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経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

刑事訴訟法③ 行政警察活動と捜査の隣接領域

 

 

行政警察」に分類される警察官の活動は,その目的の内容が「犯罪の予防,鎮圧」や「交通の取締」(警察2Ⅰ参照)などである。具体的な犯罪事実の解明を通じて公訴提起の準備を行うことを目的とする「司法警察」活動とは区別される。もっとも,行政警察目的で実行される警察官の活動のうち,いわゆる「職務質問」(警職2)や,交通取締等の目的で行われる「自動車検問」は,警察官が刑訴法上の捜査機関(司法警察職員)でもあることから(法189Ⅰ),その過程で具体的な犯罪の嫌疑が認知されることにより,直ちに捜査に移行する可能性があるとともに(189Ⅱ),その過程で得られた資料・情報(例えば職務質問に伴う所持品検査により発見された覚せい剤)が,刑事訴追や公判手続において利用される可能性もあるという点で,捜査と密接な関連を有する。

 

 

Ⅰ 職務質問の意義と法的根拠

 

職務質問とは,警職法2条の規定に基づき,警察官が挙動不審者その他の者を停止させて質問する活動をいう。同法2条1項は,異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して,①何らかの犯罪を犯し若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者,又はすでに行われた犯罪について若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者,を対象者として挙示し,これを停止させ質問できる旨を定めている。

職務質問には,将来行われようとしている犯罪の予防を目的とするものが含まれ,また,未だ具体的に特定されるには至らない「何らかの犯罪」を対象とする。ここから,職務質問の目的は「犯罪の予防,鎮圧」であり,その法的性質は行政警察活動であると解されることになる。

警職法2条の規定は,警察官が国民に対して停止・質問という活動をする場合の要件を定めるとともに,その具体的権限内容を示した根拠規範である。国民に対する停止・質問・同行の要請は,強制手段を用いることはできないとされているものの(警職2Ⅲ),対象者に働きかけその自由を侵害するものであるから,そのような侵害的性質の行政作用については,法律上の要件を定めその根拠を明示しなければならないとの考え方侵害留保)に基づき,警職法の規定が設けられているのである。

職務質問は,未発覚の犯罪を探知するきっかけ(捜査の端緒)になりうる。質問の結果,個別具体的な犯罪の嫌疑が生じた場合には,職務質問を受けた者は質問の過程で捜査の対象となる「被疑者」となりえ,また質問の対象者が特定の犯罪の犯人である疑いが生じれば,刑訴法の要件を充足する限り,身体拘束(現行犯逮捕や緊急逮捕)のような捜査上の強制処分に移行する場合もありうる。このように職務質問から犯罪捜査へ移行した事案において,職務質問段階に違法があった場合には,これに接続した捜査手続との密接関連性・直接的な因果関係が認められる限り,その違法は移行後の捜査手続の適法性に影響すると解されている。

また,質問を実施した警察官の主観を問わず,職務質問が,特定の犯罪の嫌疑に基づきその解明のため行われていると事後的に評価しうる事案もありうる。このような場合,当該警察活動の実態は捜査活動そのものでもあるから,そのような実質に即して,警職法とともに,刑訴法も競合的に適用されると考えるべきである。そして刑訴法がより厳格な要件を定めている場合には,そちらが適用され,実行された警察官の活動の適否が決せられることになる。

 

 

Ⅱ 職務質問における「停止」「同行」

 

警職法2条1項・2項は,対象者を限定した上で,質問をするために必要な限度で歩行中の人を「停止」させ又は「同行」する具体的権限を警察官に付与している。

このような根拠規定による停止・同行手段が定められている以上は,一定程度の有形力行使など対象者への積極的働きかけがありうることが前提となっている。

他方で,同条3項は刑事訴訟に関する法律の「特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」(である身体拘束や意に反する連行)と評価されるような措置を取りえないことを明記している。このように警職法が停止等の措置の限界に関して刑訴法に言及していること,及び職務質問と捜査との密接関連性からして,警察官の捜査活動に対する法的規律の構造と基本的に同様の判断枠組みで,職務質問に伴う「停止」「同行」を捉えておくことが合理的である。

すなわち,警職法2条1項の定める停止権限および同条2項の同行は,刑訴法上の強制手段たる「身体拘束」には至らない任意手段でなければならず,かつ,そのような領域の法的制御については,任意捜査の適否・限界についての考え方と同様に,ある手段を用いる必要性と,侵害される対象者の法益との合理的権衡が認められる場合に限り許されると解すべきである(比例原則)。現に警職法は「この法律に規定する手段は,前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべき」と定めている(警職1Ⅱ)。

警察官の行為が身柄拘束や意に反する連行に至る違法な強制手段の行使であったかどうかの評価は,それが対象者の意思を制圧し,身体・行動の自由という重要な法益を侵害するに至っているかにかかっている。そして強制手段と評価される措置については,法定の要件を充足していない限り,具体的状況の如何を問わず違法な強制手段となる。

