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経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

改正民法で司法試験を考える① 詐害行使取消権

本シリーズは,改正民法で司法試験の問題を解いてみて,改正民法についての考察を深めるためのものです。第1回。詐害行為取消権,解除。

 

 

旧司法試験昭和63年度第2問

 

AB間でA所有の不動産をBに3000万円で売却する旨の契約が成立し、内金2000万円の支払後、残代金は一年後に支払う約束の下に、所有権移転登記及び引渡しが完了した。その後、Bは、事業に失敗し、その債権者Cに迫られて、唯一の資産である右不動産を代物弁済としてCに譲渡することを約束した。このため、Aは、Bから履行期に残代金の支払を受けることができなかった。

(一) 右の場合において、Cが所有権移転登記及び引渡しを受けていたときは、Aは、B及びCに対しどのような請求をすることができるか。

(二) AがBの債務不履行を理由として右売買契約を解除したが登記を回復しないでいる間に、BからCへの代物弁済の約束がされた場合はどうか。Cが所有権移転登記及び引渡しを受けている場合といずれも受けていない場合に分けて論ぜよ。

 

 

 

 

 

小問(一)について

 

1.AのBに対する請求

 

Aは、Bから履行期に残代金の支払を受けることができなかったことから,Bは履行遅滞民法412条第1項)。Aは売買代金債権残額1000万円の請求(民法第555条)及び損害賠償の請求(民法415条第1項前段)をすることができる。また、催告を行って解除の意思表示を行い(民法第541条本文,第540条第1項),原状回復のために,AからBに移転した不動産の返還請求権に基づく所有権移転登記の抹消登記請求を行うことができる(民法第545第1項本文)。

 

2.AのCに対する請求

 

(1)AはCに対し,解除による所有権の復帰を根拠に本件不動産の明渡しを請求を試みることが考えられるが,登記を備えた「第三者」Cに対しては解除は主張できない(民法第545条第1項ただし書き,なお,AとCが対抗関係に立つことにつき,第177条類推)。

 

(2)AはCに対し,Bへの代金債権及び損害賠償請求権という金銭債権を担保するために詐害行為取消権を行使することが考えられる(民法第424条以下)。代物弁済契約及びその履行に関しては「財産権を目的とする行為」(民法424条第2項反対解釈)といえる。また,本件代物弁済契約は被保全債権の発生であるAB間の売買契約の後になされている(民法424条第3項)。さらに,言うまでもなくAのBに対する売買代金債権及び損害賠償請求権は強制執行可能な債権であり被保全債権適格がある(民法第424条第4項反対解釈)。

では、代物弁済をすることが「債権者を害する行為」といえるかが問題となる。この点はAの請求の立て方により要件が変わる。

 

ア.BC間の代物弁済が債権額に比して過大な代物弁済でありかつその過大部分だけを取り消す場合

まず,請求の趣旨は過大な部分の取り消し+不動産の債務者への返還に代わる金銭賠償を,「A」に対して交付することを請求するということになると考えられる(民法第424条の4+424条第1項)。これは後述する弁済全部の取消しに比して要件が軽い(「債務者が債権者を害することを知ってした行為」であればよく,通謀不要である)。

なお,ここで金銭賠償となる理由は,民法第424条の4は「その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分について」のみ「詐害行為取消請求をすることができる」とあるところ,代物弁済の目的は不動産であり不可分であることから,当該部分についてのみ取り出すことができないという意味で「受益者がその財産の返還をすることが困難であるとき」(民法第424条の6第1項後段)に該当すると解されるからである。

本件では,「BのCに対する債務額に比して本件不動産の額が過大であること」の認識があれば,「債務者が債権者を害することを知ってした行為」であるということができる(民法第424条第1項本文に該当)。ただし,Cが代物弁済契約当時においてAの債権の存在又は上記過大性の認識のいずれか又は両方に欠ける場合は,取消しを阻止することができる(請求に対する抗弁。民法第424条第1項ただし書き)。

なお,詐害行為取消しが認められた場合の法律効果については,まず取消しによってBC間の代物弁済及びその履行は無効となり,かつ,CはAに対しBから受領した金銭に相当する金額を,AのBに対する債権及びそれに付随する権利の限度に応じて支払う義務を負う(取消しの範囲につき,民法第424条の8第2項,債権者への支払につき,同第424条の9第2項)。以下は独自解釈であるが,AがCから金銭を受領した場合は,あくまでもAはBの財産の保全という「他人の事務」を行ったに過ぎないと解され(民法第697条第1項),当該金銭は事務管理に伴い代理で受領保全したBの財産であり,事務管理者たるAはBに当該金銭又はそれに相当する金額を返還する義務を負う(民法第701条・第646条第1項前段)。そして当該返還義務とAのBに対する売買代金債権は相殺敵状にあり,相殺により決済されることになろう(民法第505条第1項本文)。当該金銭又は当該金銭返還請求権を捉えてBの他の債権者が執行することはできないと解される(相殺が優先される。民法第511条第1項)。

