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刑事訴訟法⑦ 人の身体を対象とする強制処分

  • 人の身体を対象とする強制処分

 

Ⅰ 人の身体を対象とする処分の諸類型(身体の捜索)

捜査機関は証拠物等を探索発見するために人の身体を対象として捜索を行うことができる(法102・222Ⅰ・218Ⅰ前段)。人は着衣内等に物を隠匿することができるので,特定の人物の着衣内に証拠物が存在する蓋然性が認められる場合,これを探索・発見する目的で着衣のポケット内等を強制的に調べるというのが典型である。

このような捜査活動は,対象者の意に反して身体に直接触れることになるため,一定の場所やそこにある机や金庫の内部を捜索する場合と異なり,身体に対するプライバシーという,場所・物とは異質の重要な法益を侵害するから,原則として令状裁判官による,場所・物とは別個独立の審査・許可が必要である。

捜査機関が「身体の捜索」として実行しうる範囲・程度については2つの異なった考え方がある。

第1は,「検証としての身体検査」や「鑑定処分としての身体検査」に係る法の規定との対比,ならびにその背後に想定される身体に及ぶ法益侵害の程度・質を基準として,「捜索」として可能な範囲・程度を画そうという考え方である。これによれば,令状裁判官が対象者の安全等に配慮した条件を付加することができる旨の明文規定がある検証としての身体検査(法215Ⅴ)や鑑定処分としての身体検査(法225Ⅰ・Ⅳ・168Ⅲ)とは異なり,捜索令状にはこのような条件を付することができる旨の明文の既定がないこと,また,対象者の着衣を取り去って裸にするには「身体検査令状」という別個の令状が法定されていること(法218Ⅰ後・Ⅱ参照)との対比から,身体の「捜索」として実行可能な行為は,捜査機関が主体となって実施しても対象となる人の生命・身体の安全という高度の法益に重大な侵害を生ずるおそれがなく,かつ,対象者を裸にするのと同程度の羞恥感情侵害に至らない態様の行為に限定されるという帰結が導かれる。

具体的には,以下のような帰結を導く。身体の捜索は,着衣・身体の外部から触れたり着衣・ポケットの中等を調べたりするほか,髪や口等の中を調べる程度に止めるべきである。外部から観察可能であっても,肛門や膣内を調べることは,それが着衣を取り去る態様になることに加え,侵害される羞恥感情の観点から捜索令状ではなく身体検査令状によるべきである。さらに生命身体の安全や健康状態に危険が及ぶおそれのある身体内部への侵襲行為やレントゲン撮影等については,捜査機関ではなく専門家を主体とする鑑定処分として実施するのが妥当である。

以上のような古典的分類に対し,処分の目的を基準として処分の性質と令状の形式を決定しようとする第2の考え方がある。この立場からは,対象者の被る法益侵害については,別途これを最小限度に止め対象者の生命・身体の安全を確保する措置を併用することで対処することになる最高裁は強制採尿を捜索差押処分と性質決定し,こちらを採用した。判例理論の骨子は以下のとおり。第1,体内を「捜索」する処分を認めているので,「捜索」が人の身体内部には及び得ないという考え方は採用しない。第2,捜索令状に条件を付することができる旨の明文がなくとも令状裁判官は条件を付加できる。第3,令状に付する条件の内容として,捜索・差押処分実行の主体を捜査機関ではなく専門家である医師による旨指定できる。

仮に以上のような最高裁の判断枠組みを推し及ぼせば,次のように考えるのが一貫する。例えば,肛門・膣内に隠匿された証拠物や,人の身体内部に嚥下された証拠物を探索発見し収集・保全することを目的として強制処分は,身体に対する捜索差押えとして,行為態様に即した適切な条件付の捜索差押令状により実施すべきである。また,対象者の意思・抵抗を制圧してでも身体の内部を探索・調査するための行為(例えば,薬物所持犯罪の被疑者が,薬物をその体内に嚥下したかどうかと確認するために胃の内部をレントゲン検査する場合)は,身体内部の「捜索」の性質を有するということになるから,専門技術者の手により医療技術の観点から相当と認められる方法で実施すべき旨の条件を付した捜索令状により強制可能である。なお,当該処分は,同時に専門技術者たるレントゲン技師や医師の知識・経験に基づく判断・報告をも要すると見られるので,後述の「鑑定処分許可状」も必要である

このように処分の目的に着目した性質決定を優先した結果,条件の付加に関する実定法規の不存在や処分の実施主体が法的には捜査機関とされていることは特別の支障とならず,処分の性質と対象者の身体の安全への配慮という実質に焦点が据えられている。これは,法規の明文,処分の主体や法益侵害態様の差異に留意していた従前の解釈の枠組みを踏み越えるものであった。最高裁の決断は,身体検査令状に関する規定の準用と裁判官の付するべき条件記載内容の明示という法解釈の外形を採りながら,実質的には捜索差押令状に身体検査令状(条件の付加)と鑑定処分許可状(必ず専門家たる医師が実施する)とを合成した新たな令状の形式を創出したものにほかならない。強制処分法定主義との整合性が問題となる。

