子疾患が知られており,また,高血圧などの生活習慣病や癌,そして神経難病なども遺伝子の影響を受けることが解明されつつある。

 

遺伝子治療とは,生命活動の根幹である遺伝子を制御する治療法であり,正常な遺伝子を細胞に補ったり,遺伝子の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。遺伝子治療の実用化のためには,動物実験の次の段階として,人間を対象とした臨床研究も必要である。遺伝子治療においては,まず,当該疾患をもたらしている遺伝子の異常がどこで起こっているかなどについて調べる必要がある。それを確定するためには,遺伝にかかわるので,本人だけではなく,家族の遺伝子も検査する必要がある。遺伝子治療は,難病の治癒のための新たな可能性を有する治療法ではあるが,安全性という点でなお不十分な面があるし,未知の部分もある。例えば,治療用の正常な遺伝子の導入が適切に行われないと,癌抑制遺伝子等の有益な遺伝子を壊すことがある。さらに,遺伝子という生命の根幹にかかわる点で,遺伝子治療によって「生命の有り様」を人間が変えることにもなり得るなど,遺伝子治療それ自体をめぐって様々なレベルで議論されている。

 

政府は,遺伝子を人為的に組み換えたり,それを生殖細胞に移入したりして操作することには人間を改造する危険性もあるが,研究活動は研究者の自由な発想を重視して本来自由に行われるべきであることを考慮し,研究者の自主性や倫理観を尊重した柔軟な規制の形態が望ましいとして,罰則を伴った法律による規制という方式を採らなかった。2002年に,文部科学省及び厚生労働省が共同して,制裁規定を一切含まない「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(2004年に全部改正され,2008年に一部改正された【参考資料1】。以下「本指針」という。)を制定した。こうして,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)について研究者が遵守すべき指針が定められ,大学や研究所に設置される審査委員会で審査・承認を受けた後,さらに文部科学省厚生労働省で審査・承認されて研究が行われている。


2009年に,国立大学法人A大学医学部B教授らのグループによる遺伝子治療臨床研究において,被験者が一人死亡する事故が起きた。また,遺伝子に係る情報の漏洩事件も複数起きた。そこで,同年,Y県立大学医学部は,「審査委員会規則」を改正し,専門機関としてより高度の倫理性と責任性を持つべきであるとして,遺伝子治療臨床研究によって重大な事態が生じたときには当該研究の中止を命ずることができるようにした【参考資料2】。さらに,同医学部は,「遺伝子情報保護規則」【参考資料3】を新たに定め,匿名化(その個人情報から個人を識別する情報の全部又は一部を取り除き,代わりに当該個人情報の提供者とかかわりのない符号又は番号を付すことをいう。)されておらず,特定の個人と結び付いた形で保持されている遺伝子に係る情報について規律した。当該規則は,本人の求めがある場合でも,「遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報」以外の開示を禁止している。その理由は,すべての遺伝子に係る情報を開示することが本人に与えるマイナスの影響を考慮したからである。また,当該規則は,被験者ばかりでなく,遺伝子検査・診断を受けたすべての人の遺伝子に係る情報を第三者に開示することを禁止している。その理由は,その開示によって生じるかもしれない様々な問題の発生等を考慮したからである。