その具体的事案へのあてはめにおいては,警察官の行為が「流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき」場面であるだけに,微妙な場合がある。一般論として,「逮捕」に際して用いられるような強度の有形力・物理力の行使は,対象者の意思と行動の自由を制圧する「強制手段」に当たると解すべきである。ただ,対象者の行為態様に即応して,「停止」状態を作り出すため瞬間的に高度の有形力を加える措置については,これを「身体拘束」とみるべきではなく,「停止」の際の有形力行使が具体的状況の下で権衡していたかどうかの問題と捉えることが適切である。

他方で,対象者の身体に対する直接的な有形力の行使はなく,あるいはごく軽微であっても,対象者の移動の自由を制約する状態が一定時間継続し,意に反して行動の自由が相当程度奪われていたと認められる場合は,意思制圧,法益侵害の両面において「身柄拘束」に当たるというべきである。

なお,最決平成6・9・16は,「警察官が〔エンジンキーを取り上げ〕被告人による運転を阻止し,約6時間半以上も被告人を本件現場〔路上〕に留め置いた措置」について,違法な「身柄拘束」すなわち無令状の違法逮捕とは見ていないのが参考になる。

警職法において「停止」「同行」は,あくまで「質問」を実施するために必要な手段として認められているのであるから,警察官の有形力行使が職務質問実施の必要性とおよそ無関係であれば,その程度を問わず当然に違法というべきである。他方,質問を実施するために必要と認められる行為は,それが強制手段に当たらないと評価される限り,停止・同行という行為類型にあてはまらなくとも,「質問に付随する措置」として適法である。判例には,ホテルの客室内に居座った客に対し,ホテル責任者の要請で臨場した警察官が,職務質問を行うに際し,相手がいったん開けた内ドアを急に閉めて押さえたのに対して,「質問を継続し得る状況を確保するため,内ドアを押し開け,内玄関を客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ,内ドアが閉められるのを防止したことは,警職法2条1項に基づく職務質問に付随するものとして,適法な措置であった」としたものがある(最決平成15・5・26)。ここで問題とされた行為は「停止」という文言には該当しないが,警職法により「質問」権限が認められていることから,その目的達成に必要な手段,すなわち「質問に付随するものとして同法の規定により併せ許容された手段の実例といえよう。これは,もとより明文の根拠がない措置を認めたものではなく,また,警察法2条の「警察の責務」の規定から導かれるものでもない。「質問」目的達成のために必要な措置は,「質問」に付随するものとして許容されていると整理すべきである。

 

 

Ⅲ  職務質問に伴う所持品検査 (論点:①法的根拠,②捜索との区別,③比例原則)

 

(1) 問題の所在  所持品検査とは,警察官が職務質問に際して対象者の携帯品を調べる活動をいう。このうち,停止させた対象者の所持品について質問し,その提示を求めることは「質問」そのものであるから,警職法2条1項の要件が認められる限り問題はない。また,対象者に承諾がある場合には,法益侵害がないので,やはり問題はない。

他方で,対象者の意思を制圧し,着衣の中や身体を検査したり携帯品を取り上げたりしてその内容を逐一点検するような態様の行為は,身体の自由・プライバシーの権利を侵害するもので「捜索」に当たり,法定の要件を充足しない限り事案の具体的状況を問わず刑訴法に反する違法な活動となる。

問題となるのは,これらの中間に当たる態様の行為である。対象者の承諾がないのに,その着衣や携帯品に外側から手を触れて所持品の状態を確認する活動(外表検査型),また,さらに進んで,承諾がないのに着衣ポケット内に手を入れたり携帯する鞄を開けたりしてその内容が何であるかを確かめる検索的活動(検索型)が果たして許されるのか,という点である。

所持品検査は任意手段である職務質問の付随行為として許容される(論点①)のであるから,所持人の承諾を得て,その限度でこれを行うのが原則である・・・。しかしながら・・・流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務に鑑みるときは,所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許されないと解するのは相当ではなく,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,所持品検査においても許容される場合がある(論点②)と解すべきである。もっとも・・・所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり,捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから,状況の如何を問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって,かかる行為は・・・所持品検査の必要性,緊急性,これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ,許容されるものと解すべきである。」(米子銀行強盗事件)

(2) 論点① 法的根拠  職務質問に際して行われる所持品検査は,警職法2条1項の定める「質問」という目的達成のため,質問に密接に関連し必要不可欠な場合に限りこれに付随して許容されている,と解される。このような限度で承諾なき所持品検査の根拠は警職法2条1項に求められる。

