k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

刑事訴訟法⑤ 逮捕・勾留

  • 身柄拘束処分

 

 

Ⅰ 逮捕前置主義

 

逮捕前置の趣旨は,短時間の拘束の後,勾留請求段階で身柄拘束継続の理由と必要性を速やかに勾留裁判官の慎重な審査に付すことにある。また,検察官が被疑者の身柄拘束継続を求めるかどうかを検討し,勾留請求をしないことにより拘束を終了させるか否かの判断を行うための機会を制度的に保障するという趣旨もある。

逮捕後に捜査機関の執るべき措置をみると(法203~205),捜査機関には,被疑者の弁解を聞いて留置の必要がないと思料される場合には直ちに被疑者を釈放する判断権限が与えられている。身柄拘束後,被疑者本人による弁解内容や捜査状況により,逮捕時の嫌疑が消えたり拘束の必要性のないことが明らかになったりする場合が想定される。捜査機関の判断による釈放は,被疑者の利益のためこのような事態に対応するためのものである。このように逮捕後勾留請求するまでの比較的短期の留置時間は,主として,検察官が被疑者の身柄拘束継続を求めるかどうかを検討し,早期の釈放により拘束を終了させるか否かの判断を行うための期間である

このような逮捕前置の趣旨からして,事実で逮捕した被疑者について,拘束中にその事実が消えたが,別のB事実の嫌疑が生じた場合,B事実のみでいきなり勾留することは許されない(なお,捜査の結果当初の逮捕被疑事実が同一性のある異なった被疑事実,または実体法上一罪の関係にある被疑事実に変化した場合は別論である)。この場合B事実についての被疑者の弁解聴取や捜査状況によりB事実の嫌疑が薄弱化する可能性があるから,まず逮捕手続を先行させて慎重を期すことが法の趣旨に合致する。確かにB事実による逮捕を経て勾留が認められた場合には,事後的に見ると身柄拘束時間の点で被疑者の不利益となる。しかし逮捕手続の先行により勾留されず釈放される可能性もあり,この点はB事実に基づく逮捕手続を省略する理由にならない。

次に,A事実で逮捕した被疑者について勾留の段階でB事実を付加してAB両事実について勾留することはできるか。逮捕前置の趣旨が逮捕段階での釈放の可能性を見込んだ慎重な身柄拘束の審査であるとすれば,原則として逮捕の前置のないB事実での勾留は許されないはずである。しかし,逮捕の前置されているA事実につきこのような審査を経て勾留の根拠が認められる場合,被疑者の身柄拘束が継続されることは動かないので,勾留段階でB事実が付加されても被疑者に格別の不利益はないB事実の逮捕手続が省略される分だけ拘束時間について被疑者の有利に作用する側面も合わせ考えれば,例外的に適法と解すべきである。

 

 

Ⅱ 逮捕手続の違法と勾留

 