Y県立大学医学部の,X教授を代表者とする遺伝子治療臨床研究グループは,2003年以来難病性疾患に関する従来の治療法の問題点を解決する新規治療法の開発を目的として,動物による実験を行ってきた。201※年に,X教授のグループは,X教授を総括責任者とし,本指針が定める手続に従って,遺伝子治療臨床研究(以下「本研究」という。)を実施することの承認を受けた。X教授は,難病治療のために来院したCを診断したところ,Cの難病の原因は遺伝子に関係する可能性が極めて高いと判断した。Cは成人であるので,X教授は,Cの同意を得てその遺伝子を検査した。さらに,X教授はCに,家族全員(父,母,兄及び姉)の遺伝子も検査する必要があることを説明し,その家族4人からそれぞれ同意を得た上で,4人の遺伝子も検査した。その結果,Cの難病が遺伝子の異常によるものであることが判明した。X教授は,動物実験で有効であった遺伝子治療法の被験者としてCが適切であると考え,Cに対し,遺伝子治療を行う必要性等,本指針が定める説明をすべて行った。説明を受けた後,Cは,本研究の被験者となることを受諾する条件として,自己ばかりでなくその家族4人の遺伝子に係るすべての情報の開示をX教授に求めた。X教授は,Cの求めに応じて,C以外の家族4人の同意を得ずに,C自身及びその家族4人の遺伝子に係るすべての情報をCに伝えた。Cは,本研究の被験者になることに同意する文書を提出した。

 

Cを被験者とする本研究が実施されたが,その過程で全く予測し得なかった問題が生じ,Cは重体に陥り,そのため,Cに対する本研究は続けることができなくなった(その後,Cは回復した。)。


Y県立大学医学部長は,定められた手続に従い慎重に審査した上で,X教授らによる本研究の中止を命じた。その後,この問題を契機として調査したところ,「遺伝子情報保護規則」に違反する行為が明らかとなった。任命権者である学長は,X教授によるCへのC自身及びその家族4人の遺伝子に係る情報の開示が「遺伝子情報保護規則」に違反していることを理由に,X教授を1か月の停職処分に処した。

 


〔設問1〕

 

X教授は,本研究の中止命令(注:行政組織内部の職務命令自体の処分性については,本問では処分性があるものとする。)の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。

 

そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べなさい。

 

 

〔設問2〕

 

X教授は,遺伝子に係る情報の開示(注:個人情報に関する法令や条例との関係については,本問では論じる必要はない。)に関する1か月の停職処分の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。

 

そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べなさい。

 

【参考資料1】
文部科学省厚生労働省遺伝子治療臨床研究に関する指針」平成14年3月27日(平成16年12月28日全部改正;平成20年12月1日一部改正)(抄録)
第一章 総則
第一 目的
この指針は,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)に関し遵守すべき事項を定め,もって遺伝子治療臨床研究の医療上の有用性及び倫理性を確保し,社会に開かれた形での適正な実施を図ることを目的とする。
第二 定義
一 この指針において「遺伝子治療」とは,疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること及び二に定める遺伝子標識をいう。
二 この指針において「遺伝子標識」とは,疾病の治療法の開発を目的として標識となる遺伝子又は標識となる遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与することをいう。
三 この指針において「研究者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する者をいう。
四 この指針において「総括責任者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する研究者に必要な指示を行うほか,遺伝子治療臨床研究を総括する立場にある研究者をいう。
五~九 (略)
第三~第五 (略)
第六 生殖細胞等の遺伝的改変の禁止
人の生殖細胞又は胚(一の細胞又は細胞群であって,そのまま人又は動物の胎内において発生の過程を経ることにより一の個体に成長する可能性のあるもののうち,胎盤の形成を開始する前のものをいう。以下同じ。)の遺伝的改変を目的とした遺伝子治療臨床研究及び人の生殖細胞又は胚の遺伝的改変をもたらすおそれのある遺伝子治療臨床研究は,行ってはならない。
第七 適切な説明に基づく被験者の同意の確保
遺伝子治療臨床研究は,適切な説明に基づく被験者の同意(インフォームド・コンセント)が確実に確保されて実施されなければならない。
第八 (略)
第二章 被験者の人権保護
第一 (略)
第二 被験者の同意
一 総括責任者又は総括責任者の指示を受けた医師である研究者(以下「総括責任者等」という。)は,遺伝子治療臨床研究の実施に際し,第三に掲げる説明事項を被験者に説明し,文書により自由意思による同意を得なければならない。
二 同意能力を欠く等被験者本人の同意を得ることが困難であるが,遺伝子治療臨床研究を実施することが被験者にとって有用であることが十分に予測される場合には,審査委員会の審査を受けた上で,当該被験者の法定代理人等被験者の意思及び利益を代弁できると考えられる者(以下「代諾者」という。)の文書による同意を得るものとする。この場合においては,当該同意に関する記録及び同意者と当該被験者の関係を示す記録を残さなければならない。
第三 被験者に対する説明事項
総括責任者等は,第二の同意を得るに当たり次のすべての事項を被験者(第二の二に該当する場合にあっては,代諾者)に対し十分な理解が得られるよう可能な限り平易な用語を用いて説明しなければならない。
遺伝子治療臨床研究の目的,意義及び方法
遺伝子治療臨床研究を実施する機関名
遺伝子治療臨床研究により予期される効果及び危険
四 他の治療法の有無,内容並びに当該治療法により予期される効果及び危険
五 被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意しない場合であっても何ら不利益を受けることはないこと。
六 被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意した場合であっても随時これを撤回できること。
七 個人情報保護に関し必要な事項
八 その他被験者の人権の保護に関し必要な事項
(以下略)

