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経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

刑事訴訟法① 強制処分法定主義/令状主義

  • 強制処分法定主義/令状主義

 

Ⅰ 強制処分法定主義

強制処分法定主義(法197Ⅰ但)は,国民の重要な権利を侵害する「強制の処分」については,処分の内容・要件・手続があらかじめ法定されていなければならないという,憲法31条の手続法定主義を受けた準則である

この準則は2つの観点から説明される。第1,「捜査活動のうち,特に国民の重要な権利自由を侵害する強制処分については,そもそもある態様の強制処分を許容するかどうか,許容するとしてこれをいかなる要件・手続によって統制するかは,主権者である国民自身が,国会を通じて決断すべきである」というのが民主主義の観点。第2,「重要な権利自由の侵害を伴う強制処分については,個別具体的事件における事後判断ではなく,その要件・手続があらかじめ一般的な法規範の形で定立され予告されているということにより,国民の行動の自由が確保されている」というのが自由主義の観点。

例えば,通信傍受法の対象である「電気通信」(法222の2,通信傍受2Ⅰ)に該当しない室内会話について通信傍受法の規定を類推適用して傍受を行うことはできない。なお,これを検証に該当すると拡張解釈して,電話検証事例と同様に許容することも妥当でない。

 

Ⅱ 令状主義

令状主義とは,人身の自由や人の住居の平穏・プライバシーの利益等重要で基本的な権利自由を侵害する捜査処分について,その個別具体的な実行に際し,原則として「司法官憲」たる裁判官の審査を受けなければならないという仕組みである。

捜査機関は自らの判断と裁量で捜査活動を行う権限を有するが(法197Ⅰ本),国民の重要な権利の侵害を伴う処分については,これを捜査機関限りの判断に委ねず,中立の立場からそのような処分を実行する理由と必要性を判断しうる裁判官を介在させ,令状発付という方式で処分の許否を審査させるものである。

住居の不可侵等のプライバシーの利益を保護している憲法35条は,令状が正当な理由に基づくべきこと,及び捜索する場所及び押収する物の明示を要請している。

裁判官が「正当な理由」として審査すべき第1の事項は,捜査の前提となる「犯罪事実が存在する蓋然性(嫌疑)」である。第2に,このような侵害行為によって収集・保全すべき「当該犯罪に関連する証拠が存在する蓋然性」がなければならない。捜索する場所・押収する物の「明示」という憲法の要請は,法益侵害の対象・範囲を明示限定して捜査機関の恣意的な捜索・差押えを防ぐためのものである。

裁判官は,このような記載をした令状が発付できる程度に,犯罪の存在の蓋然性及び明示すべき証拠が一定の場所に存在する蓋然性が判断できる場合に,前記のような捜査処分を許可することができる。そして捜査機関は,裁判官の許可により付与された具体的権限の範囲内でのみ,適法に捜索・押収を実行することができる。このことにより,捜査機関による「正当な理由」を欠く恣意的な基本権侵害行為が生じるのが防止される。

なお,捜索する「場所」の明示は,法益侵害の対象・範囲を明示限定して捜査機関の恣意的捜索を防ぐためのものであるから,前述した蓋然性判断が可能な程度に対象が他と区別して客観的に特定・明示され「場所」の明示と機能的に同様の目的が達せられれば,この要請に十分かなっているといえる。例えば,捜索の実行の際いかなる場所に存在するかは判然としない「人の身体」や「自動車」については,空間的位置の明示とは別の方法で令状に特定明示しうる。特定されたコンピュータと通信回線で接続されたデータの記録媒体等もその空間的位置以外の方法で一意的に特定明示できる。もちろん,「対象物が隠匿保管されていると思料される場所」では不十分であることは言うまでもない。

次に,犯罪の存在の蓋然性および特定の証拠の存在する蓋然性が認められる場合であっても,捜索・押収という対象者の意思に反する手法によらずに,証拠の収集保全という捜査目的が達成できる明らかな事情があれば(例えば任提領置),裁判官はそのような処分を許可すべきではない。この意味で憲法35条の「正当の理由」には捜索・押収等によらなければ目的を達成できないという処分の「必要性」が含まれている。

また,具体的な捜査処分のもたらす法益侵害の質・態様・程度によっては,当該処分を行うことが「必要やむをえない」場合であること(補充性),及び,捜査処分の前提となる犯罪の重大性,対象となる証拠の重要性,侵害される法益,の権衡が認められること(相当性)が,「正当な理由」の内容となる場合もあると考えられる。このような要件を勘案せずに令状が発付され,要件を充足しないまま実行された捜査処分は,当該個別具体的事案において「正当な理由」を欠き違憲となる。なお判例は,押収に関する準抗告に際して,裁判所が「犯罪の態様,軽重,差押物の証拠としての価値,重要性,差押物が隠滅毀損されるおそれの有無,差押によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押えの必要がないと認められる」場合であったかどうかという「差押えの必要性の有無」について審査ができる旨判示している(國學院大學映研事件)。もっとも,実際にこのような「差押えの必要性」を事前判断のみで決することは困難である。

逮捕に関しては,被逮捕者が犯人であることの蓋然性が令状発付の要件となる。この要件は,すでに実行された犯罪の存在を前提とする(法199Ⅱ「罪を犯し『た』ことを疑うに足りる相当な理由があると認めるとき」)から,将来犯罪を実行するであろうと見込まれる人を逮捕するための令状を発付することはできない他方,公訴提起と追行の準備を目的として犯罪の証拠を収集・保全する侵入・捜索・押収に関しては,令状裁判官が,当該処分の実行が見込まれる将来時点における「犯罪が存在する蓋然性」「証拠が存在する蓋然性」を具体的に審査することが可能である限り,そのような蓋然性判断を行ったうえで令状を発付することは可能である憲法35条や適正手続原理はこのような手続規定を設けることを否定はしていない。そのような立法政策や解釈論の当否は,別の問題である。通信傍受令状発付の要件の一部は,そのような構成の一例である(通信傍受3Ⅰ②・③)。