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改正民法で司法試験を考える⑤ 瑕疵担保責任

本連載は,改正民法をベースに司法試験の問題を再検証することによって,改正民法の理解を深めるためのものです。第5回。瑕疵担保責任など。

 

 

平成5年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題 【民法・第2問】

 

A社は、B社に対し、実験用マウス30匹を売り渡した。ところが、この中に、人及びマウスに有害なウイルスに感染したものが混じっていた。その後、Bの従業員Cがこのウイルスに感染して発病し、長期の入院治療を余儀なくされた。Bは、このウイルスに感染した他のマウス200匹を殺すとともに、Bの実験動物飼育施設に以後の感染を防止するための処置を施した。
右の事例において、(一)Aに過失がなかったときと、(二)Aに過失があったときとに分けて、AB間及びAC間の法律関係について論ぜよ。

 

 

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 (答案構成メモ)

 

 

小問(一) A無過失の場合

 

1.AB間の法律関係

BはAに対し,本件AB間のマウスの売買契約(民法第555条)を解除し,①従業員Cの感染に伴う医療費相当額の損害,②B保有の感染マウス200匹の市場価値相当分の損害,③汚染したBの施設の除染費用相当額,④Bが卸売業者であれば転売利益相当額又は顧客への契約履行のための代替品購入のための追加費用分ないし遅延損害分,⑤その他風評被害・慰謝料,の各損害についての賠償請求を行うことが考えられる(民法第415条)。

(なお,衛生管理に疑念のあるAに対し,敢えて,Bは追完請求(民法第562条第1項本文)をすることはまず考えられない。)

改正民法においては,特定物・種類物も併せて品質不良については,民法第415条で処理するように規定されていると解される。文理上,特定物であろうと種類物であろうと,売買契約で約束された品質のものを引き渡すのが,売買契約での売主の「債務の本旨 」である。また,民法第564条が買主の追完請求権について規定しているが,「目的物が…品質…に関して契約の内容に適合しないものであるときは」と規定しているところ,この条文を受けて民法第564条は,「〔民法第562条〕の規定は,第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び542条の規定による解除権の行使を妨げない」と規定し,さらに,民法第566条は売主が品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合の,買主の救済手段として,①履行の追完,②代金減額,③損害賠償,④解除を列挙している(期間制限に関する条文だが,1年以内ならこの①から④の請求ができるという反対解釈が導かれる)。そこで,種類物である本件マウスに関しての感染の事実は品質面での契約不適合であり,当然「債務の本旨」に従わない履行ということで,民法第415条によりBのAに対する契約責任の追及は基礎づけられる。

さて,本小問(一)の設定では,「Aは無過失」とある。しかし,単に無過失というだけでは,「その債務の不履行が契約…及び取引上の社会通念に照らして債務者の攻めに帰することができない事由」(民法第415条第1項ただし書き「免責事由」)に当たるとは言えないと解される。契約責任は過失責任ではなく保証責任が妥当する領域である。Aは品質を保証して本件契約をBと締結しているとみるのが契約責任の考え方であり,さらに,品質不良の原因はAの支配領域すなわちAの危険負担領域での事象である。このことから,単に無過失というだけでは上記契約責任の免責事由としては足りず,Aの損害賠償責任は認められると解される。

次に損害賠償の範囲であるが,商品であるマウスの感染により,他のマウスに感染し処分が必要になり,施設に除染が必要,さらにBが卸売業者であればその顧客に対する履行のための追加コストがかかる,また,風評被害・慰謝料,ということまでは,「〔債務の不履行〕によって通常生ずべき損害」に該当するといえ,賠償責任の対象になるといえる(上記②~⑤)。ここで問題となるのはBの従業員Cの感染に対する損害賠償(上記①)である。まず,Bが安全配慮義務としてCへの感染を予防する策をまず取るべきであり,これを怠ったBがまず問責されるべきもので,因果関係が遮断していると考えることが妥当である(Bにおいてそのような予防策がとられていないということが民法第416条第2項にいう「特別の事情」となり,それが予見不可能ということである)。さらに言うと遺伝的に遠いマウスと人で共通に感染するウィルスが存在する可能性が低いと科学的に認められれば,そのこと自体も特別事情(民法第416条第2項)となり得よう。

 

2.AC間の法律関係

契約関係に立たないAC間で考えられるのは,不法行為に基づく損害賠償請求の可否であるが,一般不法行為民法第709条,動物の占有者の責任を規定する民法第718条のいずれに基づいても「無過失」のAに対しては過失責任がなく,損害賠償を請求することができない。

上記の通り,Bに対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求(民法第415条)するか労災で処理するかしかないであろう。

 

 

小問(二) Aに過失がある場合

 

1.AB間の法律関係

小問(一)で論じつくした感があるが,Aに過失がある場合には,当然民法第415条第1項ただし書きの免責事由がAに認められる余地はなく,BのAに対する損害賠償請求が認められ,その賠償の範囲も上に記載したとおりである。

 

2.AC間の法律関係

AC間に契約関係はない。したがってCは債務不履行に基づく損害賠償請求はできず,不法行為に基づく損害賠償請求ができるに過ぎない。ここで,Aに過失がある場合には,Bという法人のみならずBの従業員である自然人にこそ権利侵害及び損害が生じることは当然のことであり,Aの過失行為とBの権利侵害との間には,因果関係が認められる。損害賠償の範囲に関しては,①Cの治療代と就労不能による逸失利益などの本人に生じた財産的損害(民法第709条),②Cの精神的苦痛から生じた損害(民法第710条),③Cの家族に関して生じた追加費用(子供の関係,パートナーの関係)などの損害(民法第711条)がその賠償の範囲に入ってくることになろう。

 

 

 

column:改正前民法第570条に関する論争に関する改正点

 

改正前の民法第570条は特定物の瑕疵担保責任を,無過失責任として規定したと解する考え方があった。これは特定物ドグマを前提として,特定物の品質不良に関して債務不履行を観念できないという前提で,買主保護のために敢えて短期の期間制限を設けて責任追及の余地を与えたという制度理解であり,一時期は通説的地位を獲得していた。

 

改正後は,特定物であろうが種類物であろうが品質不良は契約責任で一本化したと解するのが妥当である。

 

理由は,

①改正後の民法第562条第1項本文は単に「引き渡された目的物」と規定しており,種類物と特定物を区別する手がかりを与えていないこと,

②改正後の民法第564条は,第562条の品質不良の責任は第415条で規整されるべきことを明示していること,

③改正後の民法第566条には,品質に関する担保責任内容として,履行の追完・代金減額と並列で損害賠償請求と解除を列挙していることから,民法第564条と併せ読んでみても民法第415条の責任と本条で規定している担保責任が別個独立のものであることは相当苦しいとみられること,

民法第415条の「債務の本旨に従った履行をしないとき」とは文理的には民法第562条の契約不適合をも含む広い概念と解されること,

の諸点から,法定責任説は採り得なくなっているからである。

 

また,改正前から学説では契約上の品質保証責任は実質的には不可抗力免責のみを認めるだけの無過失責任という理解が有力になってきていたことから民法第415条に一本化する方が合理的と解されるようになってきていたことと方向的にも符合する。

 

なお,改正民法では,以前の瑕疵担保責任という用語に代えて「目的物の種類又は品質に関する担保責任」という用語を採用している(民法第566条表題)