 

【参考資料2】
Y県立大学医学部「審査委員会規則」
第1条~第7条 (略)
第8条 医学部長は,被験者の死亡その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたときは,総括責任者に対し,遺伝子治療臨床研究の中止又は変更その他必要な措置を命ずるものとする。
(以下略)

 

【参考資料3】
Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」
第1条 本学部において,遺伝子に係る情報であって,匿名化されておらず個人を識別することができるもの(以下「遺伝子情報」という。)の取扱いについては,この規則によるものとする。
第2条~第5条 (略)
第6条 本学部の教職員は,いかなる理由による場合であっても,遺伝子情報を開示しないものとする。
2 前項の規定にかかわらず,総括責任者は,遺伝子検査又は診断を受けた者からの求めがある場合には,遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報に限り,本人に開示しなければならない。
(以下略)

 

 

 

【答案構成】

 

 f:id:q07025a:20180104005330j:image

 

 

【解答案】

 

〔設問1〕

 

1.原告Xの主張

 

Y県立大学は,Cを被験者とする本研究の過程で全く予測しえなかった問題が生じ,Cは重体に陥ったことを理由として,本研究を中止したものとみられる。Xとしては,Yによる本研究の中止命令は法的根拠のない違法な処分であると争うことになる。

 

本件中止命令の法的根拠は,YとXの雇用関係(民法)及び「審査委員会規則」8条である。本件では被験者は死亡していないので,①本件が「その他遺伝子治療臨床研究により重大な自体が生じたとき」に当たらないこと,及び,②Yが「中止」を選択したのはXが教授として享受すべき学問研究の自由(憲法第23条)を侵害するもので違憲違法であること,を主張していくことが考えられる。

 

※なお,「遺伝子情報保護規則」への違反は中止命令後にYに発覚した事実であり,Yは中止命令の時点ではこの事実を考慮しておらず,この点が中止命令の理由となっていないため,この点は中止命令の適法性の場面では争う必要がない。

 

 

2.私見の結論及び理由

 

(1)結論

 

Yの中止命令は違憲でも違法でもない。

 

(2)理由

 

審査委員会規則第8条の「その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたとき」という要件については,「被験者の死亡」に準じる自由は少なくとも含まれると解される。

 

本件では,研究の過程での重体が生じているので,そのことが全く予測しえなかった問題によるものであったこと,及び被験者Cが回復したことを考慮しても,将来的に同様の事故でC並びに別のXの本件研究による別の被験者が死亡する可能性があるものであり,「その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたとき」に当たらないとは言えず,「遺伝子治療臨床研究の中止又は変更その他必要な措置を命ずる」要件に該当するという委員会の判断に過誤は認められない。よってXの①の立論は退けられる。

 

