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刑事訴訟法⑧ 逮捕に伴う令状を必要としない強制処分

  • 逮捕に伴う令状を必要としない強制処分

 

Ⅰ 逮捕の現場における令状を必要としない強制処分

第1は「逮捕の現場」には,逮捕被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が一般的に高いと考えられることそれ自体を根拠として,裁判官による「正当な理由」の審査を行うまでの必要性がないと理解するものである。「犯罪が存在する蓋然性」は,適法な逮捕が行われる場面では当然認められる。「関連性のある証拠の存在する蓋然性」も,逮捕の現場においては一般的に認められる。このように理解することによって無令状の強制処分が認められると解するものである。

第2は,第1の考え方と同様に,逮捕現場には被疑事実に関連する証拠の存在する蓋然性が一般に認められることを前提としつつ,それに加えてそのような証拠が被逮捕者等により湮滅されるのを防止してこれを保全する緊急の必要性があるからだと理解するものである。この場合は緊急の必要性ゆえに事前に裁判官の審査を経ることが困難であるから,例外的にそのような事情=予想外に生じた緊急の必要性ゆえに裁判官の審査を経ることが困難であった事情がある場合に限り令状審査を省略することができると考えるのである。

いずれの考え方が妥当か。無令状強制処分とは,令状主義の核心的趣意である裁判官の事前審査を省略し,基本権侵害たる強制処分の発動を捜査機関の第一次的な判断と裁量に委ねるものである。第1の考え方の基礎に据えられた証拠存在の一般的蓋然性は,抽象的な背景的説明にとどまるものであり,現行犯逮捕の場合は格別,他の逮捕の場合について,一定の疎明資料を基礎とした捜索・差押え等の正当理由に関する裁判官の具体的な事前審査に代替できるとするのは疑問である。証拠保全の緊急性を理由とする第2の考え方が妥当。

 

Ⅱ 逮捕の現場における令状を必要としない強制処分(「逮捕する場合」の解釈)

逮捕行為そのものとこれに伴う強制処分との時間的接着関係は,「逮捕の現場」に証拠が存在する一般的蓋然性と論理的に結びつくものではない。逮捕の時点が逮捕場所に証拠が存在する蓋然性に影響を及ぼすことはないはずであるから,仮に前記第1の考え方を徹底すれば,次のような帰結が導かれることになろう。「逮捕する場合」という文言から,逮捕行為が現実に実施される限りにおいて,これに伴う処分の時間的先後関係は問わず,逮捕行為の着手前および逮捕行為完了以降であっても捜索差押えが可能になる。例えば,被逮捕者をその自宅で通常逮捕し身柄を確保・連行した後も,逮捕現場の捜索や検証を継続できるということになる。また,逮捕に失敗して被疑者が逮捕に着手した場所から逃走したとしても,現場の捜索等ができる。

これに対して証拠保全の緊急性を根拠とする前記第2の考え方を徹底すれば,被逮捕者による証拠湮滅防止の観点から,無令状強制処分の開始時期は逮捕の現実的可能性を前提に,その着手時またはその直前という時点になる。また,逮捕が完遂され被逮捕者による証拠湮滅の現実的可能性が失われた時点で,緊急措置としての無令状強制処分の必要性も失われるから,それ以降の捜索・差押え等は許されない。被疑者逃亡の場合もそれ以降の強制処分はできない。もっともこのような第2の考え方を基本にしたとしても,具体的状況の下で被逮捕者以外の第三者による証拠湮滅行為の現実的可能性がある場合には緊急措置はなお可能である。

最高裁は,職務質問に伴う所持品検査の適否を扱った判例において,鍵のかかっているアタッシュケースをこじ開けた警察官の行為が,任意手段である所持品検査ではなく「捜索」そのものであることを前提として次のように説示している。「・・・ボーリングバッグの適法な開披[所持品検査]により既に[被疑者]を緊急逮捕することができるだけの要件が整い,しかも極めて接着した時間内にその現場で緊急逮捕手続が行われている本件においては,所論アタッシュケースをこじ開けた警察官の行為は,[被疑者]を逮捕する目的で緊急逮捕手続に先行して逮捕現場で時間的に接着してされた捜索手続と同一視しうる」この事案は,捜索直後に,その場に居る被疑者の緊急逮捕に着手する現実的な可能性が認められる場合である。

 

