k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

憲法問題解析:共有物分割制限と憲法上の財産権の保障

【問題】

最近,熱帯雨林の保護への関心が世界的に高まり,世界有数の木材輸入国である我が国も輸入木材への依存体質を改める必要に迫られている。そこで国会では,我が国の林業を発展させることで木材の自給率を上昇する必要があるとの観点から,森林経営の安定化を目指し森林法を改正し,同法に次のような骨子からなる共有分割制限規定を設けたものとする。

A 森林の共有者は分割請求権を行使する際には,その持分の大小を問わず林野庁長官の許可を受けなければならない

B 林野庁長官は,共有林の分割後,森林経営を維持するための政令で定める必要最小限度の面積以下に森林が細分化されることとなる場合には,当該分割を許可しないものとする。

 

 

【論点】

1 森林法共有林事件最高裁判決の意義

2 環境保護目的のための共有林分割制度の合憲性

 

 

【問題の整理】

 

森林法事件最高裁判決は,持分が2分の1以下の共有者からの分割請求を否定する森林法旧規定は,共有者間で経営方針の一致を見ない現状を固定化し,かえって森林経営の安定を損ねるのであるから,立法目的の実現手段として「合理性と必要性を欠くことが明らか」であるとされた。手段審査基準が何であったかは議論がある。

 

これに対して本問の規定は,旧規定の不合理さをかなり払拭しているため,これが司法審査を受けるとすれば,裁判所はどのような審査を行うのか,森林法共有林事件判決の射程が問題となる。

 

 

判例

 

森林法事件最判の射程と理解

 

A 規制二分論自体に対する批判説からは,小売市場事件判決・薬事法事件判決の射程をなるべく短くし,本判決の射程を長く取ろうとすることになる。

 

B 規制二分論がそもそも営業の自由の領域で確立された判例理論であって,はじめから財産権規制をカバーするものではなかった。森林法事件判決も,財産権の種類・性質の多様性,規制目的の多様性に加えて,規制される財産権の種類・性質・制限の程度を比較考量すべきであるとする。この説明によれば,森林法事件判決は財産権規制立法一般のリーディングケースとして,積極規制と消極規制を両端とする連続的な規制目的に対応する,明白性基準から必要最小限度の基準に至る連続的に変化する利益考量論を定立したといいうる。それが,「必要性もしくは合理性を欠くことが明らかか否か」という概括的な審査基準の形で表されている。

 

C 明治期の古い立法であるということが作用したとする見方もある。

 

D 森林法事件判決は,民法256条1項の自由な共有物分割請求権の行使をもって「各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有の移行を可能」にする「共有の本質的属性」と捉えていた。このことから,審査基準以前にそもそも単独所有の否定は許されないという実体的命題から違憲判断を導いたと見る見方もある。なお,この実体的命題は,もともと民法上の所有権の観念に属するものであるが,これを近代個人主義の理念と結びついた「近代市民社会における原則的所有形態」と捉えなおし,そのまま憲法上の財産権の内容に取り込むことによって導かれたものである。

 

 

【本問の考察】

 

1.本問新規定の合憲性

 

(1) 目的の認定

 

 本問新規定は森林経営の安定化という,旧規定とほぼ同様の立法目的を掲げる。ただし,森林経営の安定化という直接の立法目的の背後に控える,より大きな立法目的は両者で異なっている。

 

 このように根本的な立法理由が環境保護にあることから,新規定は消極目的であるとか,積極規制と消極規制の中間形態であるとかの見方も出てきうる。しかしながら,規制目的の類型如何は,直接の立法目的によって判定されるべきである。なぜなら,規制目的二分論は,立法事実の把握可能性(裁判所が審査能力の観点から立法者に敬譲を図るべき経済政策的事項と,そのような配慮を必要としない警察的・秩序維持的事項との区分)をベースにしている。新規定のように環境保護に背景的動機があるとはいえ,それを国内林業の振興によって達成しようとする立法者の判断は,その具体的政策決定においては,やはり専門的・政治的な決定であって,審査能力の面から厳格な司法審査にはなじまないのである。

 

 そこで,新規定は積極目的規制と分類すべきことになる。

 

(2) 必要性及び合理性

 

 先に見たABの捉え方からは,ここでも硬直的な二分論を用いるのを避け,連続的・可変的な手段審査基準を財産権の性質や規制目的,規制の種類態様などを総合的に考慮して決めるべきことになる。

 

 新規定と旧規定の大きな違いは,分割許可制の有無である。この差異を強調し,分割請求権が全面的に奪われるものではないこと,森林経営の安定のためには旧規定よりも合理的な手段であること,実際に農地法では農地所有権の移転につき本問と同様の許可規制が敷かれていること,を強調していけば「必要性と合理性を欠くことが明白」とはいえないという結論に達することが可能である。

 

 Cからは,本問規定は古くないので明白性基準により合憲となる。

 

 Dからはどうか。新規定も単独所有への移行を妨げるものには変わらないため,やむにやまれぬ事情があるといった例外的場合以外には違憲とされる。本問では,森林保護の目的と分割の規制という手段が合理的に関連はしているものの,森林法判決と同様,2分の1の持ち分の場合で,林野庁長官の分割許可が出ない場合,過半数がいないロックアウト状態となり,保存行為のほかは,管理行為・処分行為ともにできないことになりうるので,いたずらに個人所有という近代憲法の要請からくる,分割可能性を最大限保障するという憲法の要請する共有の本質的属性をいたずらに害するものであり,不合理な規制であると解される。その場合の立法的手当てがない限り,違憲と解するのが相当である。

※もっとも,森林法事件判決がここまでの厳格度で審査していたかは異論もありうる。