k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

【憲法】表現の自由④ 小説とプライバシー

【問題】

 

芸能人Xは某新興宗教の熱心な信者である。そのことを秘して芸能活動を行っていた。ところがたまたまXの信仰を聞き及んだ小説家Yは,Xの生き様がかねてから自分が温めていた人物像に極めて近いと感じ,Xの個人情報を徹底的に集めた上で,それに基づいてモデル小説(あくまで小説でありノンフィクションではない)『ひかり』を発表した。同書はたちまちベストセラーになった。

同書では名前や時代設定などをXと変えているにもかかわらず,同書を読んだたいていの読者は,それが芸能人Xをモデルとするものと受け止めた。また,Xの宗教については儀式の模様などからどの宗教であるかは簡単に特定されえた。同書について文壇では,人間存在を深く追求した傑作小説との評価が固まっている。

XYおよび版元Zを相手取り,プライバシー権の侵害を理由として慰謝料請求,重版差止めなどの訴えを提起したとして,同訴訟の憲法上の論点を検討せよ。

 

 

 

  • 【論点】

  1. 表現の自由の内在的制約
  2. プライバシー権の定義
  3. 宗教情報のプライバシー性
  4. 芸術表現とプライバシー侵害の相関関係

 

 

【ポイント】

 

Ⅰ 表現の自由の限界

 一般論としては,プライバシー権保護のために制定される表現規制立法は目的において合憲であり,また,プライバシー権を侵害されたとする側が表現側を相手取り提起する私人間の訴訟においては,差止めないし損害賠償を勝ち取ることができる。

 

Ⅱ プライバシー権の内容

「宴のあと」事件東京地裁判決は,プライバシー権の具体的な保護要件として,(a)私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること,(b)一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること,(c)一般の人々に未だ知られていない事柄であること,の3点を挙げている。(b)の核心は,宗教,世界観,精神病歴,犯罪歴など人の精神過程とか内部的な身体状況に関わる高度にコンフィデンシャルな情報である。

 

Ⅲ モデル小説の表現の自由プライバシー権

小説表現の自由を重視した裁判例として「名もなき道を」事件東京地裁判決がある。モデル小説であっても,()作中人物が実在の人物とは全く別人であると思われるほどに変容されているか,()そこまでいかなくとも,実在の人物の行動や性格が小説の主題に沿って取捨選択ないし変容されて,事実とは異なる意味や価値を有するものとして表現されているか,実在しない人物が設定されてその人物との絡みで主題が展開されるなど一般読者に小説全体が作者の芸術的想像力の生み出した創作であってフィクションであると受け取らせるに至っている場合には,名誉毀損プライバシー権の侵害の問題は生じない。〔制限がないのか実質的正当性を有するのかは,明らかにされていない。〕

同じく「モデル小説によるプライバシー侵害」が問題となった「宴のあと」事件とのトーンの差異が見られる。もっとも,「宴のあと」事件は,モデルとの同定可能性が明らかに認められ,ノンフィクション性も相対的に高かった事件であったため,あまり問題とならなかった部分(「私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれ」の具体的認定基準)を本判決によって明らかにした,という読み方も成り立つ。いずれにせよ明白に矛盾するものとまではいえない。

 

 

以上を参考に各自自由に思考を展開してみてください。おもしろいと思います。