次に,同条は,措置として,「研究の中止」「研究〔内容・方法〕の変更」「その他必要な措置」を規定しているが,敢えてYが最も重い措置である「研究の中止」を選択したことは,Xの学問の自由を侵害するかどうかが問題となる。まず,学問の自由には研究活動の自由が含まれると解される。研究の中止は,学問の自由に対する直接的制約に当たる。一方で,大学であるYには伝統的に大学の自治が認められ,国家による規制とは独自の規制権限がその所属する教職員に対して認められている。これは,国家による過剰介入を抑制し,学問の拠点としての大学の,公共財・インフラとしての機能に期待しての憲法的位置づけによるものである。

 

大学が教職員の学問の自由を直接的に制約する場合にあっては,大学の裁量を尊重しつつ,慎重に教職員の学問の自由を侵害していないか,密度を高めて審査する必要がある。

 

本件では,Yは研究の中止という最も重い態様の処分を選択したわけであるが,被験者の死亡の可能性もあった上,それが「全く予測し得なかった」ものであり,先端研究であり多様な危険のうちの一部が実際に現実化しているため,予防的に研究そのものを中止して,Xが重体になった原因やその他の危険性について解明した上で,今後の危険を予防する十分な策を立てた上で研究の再開等を判断するという意味で,研究の中止を選択したと解することができ,その判断に不当な部分があるとは到底認められない。

 

以上から,Xの主張はいずれも退けられ,上記の結論となる。

 

 

〔設問2〕

 

1.原告Xの主張

 

①本件情報開示は,Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」6条2項に基づく適法な開示であり,本件停職処分は法的根拠を欠く違法な処分である。

  • 同条が「本人に開示しなければならない」としている対象の情報は,「本人の」遺伝子情報に限る規定ぶりとはなっておらず,家族のものも本人Cに関連する限りは,許容されると解される
  • 実質的に考えても,家族であればCと遺伝子を共通にしている部分が多く,赤の他人に開示する場合よりも秘匿度合いは低い
  • Cは,正常な遺伝子と異常な遺伝子を判断するため,家族の分も含めて当該情報を知る必要がある
  • Cの治療のためという意義は,家族(いずれも成人)には説明済みで,その際に,「なぜ被験者本人であるCのみではなく家族の分も必要なのか」は説明されているところ,家族がその意義を理解して同意している以上,包括的にCに対しては開示される可能性があることも許容していると合理的に解釈される

 

上記の事実から,仮に違反が認められるとしても軽微であり,研究活動の継続に対する制限及び研究者としての研究の失敗を公的に認定する制裁である「停職」処分は,処分の態様として重すぎ,Xの学問の自由を侵害する違憲違法な処分である。

 

 

2.私見の結論及び理由

 

(1)結論

 

Yの停職処分は違憲でも違法でもない。

 

 (2)理由

 

「遺伝子情報保護規則」6条2項が「本人の」遺伝子情報と規定していないのは,規定の仕方の稚拙さによるものであり,自己の遺伝子情報を知る権利があることに基づく目的論的解釈から,「本人の」遺伝子情報に限定していることは明らかである。家族の遺伝子情報であっても他人・別人格であるCに開示する場合には,家族の1人1人に同意を取り付けることは当然必要となる。これは,各人の人格権に基づくものであり,民法709条の「権利」といえるし,憲法第13条の個人の尊重原理から導き出されるセンシティブなプライバシー情報の公権力による正当な取扱いの要請からも基礎づけられる。

 

その他のXの主張は,いずれも事実と認められるが,次の停職処分の相当性の判断のところで考慮すべき事実であり,Xの行為が6条2項への違反していることの結論を左右するものではない。

 

停職処分の相当性に関しては,当該停職処分が,学問の自由によって保護される研究活動に付随する情報の取扱いの正しさを担保するために,停職等の雇用関係上の制裁を課す態様であり,研究活動そのもの弊害の防止を狙いとして制約するものではなく,また制裁態様も研究活動そのものを禁止するものでないので,研究活動から間接的に帰結しうる害悪を抑止する結果として,付随的に研究活動を制約するに至るものといえ,間接的付随的制約類型である。

 