以上の場合とは異なり,人の体内から生体の一部を採取する行為は,それが証拠「物」の探索・発見や収集・保全といえないので,「捜索」「差押え」には当たらない。例えば,体内から老廃物として早晩排出される尿とは異なり,生体を構成する血管内の血液髄液精液等の体液は,捜索差押の対象となる「物」には該当しないと解されるので(法99参照),強制採尿に関する最高裁判例の射程外である。法的性質・令状の形式については別途検討を要する。

 

Ⅱ 人の身体を対象とする処分の諸類型(検証としての身体検査)

検証とは,場所・物・人の身体の状態を五官の作用により認識する強制処分である。このうち,人の身体そのものが検証の対象となり,または検証の目的達成のため必要な処分で人の身体に作用が及ぶ場合(法129・222Ⅰ後)を,検証としての身体検査という。処分の対象が高度の法益に関係する人の身体であることから,法は特別の規定を設けて不当不合理な法益侵害を防止し,生命・身体の安全や名誉・羞恥感情の保護を図っている。

捜査機関が検証としての身体検査を実施しようとする場合には,特に身体検査令状によらなければならない(法218Ⅰ後)。身体検査令状の請求に際しては,身体の検査を必要とする理由および身体の検査を受ける者の性別,健康状態を令状裁判官に示さなければならない(法218Ⅳ)。そして令状裁判官は,身体の検査に関し,適当と認められる条件を付すことができる旨の明文規定が設けられている。

検証としての身体検査により実施が可能となる処分の態様や範囲・程度については,古典的な分類に従えば,次のように考えられる。

第1に,身体の捜索との対比から,着衣の全部又は一部を取り去って対象者を裸にし,身体の状態を観察・認識する行為に及ぶことができる。これに対して対象者の着衣を取り去ることなくまたは羞恥心を害さない態様で,身体の状態を外部から観察したり容貌を認識したりする場合には,身体検査令状による身体検査ではなく,検証の一般規定に拠って検証令状により実施可能な処分(場合によっては任意処分)と位置づけられる。例えば,被疑者と犯人の同一性を確かめるための容貌の認識や足の形状を認識する場合などについては,拘束中の被疑者の指紋・足型採取と同様に身体検査令状は不要である。

第2に,鑑定処分としての身体検査とは法的にその目的の内容と主体を異にすることから,専門家でなければ実施が困難で対象者の生命・身体の安全が害されるおそれのある行為に及ぶことは,原則として許されず,専門家ではない捜査機関でもわかる程度,具体的には身体の外部から観察し触れる程度の行為態様に止まるべきである。もっとも,前記のとおり,身体検査令状には適当と認める条件を付することができ,その条件の内容として例えば医師により医学的に相当と認められる方法により身体検査を実施するよう記載すること,あるいは医師を補助者として検査を実施すべき旨記載することが可能である。この場合,実質上の実施主体は専門家である医師や医療技術者ということになるから,一定範囲で身体への侵入等医療技術を用いた身体検査が可能となる。なお,この場合の処分は鑑定に必要な処分の性質を併有することが多いと思われる。

ところで,対象者の着衣の全部又は一部を取り去る必要がある身体検査においては,対象者への配慮からも公衆の目に触れない一定の場所で実施することが適切と認められる場合があろう。では,捜査機関は身体検査を拒否する対象者を強制的に検査に適した最寄りの場所まで連行することができるか。本来的処分の想定する法益侵害とは別個固有の侵害であるから付随的措置とはいえず,検証の規定だけでは法的根拠を欠き不可能とする考え方と,付随的措置として法的根拠はあり,可能とする考え方がありうる。

 

Ⅲ 人の身体を対象とする処分の諸類型(鑑定処分としての身体検査)

鑑定とは,特別の知識経験に属する法則またはその法則を具体的事実に適用して得られる意見・判断の報告である。捜査機関は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは特別の知識経験を有する者に対して鑑定を嘱託することができる(法223Ⅰ)。捜査機関から鑑定の嘱託を受けた者を「鑑定受託者」という。鑑定受託者は,法225条の規定に拠り裁判官の許可を受けて鑑定に必要な処分を実施することができる(法225Ⅰ・168Ⅰ)。鑑定に必要な処分の許可請求は,捜査機関から行い(法225Ⅱ),裁判官は請求を相当と認めるときは許可状(鑑定処分許可状)を発しなければならない(法225Ⅲ)。鑑定処分許可状には,被疑者の氏名,罪名,鑑定受託者の氏名等のほか,鑑定に必要な処分に対応する事項が記載される(法225Ⅳ・168Ⅱ参照)。