前記のとおり,逮捕前置の趣旨は,短時間の拘束の後勾留請求段階で身柄拘束継続の理由と必要性を速やかに勾留裁判官・検察官の慎重な審査に付すことにある。それ故に制度上も逮捕手続については不服申立ての方法は設けられていない。このような身柄拘束制度全体の趣旨に鑑みると,法は逮捕手続の瑕疵の審査を,すべてこれに引き続く勾留請求の場面で行うことを想定していると考えるのが合理的である。そこで,勾留請求に先行する逮捕手続の瑕疵のうち,明文のある身柄拘束時間制限超過に匹敵するような重大な違法が認められる場合には,勾留裁判官はそのような重大な違法手続に基づく勾留請求を却下すべきである。重大な違法があるかどうかで問題となるのは,緊急逮捕の要件があるのに誤って準現行犯逮捕したような場合や,適法な緊急逮捕手続をとることなく実質逮捕に当たる任意同行が行われたような場合である。既に見たとおり,このような場合でも,法定の時間制限内に勾留請求が行われるときは,身柄拘束自体を法形式の選択の誤りや逮捕手続の実行方法の軽微な過誤とみて違法の重大性を認めず勾留請求を許容するとの考え方も成り立ちうる。しかし,現に法定の手続が踏まれていない身柄拘束処分の実行はやはりそれ自体重大な違法と考えるべきである。逮捕手続の違法をも併せ事後審査すべき役割を担う勾留裁判官の選択肢は,勾留請求却下か否かしかない(この点で違法収集証拠排除の場面とは異なる)。また,勾留請求却下をしても,後述するように一定の場合は再逮捕が許容されると考えられる(この点でも強い効果である証拠排除とは異なる)。それ故,裁判官が逮捕段階の瑕疵を顕在化させて明確な違法宣言を行い,違法捜査に対するコントロールを及ぼすため,一度勾留請求を却下する形をとること自体が適切な方策といえる(違法収集証拠排除法則の適用場面においては,証拠能力の判定に際し捜査手続の違法評価を明示宣言したうえで,証拠物の証拠能力は肯定するという途が可能である)。

さらに問題となるのは,先行する逮捕手続に違法がある事案では,第1に,勾留裁判官と同様に法律家として逮捕手続の適正を監視すべき責務のある検察官が,一度被疑者を釈放したうえ,適式な逮捕手続をやり直して勾留請求する場合がありうる。第2に,違法逮捕を理由とする勾留請求却下後,検察官が逮捕手続をやり直して再度勾留請求する場合も考えうる。このような違法手続に起因した被疑者釈放後の再逮捕は許されるか。

このような場面においては通常,被疑者に身柄拘束の理由逃亡・罪証湮滅のおそれが存在していると考えられるので,令状裁判官は当該具体的事案の性質(例えば重大事犯かどうか)に加えて,再逮捕による手続のやり直しを認めない結果として被疑者が釈放されることの捜査に及ぼす影響の程度と,当初の逮捕手続の違法の程度とを慎重に勘案して再逮捕の適否を判断しなければならない。身柄拘束の必要性自体はなんら変化していないのであるから,検察官による適法な逮捕手続のやり直しとみられる場合や,勾留裁判官が一度逮捕手続の違法を勾留請求却下により明示宣言した後は,原則として再逮捕を許容してよいと解する。もっとも,被疑者の拘束期間について再逮捕留置時間や再請求後の勾留期間の短縮を検討する等の方法で厳しい利害対立状況の合理的調整を図るべきである。

 

 

Ⅲ 逮捕・勾留と「被疑事実」との関係(事件単位の原則)

 

逮捕・勾留という身柄拘束処分の効力は,令状裁判官の審査を経て手続的に明示顕在化された事実についてのみ及ぶ。これが事件単位の原則である。

その根拠は以下のとおり。令状主義の下,被疑者の身柄拘束処分を行うには,原則として裁判官による正当な根拠の事前審査が要請されている。その中核は,被疑者が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の存在である(例えば通常逮捕について法199,勾留について法207Ⅰ・61Ⅰ本)。そして,勾留の場合には,裁判官が「被疑事件」を告知して被疑者の陳述を聴取する勾留質問の手続を経ることも要請されている(法207Ⅰ・61)。さらに,この具体的な犯罪事実は,身柄拘束処分を基礎づける「令状」に「被疑事実の要旨」として明示記載されなければならない(例えば逮捕状につき法200,勾留状につき法207Ⅰ・64)。一定の疎明資料に基づき具体的な犯罪事実の存在する合理的蓋然性が認められることにより,はじめて身柄拘束という重大な基本権制約が許されるのであり,このことを間接的に担保するため,身柄拘束手続全般を通じて,いかなる被疑事実で身柄拘束されているのかは被疑者に対して明らかにされているのである。しかるに身柄拘束処分に際して手続上明示されていない事実を被疑者の不利益に勘案してよいとすると,これらの事前審査・手続上の明示により実体的要件を欠く違法な身柄拘束を防止するという令状主義の趣旨が没却される。事件単位の原則は令状主義の潜脱を防止するための準則であるということができる。