Ⅲ 逮捕の現場における令状を必要としない強制処分(「逮捕の現場」の解釈)

前記第1の考え方によれば,場所に対する捜索等の令状が発付されたとすれば処分が可能な範囲,すなわち逮捕が実行された場所と同一の空間的位置にあり,かつ同一の管理権が及ぶ場所とそこに存在する物が捜索等の対象になる。

これに対し第2の考え方を徹底すれば,捜索等は披逮捕者による証拠の湮滅が可能な範囲内に限定されることになる。もっとも,第2の考え方に拠ったとしても,証拠の湮滅を防止して緊急に証拠を収集保全する必要性という観点から,逮捕時の具体的状況の下で,家人や共犯者など被疑者以外の第三者による証拠湮滅の現実的可能性が認められる場合には,捜索の場所的範囲はそれに応じて拡張しうる。なお,できる限り裁判官による事前審査を確保すべきであるという観点からは,「第三者による証拠湮滅の可能性」を抽象化すべきでない

 

Ⅳ 逮捕の現場における令状を必要としない強制処分(物的範囲を画する「関連性」)

いずれの考え方も「逮捕の現場」には被疑事実に関連する証拠が存在する一般的な蓋然性が認められ,これを収集保全する必要があることを共通の根拠としているので,法220条の無令状強制処分に拠り収集保全することができる証拠は,逮捕被疑事実に関連するものに限られるという帰結が共通して導かれる。

他方で,このような証拠が存在する蓋然性は,個別事案の具体的状況により常に認められるとは限らない。例えば,被疑者が自宅ではなく第三者の住居内で逮捕された場合にはその「逮捕の現場」に証拠物が存在する蓋然性があると一般的にいうことは困難である。このような場面において捜索処分に関する総則の規定は法220条による捜索にも準用されるから(法222Ⅰ参照),「被疑者以外の者の身体,物又は住居その他の場所については,押収すべき物〔=関連性のある証拠物〕の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り,捜索をすることができる」(102Ⅱ)。

 

Ⅴ 被逮捕者の身体・所持品の捜索・差押え

現行法の解釈論としては,「逮捕の現場」という限定を無視することはできない。そこで,個別具体的な事案の状況により,やむを得ず現実に逮捕した場所から近接した別の場所に移動したうえ被逮捕者の身体・所持品を無令状で捜索した場合の適法性が問題となる。最高裁は,現実に捜索が実行された最寄りの場所を「逮捕の現場」そのものではなく,「逮捕の現場」における捜索差押えと「同視」することができると説示している。第1に「逮捕の現場」という法の文言を柔軟に拡張する解釈方法は採っていない。「逮捕の現場」概念は,身体のみならず場所そのものに対する無令状捜索等の範囲と共通する文言であるから,その統一的理解として妥当である。第2に,場所的移動があった場合の身体捜索について,それが「逮捕の現場」における捜索差押えと「同視」することができるかどうか(同視可能性)という新たな判断枠組みを呈示している。この判断枠組みはどういう実質的根拠に支えられ,どのように理解すべきであるのか。

そもそも,法定された各種の強制処分については,その本来的目的達成のために必要な付随的措置を併せ実行可能と解することができ,人の身体の捜索については,その実施に必要な限度で目的達成に不可欠の付随措置として場所的移動は可能である。次に,被逮捕者の身体・所持品には,逮捕被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が高度に認められる。そしてこの証拠存在の蓋然性は,当該被逮捕者が「逮捕の現場」に居るか別の場所に居るかにより変化しない。また,被疑者がその身体に所持隠匿する証拠物を湮滅するおそれは一般的に高度に認められ,それを阻止して緊急に証拠物を保全する必要性も高度に認められる。以上の点に鑑みると,上記最高裁判例は,新たな無令状の強制処分を類推解釈により創出したものではなく,既に220条1項2号により定められている「逮捕の現場」における無令状の捜索・差押えそのものを実施するために,最寄りの場所まで人の身体を移動させることが併せ許容されていることを述べたものと理解することが妥当である。

以上の場合のほか,逮捕者への危害や被逮捕者の自害と逃亡を防止して逮捕行為を安全確実に完遂するために,逮捕に伴う無令状強制処分により凶器や逃走用具をも差し押さえることができる。その法的性質は,法220条に基づく捜索差押処分ではなく,むしろ逮捕行為完遂にとって必要な実力行使の一環である。「関連性のある証拠が存在する蓋然性」と関係のない処分であるため,その実施は「逮捕の現場」に限定されない。

