k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

バフェットの経営哲学⑤ 経営モニタリング

本稿では,株主の役割と経営者がどう企業を経営し,どう株主に接するべきか,バークシャー・ハサウェイのケースをベースにして考察している。第5回。

 

 

経営モニタリング

投資先経営者に対しては,大株主として経営に自由や安定性を提供し,自由を与えるのがバフェットの基本姿勢である。彼のステークホルダーに対する対応は,経営者としてでも,あるいは投資家としてでも,相手の立場で考えることを基本とする。例えば,彼の情報開示の基本姿勢は,自分が投資家の立場として知りたいと考える情報を伝えるというものである。まさに経営者と投資家の両者の立場を知る「二刀流」ならではの対応だと言える。この点,経営者としてのバフェットは株主に期待するのは,自由に経営させてもらうことである。そのために,バフェットの経営に共感する投資家を株主として引き寄せる努力をしてきたのである。この結果,実質的には非上場企業のように経営することが可能となった。

投資先へのモニタリングについては,長期的な視点で業績評価を行う,非アクティビスト型アプローチに特化する,上場企業の経営に安定性を提供する,そして傘下の企業の潜在能力を引き出すという4点がある。

バフェットの投資先の業績評価手法は非常にシンプルである。バフェットは四半期決算や短期的な株価パフォーマンスに基づき業績評価して大騒ぎをすることはない。彼が評価するのは,投資判断のタイミングにおいて重視する特性が投資後も維持されているかどうかということだけなのである。バフェットが重視する特性は定性的なものであるため,財務数値や株価パフォーマンスだけでは正しくモニタリングすることは不可能である。それどころか,そうした定量データだけでは判断を誤る可能性があるというのがバフェットの考え方であり,次のように述べている。「前年比較がいつも我々に有利になるとは限らない。我々が少数株主である上場企業の投資先も,経済的な意味ではパフォーマンスが良くても株式市場ではパフォーマンスが悪い時もある。そうした時には当社の純資産が大幅に減少することもあるが,私たちはそうしたことに影響されることはない。投資先の事業が魅力的であり,当社に十分な現金があれば,さらに割安の水準で追加投資をするだけの話だ。」短期的には業績の変化と株価パフォーマンスが連動しないことも多いため,株価ではなく事業の経済性に注目すべきだというのがバフェットの考え方である。また,彼は自分のアプローチを野球にたとえて次のように述べている。「長期的には投資決定のスコアボード(業績評価)は市場価格であることは事実だ。しかし,価格は将来の利益で決定される。投資においては,野球と同じようにスコアボードに得点を入れるためには,スコアボードではなくフィールドを見なければならない。」野球ではランナーが出て,ホームに帰らなければ得点ができないように,株価を高めるためには業績やキャッシュフローを改善する必要があり,そのためにはバリュードライバーを改善する必要がある。

バークシャー・ハサウェイでは一株当たりの内在価値の成長率が業績指標として利用されているが,明確な業績指標が存在せず,CEOの評価が曖昧になっている企業が多い,というのがバフェットの不満である。業績が悪いCEOが解任されることはあまりない。その理由の一つは,多くの場合においてCEOの業績評価基準が存在しないことである。仮に存在したとしても曖昧なものが多く,もしくは,業績が著しく悪く,またそれが繰り返されたとしても,業績評価基準が撤回されたり,言い逃れされたりすることになる。明確な業績評価基準がなければ,CEOを評価することはできず,またCEOのコミットメントを引き出しにくくなる。実際,日本では中期経営計画の達成度が低くなっているが,今後業績連動型報酬制度がより一般的になるにつれて,業績目標が明確に定義されることになるため,こうした問題は徐々に解決されていくと考えられる。

バフェットは,アクティビスト型のアプローチを取ることは一切ない。株主の発言力が高まっている中で,バフェットは真逆の行動を取っている。物を言う必要がない企業にしか投資をしないことが大きな要因だが,そもそもそうしたアプローチ自体をバフェットが好まないことも要因となっている。バフェットは,次のように述べている。「たしかに,ある種の敵対的買収は正当化される。CEOの中には,株主のために働くべきことを忘れているものもいれば,かなり無能なものもいる。いずれのケースでも,取締役は問題に気づいていないか,それとも変化を起こそうとしないかだ。その時は新たな人物が必要とされる。しかし,そうした「機会」は他人にまかせる。当社は,歓迎される場所にしか行くことはない。」このような考えである以上,物を言う必要がない企業にしか投資をしないことになるが,経営の支配権を握ったところでうまく活かすことはできないというバフェットの謙虚な考え方もその要因となっており,次のように述べている。「支配権を握ることにより,経営を行ったり,企業の資源を管理したりする機会(義務)が与えられるが,我々は現状を改善することはできない。実際,支配権を握る場合よりもそうでない場合の方が,良い経営上の結果が得られている。」「投資の神様」といえども,優秀な経営者が経営する企業をよりうまく経営するのは無理な話である。結局,バフェットにとって大株主であることは,支配権を握ることではなく,より多くの価値を投資先から得ることを意味するのである。