同じ精神的自由である表現の自由の間接的付随的制約類型と利益状況は共通であり,確立した猿払事件最高裁の基準である,目的の正当性,目的と手段の関連性,得られる利益と失われる利益の均衡,の3要件で判断することが妥当と考える(オブライエン・テスト)。

 

目的はセンシティブな個人情報の保護であり正当である。手段は停職等による威嚇で個人情報のずさんな管理を予防抑止するものであり関連性がある。得られる利益は,本件では,家族の情報であるとはいえセンシティブな情報であり,Cによる情報濫用の危険性等を判断して,家族に判断する機会を与える意義は十分に認められ,今後同様な事例があったときに本件が先例となり研究におけるセンシティブな遺伝子情報の開示の取扱いに明確に規律が生まれ,得られる利益は重要といえる一方,失われる利益は,Xの停職1か月というものであり,Xが研究を阻害されるのは1か月にとどまること,及びXのReputationに対する侵害も高度とは言えないこととから,得られる利益と失われる利益が均衡を失しているとは到底言えない。

 

よって,YによるXに対する停職処分は,Xの学問の自由を侵害するものとは言えない。

 

以上から,Xの主張はいずれも退けられ,上記の結論となる。

 

 

【雑感】

 

今回は,自分が司法試験を受けた年の同じ問題を8年越しでしっかり解いてみました。実務経験を経て改めて見ると,新たな発見が多々ありました。

 

規則そのものの合憲性は,自明と考えます。出題趣旨を読むとそこが重要論点とされており,私案では点数が伸びないと思われるので,ご注意ください。

 

Cの自己の遺伝情報全ての開示も,YのXへの停職処分の理由となっている点は,検討を失念しておりました。パターナリスティックな軽微な違反で,処分との比例性が問題となる点を付記しておきます。

 

解答私案は,大々的な憲法論とはなっておらず,実務的に原告・被告がどう戦うかを想像しながら書くとこのようになりました。指針についてはうまく拾い上げることをしませんでしたが,遺伝子治療の理解困難性に着目したインフォームドコンセントの重視,個人情報保護の観点でのインフォームの部分など,Yの処分の正当性の理由の補強のために援用できる点があります。

 

猿払事件最高裁判例(オブライエン・テスト)の援用は,学問の自由分野における最適な先例がないと思われたため,判例の射程を拡張して考えました。同判例に批判的な学説が支配的なのは承知ですが,同判例が大法廷で変更されていることはないので,これで減点される筋合いはないはずです。

 

 

【参考文献】

 

問題文・出題趣旨・採点実感・ヒアリングを踏まえた,研究者による明晰な分析で参考になります。

司法試験論文過去問LIVE解説講義本 木村草太憲法 (新Professorシリーズ)

司法試験論文過去問LIVE解説講義本 木村草太憲法 (新Professorシリーズ)

 

 

判例・裁判例は弘文堂のケースブックを判例集代わりで利用しています。

ケースブック憲法 第4版 (弘文堂ケースブックシリーズ)

ケースブック憲法 第4版 (弘文堂ケースブックシリーズ)

 

 

調査官解説をベースにした「最高裁日本国憲法」の解説

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

 

 

気鋭の蟻川教授が主要部分を執筆しており,下級審裁判例にフォーカスした貴重な本

新版 憲法判例を読みなおす  下級審判決からのアプローチ

新版 憲法判例を読みなおす  下級審判決からのアプローチ

 

 

 

理論的な理解に資する(個人的に)信頼の体系書。本問の関連では特に猿払事件の採用する間接的付随的制約論の解説がうまい(138頁)。読めば読むほど良さがわかります。

憲法 (新法学ライブラリ)

憲法 (新法学ライブラリ)

 

 

 

おそらくあとは問題文の事案と条文,憲法の条文の各操作+普通のリーガルマインドがあれば,事案の解決を導くことができるのではないでしょうか。

 

 

【関連過去記事】

onlythegoodyoung.hatenablog.com