 

イ.BC間の代物弁済が過大でも代物弁済契約全部の取消しを請求する場合,又は代物弁済が過大ではなく単に偏頗行為であるとして代物弁済契約の取消しを請求する場合

この場合は,民法第424条の特則である同第424条の3により要件が厳しくなり,支払不能及び通謀が要件となる。法律効果に関しては代物弁済行為の取消しは上記ア.の場合と同様だが,請求権に関しては,取消しの対象が代物弁済行為全部であるため,上記ア.の場合と異なり,不動産の所有権移転行為そのものが取り消され,当該不動産が債務者の所有に復帰し責任財産に編入され,Aは当該不動産を差し押さえ,民事執行法によりその売却金額から弁済を受けることができる。ただし,これは債権者平等の枠内で差押え又は配当要求をした全債権者の間で債権額に応じた按分弁済を受けるのみである(取消しの効力が債務者BのみならずBの他の債権者にも及ぶことにつき,民法第425条)。

 

 

小問ニについて

 

1.AのBに対する請求

 

AはBに対し,解除による原状回復請求、損害賠償請求をすることができる(民法第545条第3項)。Cに土地の引渡・登記移転がない場合は土地の返還(明渡し及び抹消登記請求又はそれに代わる移転登記請求)を請求することができる。Cに土地の引渡し及び移転登記がある場合にはA→Bへの所有権移転登記の抹消登記を請求できるのみである。ただ、物の返還と内金の返還は同時履行となる(民法第546条・第533条)。

 

2.AのCに対する請求

 

(1)Cが引渡し及び登記いずれも受けていない場合

 

AはCに対し,所有権確認請求を行うことが考えられるが,BC間の代物弁済契約により所有権の観念的移転は生じているため(代物弁済契約は諾成契約,民法第482条。さらに,意思表示のみによって原則として所有権は移転する,民法第176条),Cは解除により法的地位に影響を受け得る「第三者」であるから民法第545条第1項ただし書きにより,所有権の取得をAに主張できる地位が保証される。それにより,Aに対し「対抗要件の抗弁」を主張し,AのCに対する所有権の主張を阻止することができる(Bを起点とした二重譲渡と見ることになる。民法第177条類推)。AC間は対抗関係に立つので登記の先後で優劣を決す。Aが登記を具備しない限り,本件不動産の明渡しは請求できない。なお,移転登記請求も明渡請求も,そもそもCが登記及び引き渡しをいずれも受けていないので,請求することができない。

 

(2)Cが引渡し及び登記を受けている場合

 

上記同様対抗関係で優劣を決することになるところ,Cが登記を具備している以上Cに所有権が帰属していることが確定し,本件不動産の明渡し請求及び移転登記請求はできない。

 

なお,上記(1)(2)いずれの場合も,設問(一)の場合と同様の要件で,詐害行為取消権に基づき,金銭の支払い又は不動産移転登記の取消し及び不動産の返還を請求することができる。

ここで、原状回復請求権という特定債権を保全するために詐害行為取消権を行使することから,特定債権の保全のための債権者取消権が認められるかが問題になりうるが,被保全債権を特に金銭債権に限定するようには条文に書かれていないので認められると解する(民法第424条第1項参照)。

また,原状回復請求権を取得したのは詐害行為後であるが,原状回復請求権の基になっているのは代金債権であり同一性が認められ、代金債権は詐害行為前に取得しているから、詐害行為前に被保全債権を取得したといえ,詐害行為の前の原因に基づいて被保全債権が生じたといえる(民法第424条第3項)。

以上より,後は設問(一)と同様の要件を備えれば詐害行為取消権を行使できる。

そして、行使できる場合は,特定債権であるAのBに対する原状回復請求権を被保全債権として,BのCに対する不当利得返還請求権を被代位債権として,債権者代位により登記及び占有の取得を実現するか,過大部分の取消しであれば金銭賠償を実現することになる(ただしこの場合は設問(一)と異なり相殺により事実上の優先弁済を実現することはできない)。

もし原状回復請求権が社会通念上履行不能ということで損害賠償請求権に転化したという前提で,設問(一)と同様の場合分けで当該場合に応じた請求及び法的効果を実現することになる(過大部分の取消しのみであれば価格賠償,全部の取消しであれば不動産に対する強制執行)。

 

 

詐害行使取消権に関しては条文が整備されて要件・効果ともにとても明確になりました。条文操作による法解釈もしやすくなりました。