鑑定受託者は,鑑定について必要がある場合に,「人の住居若しくは人の看守する邸宅,建造物若しくは船舶内に入り,身体を検査し,死体を解剖し,墳墓を発掘し,又は物を破壊することができる」(法225Ⅰ・168Ⅲ)。このうち,鑑定に必要な処分として人の身体を検査する場合を一般に「鑑定処分としての身体検査」という。検証としての身体検査の場合と同様に,令状裁判官は「身体の検査に関し,適当と認める条件を付することができる」(法225Ⅳ・168Ⅲ)。

鑑定処分としての身体検査は,専門家が主体の鑑定という目的に必要な処分として実施されるものであるから,行為態様として特別の知識経験を有する専門家が実施するのにふさわしい検査内容が想定され,専門的医学知識や医療技術を必要とする検査が可能であると考えられてきた。例えば,人の身体の状況を専門的に認識判断するため,身体の外表検査に止まらず身体内部への侵襲に及ぶ医学的検査判断(例えば,レントゲン撮影,胃カメラ検査,内視鏡検査)や血液等の体液採取も可能であると解される。

鑑定処分としての身体検査について法は,検証としての身体検査に関する規定を一部準用して間接強制を認めている。身体検査を拒んだ者には,過料・費用賠償を賦課し,又は刑罰を科することができる(法225Ⅳ・168Ⅵ・137・138・140)。しかし法は,総則の鑑定処分としての身体検査について172条で直接強制を定めているにもかかわらず,嘱託鑑定に関する法225条はこの規定を準用していない。また検証としての身体検査の直接強制を定めた法139条の準用も除外されている(法168Ⅵ参照)。直接強制を根拠付ける明文規定は存在しない。

被疑者は,間接強制として課される刑罰等と,被疑事実で有罪とされる場合に課される刑罰を考量して鑑定処分としての身体検査を拒むことができることになる。このような立法政策は捜査の必要性をあまりにも軽視した不適切なものである。捜査実務・判例は,鑑定処分としての身体検査についても一定の場合には直接強制を可能にする法解釈を試みている。それは,検証としての身体検査令状と鑑定処分許可状の両者を併用すれば強制可能であるとする解釈である。

ただし,このような令状の併用が合理的に説明可能であるのは,現に人の身体に対して及ぼされる法益侵害行為が,法的には捜査機関を主体として実行されている検証としての身体検査であると同時に,専門家である鑑定受託者の実施する鑑定に必要な処分でもあると整理しうる場合に限られるべきである。例えば,検証としての身体検査令状における条件として,「採血は医師をして医学的に相当な方法により行う」旨が記載され,そのような採血行為の直接強制が,法的に医師を補助者とした捜査機関による身体検査に当たると評価でき,同時に当該医師による採血行為が鑑定受託者の鑑定に必要な処分でもあるとみられる場合である。

このような観点からは,身体に対する侵襲行為の目的が,令状における条件の付加により医師等の専門家を補助者ないし現実の実施主体として実行される「検証」としての身体検査と評価できる場合には,検証としての「身体検査令状」を用いるのが妥当である。また,ある行為が,令状における条件の付加により医師等の専門家を補助者ないし現実の実施主体として実行される「捜索差押え」と評価できる場合には,条件付きの「捜索差押令状」を用いるのが一貫する。そして,いずれの場合についても,そこで実施される医師等の行為が,同時に「鑑定に必要な処分としての身体検査」でもあると評価できる場合には,併せて鑑定処分許可状の発付を得て,処分を実施するのが妥当である。換言すると,検証・捜索差押処分の結果の分析[証拠化]に際して,専門的知識経験に属する法則やその法則を具体的事実に適用して得られる意見・判断を必要とする場合である。他方,「医師をして医学的に相当な方法により行う」という条件を付加すれば足り,その結果の分析[証拠化]には簡単な試薬を使用すれば可能な,覚せい剤自己使用事犯における強制採尿のような場合は,「鑑定に必要な処分としての身体検査」には含まれないというべきである。

令状を併用する実例として,強制採血について条件を付した身体検査令状と鑑定処分許可状を併用することや,身体内部の状態を専門的見地から観察し証拠物の存在を探索する目的で実施するレントゲン検査について条件を付した捜索令状と鑑定処分許可状を併用することが挙げられる。

 

Ⅳ 人の身体を対象とする強制処分の限界

生命に重大な危険を生じる行為は,強制の処分としても許容し難い。例えば,医療行為としての緊急性がないのに,対象者の嚥下した証拠物を収集するために胃を切開することは,許容性の限界を越える。これに対して一時的な肉体的不快感や健康状態の障害・不良変更をもたらす吐剤や下剤の処方については許容される場合がありうるが,事案によってはそのような手法を用いることの必要性・相当性が否定されうる(比例原則)。