 

Ⅵ 被逮捕者の身体検査

法文は「逮捕の現場」において無令状の検証ができるとしており,法222条1項後段に列記された準用規定からみて,「検証」には「身体検査」が含まれる。このため,形式的には,捜査機関には,逮捕の現場において,被逮捕者の身体について「検証としての身体検査」を「身体検査令状」(法218Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ)なくして実施できる権限が認められていることになる。しかし,身体検査について別個固有の身体検査令状という制度が法定されている趣旨が,対象者の身体の安全と,身体に対する固有のプライバシーの保護にあることから,裁判官の事前審査を経ない法220条に基づく身体検査については,身体検査令状による場合とは異なった一定の限界がある。

裁判官が事前に身体検査に関する条件を付加すること(法218Ⅴ参照)ができないので,条件を付加して医師等の補助者が必要となるような態様の身体検査(例えば血液採取)はできない。捜査機関が実施できるのは,捜査機関が主体となってみずから実施しても対象者の身体の安全に危害の及ぶ可能性のない態様の検査に限定される。このように考えると「身体の捜索」の範囲を超えて具体的にどの程度の処分が可能かは明瞭でないが,対象者の着衣の全部または一部を取り去る態様で行う場合には「検証としての身体検査」の範疇と整理される。その際は,前記最高裁判例の枠組みに従い,最寄りの場所への連行が可能になる場合がある。

 

Ⅶ 逮捕のための被疑者の捜索

被疑者を逮捕する場合に必要があるときは,捜査機関は令状によらずに人の住居等に立ち入り「被疑者の捜索」ができる(法220Ⅰ①・③)。これは被疑者の所在を発見するための措置で,逮捕行為そのものではない。人の住居への立入りは,憲法35条の保障する法益を侵害するから,本来別途捜索令状を必要とするはずであるが,逮捕する場合には緊急の必要性が一般的に認められることから令状を必要としないとされたものである。

これは物の捜索ではないが,法はこれに関する規定を準用している(法222Ⅰ・Ⅱ参照)。急速を要するとき非公務所における捜索の立会いを必要的とする規程の適用が除外されているのは(222Ⅱ),逮捕完遂の緊急の必要性を勘案したものである。立ち入る場所が「被疑者以外の者の・・・住居その他の場所」であるときは逮捕すべき被疑者の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り捜索することができる(法222Ⅰ・102Ⅱ参照)。

この規定により捜査機関の判断と裁量で被疑者が所在すると見込まれた場所への立入りが行われる場合,居住者には相当の不安・困惑を生ずることが想像される。捜査機関としては第三者方へ被疑者の捜索のため立ち入る場合には,立入りの目的等を告知するのが適切である。逮捕状による逮捕のための捜索の場合,令状の呈示に関する総則規定が準用されているため(法222Ⅰ前),被疑者の捜索に際して「逮捕状」を呈示するという解釈もありうる(法110拡張解釈)。

なお,逮捕のための被疑者の無令状捜索は,逮捕の種類は問わないが,法は捜索の主体を捜査機関としているから,私人が現行犯人を逮捕するために人の住居等に入り被疑者の捜索を行うことは許されない。

 

Ⅷ 無令状強制処分に関するその他の問題

捜査機関が適法な捜索・差押え等実施中に,他の被疑事実に関する証拠物であることが明白な物件を発見した場合,現行刑訴法のもとで採りうる方策は,当該物件を任意提出させて領置するか(法221),別途他の被疑事実に関する差押令状の発付を得て当該物件を差し押さえるかのいずれかとなる。また,当該物件の所持自体が犯罪となる場合には(例えば覚醒剤や銃器の所持),所持者を当該所持被疑事実の現行犯で逮捕し,その現場で法220条による差押えを実行するという途がありうる。なお,他の被疑事実に関する差押令状を得るまでの間,証拠物が発見された場所について出入禁止の措置(法222・112)ができるとする論者があるが,これは誤りである。この措置は法律上許容され適法に実施中の強制処分に付随する措置であるから,当該被疑事実に関する捜索等の実施中である場合に限り許される。専ら別の被疑事実に関する証拠物の差押令状発付を待つためにこのような措置を執ることは,被疑事実の流用であり令状主義を潜脱するものである。