なお,警察官が職務質問の過程で対象者の承諾なき所持品検査に及ぶのは,質問に対する対象者の応答状況や所持品提示要求の拒絶等の諸般の事情から判断して,具体的な犯罪(例えば覚せい剤の所持・自己使用)の嫌疑を抱き,その解明に向けて踏み出す場面であることが多い。この場合その法的性質は捜査でもあると評価され,所持品検査行為が犯罪捜査でもあると評価された場合には,刑訴法197条1項本文に基づき,それが「強制の処分」に当たらない限りは任意捜査として許容される。

(3) 論点② 捜索との区別  次の問題は「捜索に至らない程度の行為」と事案の具体的状況を問わず違法というべき無令状の「捜索」との区別である。どちらも人の身体や所持品の秘密という高度の法益を侵害する上に行為態様も身体や所持品を人の衣服の中に手を入れる点で共通している。

この点,「検索型」の所持品検査と「捜索」に明確な区別を見出すことは難しい。よって,検索型の所持品検査は捜索の要件を満たさない限りできないと解すべきである。

他方,「外表検査」は,外側からの接触に限定するという行為態様について,強制処分たる「捜索」との区別は明瞭である。そして,権利侵害の程度は検索型よりも微弱である。よって,「外表検査」は捜索にはあたらないと解するのが妥当である。

(4) 証拠物発見を目的としない所持品検査  質問対象者が人の生命身体の安全を害するような凶器その他の危険物を所持している疑いがある場合に,警察官は自らを守り職務質問を安全に実施するため,対象者の承諾なしに,その着衣や携帯品の外表に手を触れて凶器所持等の有無を確認し調べる行為は許される。凶器等危険物の有無確認目的での所持品検査も,「外表検査」行為に限って認められるべきである。その法的根拠は,やはり警職法2条1項の質問権限に求められる。質問の安全な目的達成に必要な措置として,又は妨害排除措置としてこのような行為も当然に併せ許容されている。なお,凶器等危険物発見後の措置等,この点にはなお事案類型別の検討の余地がある。

なお,いずれの類型でも比例原則適合性が問われることには留意すべきである。

 

Ⅳ 自動車検問

「自動車検問」とは,警察官が走行中の自動車に停止を求め,運転者・同乗者に対し必要な質問等を行う活動をいう。交通取締目的の「交通検問」,不特定の犯罪の予防・検挙目的の「警戒検問」,特定の犯罪が発生した際に犯人の捕捉や捜査情報収集を目的とする「緊急配備検問」に分類される。

これらの各種の検問を通じ,走行状態や外観に不審・異常が認められる自動車(例えば蛇行運転,窓やドアが損壊)については道交法上の措置として停止を求めることが可能であったり,運転者が警職法2条1項の挙動不審者に該当したりするので,停止を求める根拠規定については問題がない。警職法の要件が認められる場合には,質問実施のため停止させるのに必要と認められる任意手段を執ることができる。路上を歩行中の人ではなく,高速走行中の自動車運転者に働きかけて「停止」させるのであるから,その方法・態様は異なるものの,強制手段に至らない程度の措置が可能となる点では通常の職務質問のための停止と同様である。また例えば,緊急配備検問の際に,自動車や走行の外観から犯人と疑われる者が運転していることが認知できれば,犯罪捜査としての任意手段にとどまらず,要件を充たせば強制処分(例えば緊急逮捕)も可能である。

これに対し,走行の外観に不審・異常が認められない場合,検問の対象はおのずと無差別となり一定の場所を通過するすべての車両に停止を求める態様にならざるをえない。このような一斉検問の法的根拠につき議論がある

最高裁は,交通検問に関して「警察法2条1項が,『交通の取締』を警察の責務として定めていることに照らすと,交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は,強制力を伴わない任意手段による限り,一般的に許容されるべきものであるが,それが国民の権利,自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には,任意手段によるからといって無制限に許されるべきものでないことも同条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨にかんがみ明らかである。警察官が,交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において,交通違反の予防,検挙のための自動車検問を実施し,同署を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて,運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは,それが①相手方の任意の協力を求める形で行われ,②自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法,態様で行われる限り,適法・・・である」としている。

この判例は,ここに示された方法・態様の検問については「権利自由の侵害がない」ために特別の根拠規定は不要である旨を示したものと解される(この考え方からは,当然,警職2Ⅰのような根拠規範を要する侵害的作用は許されない。例えば,停止しない車両に対する有形力の行使,障害物の設置,警察車両による挟み撃ち)。なお,判例は,「任意の協力」により運転者に生じるある程度の迷惑を正当化する実質的な根拠について,「自動車の運転者は,公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として,合理的に必要な限度で行われる交通の取締りに協力すべきこと,その他現時における交通違反,交通事故の状況など」を挙げている。

では,警戒検問の場合,緊急配備検問の場合はどうか。前者は最高裁の交通検問の考え方を推し及ぼして正当化できる。後者は端的に刑訴法1971項本文に基づく。そのため,緊急配備検問では一定程度,意思に反する行動の制約が可能となると解される。

なお,いずれの類型でも比例原則適合性が問われることには留意すべきである。