A事実で勾留中の被疑者について,B事実の嫌疑が生じている場合に,B事実で逮捕・勾留の手続を執ることなくこれを勘案して勾留期間の延長(法208Ⅱ),接見・授受の制限(法207Ⅰ・81)等を行うことは許されない。B事実について身柄拘束を継続し捜査を続行する必要性があれば,新たにB事実により逮捕・勾留の手続を執らなければならない。この結果,一人の被疑者についてAB別個の事実で重ねて勾留が行われることになるが,それは身柄拘束処分の根拠について明示的な令状審査を行うという観点から必要不可欠の手続である。

なお,事件単位の原則は,身柄拘束処分を実施するに際して手続的に明示された被疑事実のみを考慮できるとするものであるから,この場合とは逆に,既に実施された身柄拘束処分が,拘束の根拠とされた事実以外の事実の捜査等に現に利用されていた場合において事後的にこのような事情を拘束対象者の利益方向に考慮することを妨げるものではない最高裁判所判例が,身柄拘束の根拠とされていなかったB事実有罪の場合の未決勾留日数に無罪とされたA事実による勾留日数を算入することを認めた事案や,勾留されたA事実は不起訴,その勾留期間を利用して捜査が実施され起訴されたB事実が無罪とされた場合にA事実による勾留を対象に刑事補償を認めた事案は,このような観点から理解し位置づけられるべきものである。

 

 

Ⅳ 逮捕・勾留と「被疑事実」との関係(分割禁止の原則)

 

検察官は,実体法上一罪の関係にある犯罪事実については,これに対応する1回の身柄拘束処分を利用して捜査を遂げ同時に処理すべき義務を負うものとされ,一罪の一部を構成する個別の犯罪事実ないし可罰的行為を取り出して別途身体拘束処分を行うことはできないとされる。これが分割禁止の原則である。

被疑事実が,具体的な犯罪事実ないし可罰的行為としては分割可能な場合がある。例えば,実体法上,常習罪として一罪と評価・処罰される事実(例えば常習累犯窃盗罪)には,複数の可罰的行為(別の機会・場所における窃盗行為)が含まれる場合がありうる。また,科刑上一罪・包括一罪の中にも同様の場合がある(例えば包括的に一罪と評価しうる一連の業務上横領行為)。このような犯罪類型についても,身体拘束処分の個数はあくまで実体法上の「一罪」を基準に考え,これを分割しての逮捕・勾留は原則として許されない。

もっとも,常習一罪,科刑上一罪,包括一罪は,もともと複数の具体的犯罪事実が含まれうるのであるから,捜査の具体的状況と身柄拘束対象者の行動状況によっては,分割禁止の原則を徹底することが極めて困難な場面がある。一罪につき1回の身柄拘束処分で捜査を遂げ同時処理すべき検察官の義務を想定し,この原則の根拠を説明する以上は,「同時処理の可能性」が必要条件である。とすれば,論理的に同時処理がおよそ不可能な犯罪事実についてまでこの原則を及ぼすことは不合理である。このことから,一度釈放された後に,前の身柄拘束の基礎とされた事実と一罪の関係にある犯行が行われた場合には,例外的に再度の身柄拘束が許されると解すべきである。

