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経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

改正民法で司法試験を考える③ 贈与,盗品の即時取得,履行補助者の過失

本連載は,改正民法をベースに司法試験の問題を再検証することによって,改正民法の理解を深めるためのものです。第3回。贈与,盗品の即時取得,履行補助者の過失。

 

 

平成元年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題 【民法・第1問】

 

Aは、Bに対し、自己の所有する中古のステレオ・セットを贈与することを約し、Bへの送付をCに委託した。ところが、Cによる輸送の途中、Dがこのステレオ・セットを盗み、Eに売り渡した。

(一) この場合に、A、B及びCは、Eに対し、ステレオ・セットの引渡しを請求することができるか。

(二) A、B、Cいずれもがステレオ・セットを取り戻すことができなかった場合に、BがAに対してすることができる請求及びAがその請求を拒むことができる根拠について説明せよ。

 

 

 

 

小問(一)

 

1.AのEに対する請求

(1)所有権に基づく請求

AはEに対して所有権に基づく返還請求を請求することが考えられる。Aは本件ステレオセットをもと所有しており,Eが同物を占有しており,請求原因事実は認められる。

これに対し,Eは抗弁として,Aは贈与により所有権を喪失していると主張し,これは認められる(贈与は諾成契約及び物権変動に関する意思主義,民法第549条及び第176条)。

これに対し,Aは再抗弁として,当該贈与契約は書面によらないことを理由に撤回の意思表示をし,Eの所有権喪失の抗弁を障害することが考えられる(民法第550条)。

 

(2)占有権に基づく請求

Aは占有回収の訴えを提起することが考えられる(民法第200条第1項)。Aは盗難の時点まで代理人Cを通じて本件ステレオセットを占有していたことが認められる(代理占有。民法第181条)。当該ステレオセットはDにより侵奪されており,請求原因は認められる。

これに対しEは抗弁として,自己が占有侵奪者の特定承継人に当たることを主張することができる(民法第200条第2項本文)。

これに対しAは再抗弁として,Eが本件ステレオセットが盗品であることについての悪意を主張することが考えられる(民法第200条第2項ただし書き)。

これに対しEは再々抗弁として,1年の期間経過を主張することも考えられなくはない(民法第201条第3項)。

 

2.BのEに対する請求

(1)所有権に基づく請求

BはEに対して所有権に基づく返還請求をすることが考えられる。本件ステレオセットはもとA所有でBは贈与により本件ステレオセットを所有するに至った(上記)。Eは同物を占有している(上記)。

これに対しEは抗弁として,Eは即時取得をしており,反射的にBは所有権を喪失しているという所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる(民法第192条)。Eの平穏公然善意(民法第186条第1項)及び無過失(民法第188条)は推定される。

これに対しBは再抗弁としてEの悪意又は過失,即時取得の不成立を主張することが考えられる。また,これとは別の再抗弁としてBは本件ステレオセットが「盗品」であり,Bはその「被害者」であることから,即時取得の成立が阻害されていると主張することが考えられる(民法第193条)。

このBの後者の再抗弁に対しては,Eは再々抗弁として,本件ステレオセットは古物商から買ったものであるとして引換給付の抗弁を主張することが考えられる(民法第194条)。

(2)占有権に基づく請求

Bは占有を取得したことはなく,占有権に基づく請求は請求原因レベルで成り立たない。

 

3.CのEに対する請求

(1)所有権に基づく請求

Cは所有権に基づく請求はできない。

(2)占有権に基づく請求

CはAのために本件ステレオセットを所持していたものであり,「自己のためにする意思」を欠いていることから,上記のような占有権に基づく請求は認められない(民法第180条)。

※ なお,この「自己のためにする意思」は広く解され,運送人にも認められるとするのが通説ではあるよう。



小問(二)

 

1.BのAに対する請求(請求原因)

やや丁寧に検討すると,本件ステレオセットはAが所有していた中古品であり,特定物(民法第400条参照)のため,Dによる盗難により,履行不能に陥っている。Aは同種同等の物を調達して履行する義務を負わない(民法401条第1項反対解釈,民法第412条の2)。そのため,贈与契約に基づく履行請求は立てる意味がない(一応請求原因は成り立つものの履行不能による債務消滅の抗弁が明らかに認められる)。

所有権に基づく返還請求は,Aが本件ステレオセットを直接にも間接にも占有していないので,これは請求原因レベルで成り立たず請求を立てる意味がない。

BはAに対して,贈与契約上の債務の不履行に基づく損害賠償請求をしていくことになる(民法第549条,第415条1項本文・第2項1号)。

 

2.AのBに対する抗弁

(1)贈与契約の撤回の抗弁

贈与契約の請求原因を基礎づける書証で出ていない場合は,「当該贈与契約が書面によらないこと」を主張し,訴訟上でも撤回の意思表示を行うことにより,民法500条に基づく贈与契約の撤回の抗弁を主張することが考えられる。

なお,これに対しては,Bは贈与契約の履行が完了していることを再抗弁として主張することが考えられなくはないが,本件ではBへの引渡しが完了していないので主張する意味はない。

(2)債務不履行の免責事由の抗弁

契約責任としての債務不履行に対しては「免責事由」が抗弁となる(民法第415条第1項ただし書き)。

ここでいう免責事由はAに履行上の過失がないことと解され,贈与契約という無償契約の場合は,Bの期待利益も大きくないので,免責事由は広く解するのが妥当と考えられる(英米法と異なり,日本民法は約因不要という点からもそのように考えるのがバランスとしてよい)。さて,Dによる盗難は,Aの直接の支配下で発生した事象ではないので,Aから委託されたCに過失がなかったかどうか,さらには,AがCに注文した際に(請負契約と解される),注文上の注意義務違反がなかったかどうかが問題となる(民法第716条類推)。本件では,Cがずさんな管理をする運送人でありさらにそのことをAが知っていたか少し注意すればわかったはずなのにその注意をしなかったなどのよっぽどの事情がない限り,免責事由は認められる(すなわち免責事由の存在が事実上推定され,ほぼ免責事由があることを主張するだけで認められる)ものと考えられる。