問題が残るのは,当初の身柄拘束処分より以前に実行されていた一罪を構成する犯罪事実が,後に発覚した場合である。この場合,当該犯罪事実は観念的には当初の身柄拘束処分によって同時処理が可能であったはずといえる。具体的事実を捨象し,「同時処理の可能性」という判断枠組みをこのレベルまで抽象化することにより,個別具体的な事案における捜査機関側の事情の考慮は遮断され,対象者の再度の拘束の可能性は極小化される。しかし,同一被疑事実の場合でさえ,特段の事情変更があれば例外的に再逮捕・再勾留を許容するという考え方を採るのであれば,再度の拘束を全く否定することはできない。個別具体的事案において,当初の身柄拘束時点において一罪の一部を構成する犯罪事実が捜査機関に判明しなかった点について,やむをえないと認められる合理的な理由があり(すなわち現実的に同時処理の可能性がなかったと認められ),それが事情変更により新たに判明した場合で,かつ,高度の必要性が認められる場合に限り,再度の身柄拘束処分を許容する余地があると解すべきである。

 

 

Ⅴ 再度の逮捕・勾留

 

法は身柄拘束期間を厳格に限定して,人身の自由とこれを侵害する捜査目的達成の必要性との調整を図っているため,同一の被疑事実について逮捕・勾留を無制約に反復することは許されない。再逮捕・再勾留の原則的禁止の原則である。

もっとも,逮捕については,法が同一被疑事実について再逮捕が行われる可能性を予定しているとみられる規定がある(法199Ⅲ,規142Ⅰ⑧)。「同一の犯罪事実について」前に逮捕状請求・発付があった旨裁判所に通知させるこの規定は,逮捕と釈放の繰り返しにより不当な自由侵害が生じるのを防ぐ趣旨であり,それは同時に合理的な理由のある場合,同一の被疑事実に基づく再度の逮捕状請求・発付を想定していると解される。

逮捕状により被疑者が現に逮捕された後,再び同一被疑事実について逮捕状を請求し再逮捕することが合理的と考えられるのは,次のような場合である。

第1は,被逮捕者が引致後留置中に逃亡した場合である。第2は,捜査機関の側の手続に特段の瑕疵・違法がなく,いったん逮捕された被疑者を釈放した後に,事情の変更が生じて身柄拘束の理由・必要性が新たに生じた場合である。当初の逮捕後の捜査の結果嫌疑が薄弱化しているとして釈放されたがその後の有力な新証拠が発見されて身柄拘束の理由が生じた場合や,逃亡・罪証湮滅のおそれがないとして釈放されたが釈放後に新たにそのおそれが生じた場合が挙げられる。そもそも逮捕後の段階では,留置の必要がないと認められる被疑者は早期に釈放されるべきである。とすると,「事情変更がある場合には再度の拘束で対応できる」というルールが承認されていることが,当初の拘束を不当に長引かせないためのインセンティブとなり,望ましい法政策である

同一被疑事実による再逮捕が合理的と認められるかどうかは,諸事情の総合判断にかかる。考慮要素は以下のとおり。①再逮捕の理由または必要性を新たに生じさせた事情変更の内容②再拘束して捜査を続行する必要性③事案の重大性④先行する身柄拘束期間の長短

同一被疑事実に基づく被疑者の再勾留については明文の手がかりはないが,禁止する明文もなく,実質的にも,勾留期間満了前であってもその理由・必要がなくなれば被疑者は直ちに釈放されるべきであるところ,事情変更による再拘束の可能性がないとなれば,釈放を控えがちになる(または勾留延長請求を積極的に行う)という弊害があるので,再勾留の認められる余地は残しておくべきである。

もっとも,拘留の期間は逮捕よりはるかに長期に及ぶから,事情変更の内容・程度についてはより慎重な考慮を要する。考慮要素は上記①~④である。④に関連して,事情変更が認められたとしても,捜査機関が先行する勾留期間10日のみならず延長10日間をも使い切っているような場合には,再勾留は許されず,再逮捕にとどまると考えるべきである(再逮捕中速やかに起訴し,起訴後の勾留で対応するという途は考えられる)。他方,先行する身柄拘束が勾留期間満了前の釈放であり,その後,やむをえない事情により判明していなかった新事実が発覚し,新たに逃亡・罪証湮滅を防止して捜査を継続する高度の必要性が生じた場合には,例外的に再勾留を認める余地がある。