k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

株主と経営者

本稿では,株主の役割と経営者がどう企業を経営し,どう株主に接するべきか,バークシャー・ハサウェイのケースをベースにして考察した。

 

 

株主

 

バークシャー・ハサウェイの株主は一般的な株主像とは大きく異なる。同社のウォーレン・バフェットは次のように述べている。「当社は,上場企業の母集団において,投資期間が最長である株主基盤を持っており,この特徴は今後も変わることはないはずだ。実際,当社の株式のほとんどは,死んでも保有していたいと思う株主が保有している。90%以上の株主は5年前から変わっていない。また,当社の株式の95%以上は,ポートフォリオにおいて当社の株式が最大の投資となる株主に保有されている。少なくとも数千人の株主が存在し,時価総額が10億ドルを超える企業の中で,株主がオーナーのように考え,行動するという点では当社はナンバーワンである。大株主であれ,少数株主であれ,株主が当社の経営哲学に共感してくれることは,素晴らしいことであり,また満足できることでもある。」

 

 バフェットは株主は企業が選ぶべきものだと考えており,以下のようにして質の高い株主構成を構築してきた。

・求める株主像を明確にすること

・実際の経営や情報開示をすること

・自社の株主になるように自己選択を促すこと

 

株主は,価格が日々動き,経済的もしくは政治的な出来事により神経質になった時に売却する候補となる紙切れを保有しているに過ぎないと考えるべきではない。家族と共同で農場やアパートを保有しているのと同様に,永久に関与し続けたいと考える事業の一部を保有していると考えるべきである。

 

バフェットは,少なくとも5年以上の保有を推奨し,レバレッジを活用する短期的な投機家を拒絶する。長期的に企業価値を創造する自信がなければこのような主張はできない。長期的に優れた株価パフォーマンスを生むことを期待できない企業に長期的に投資する株主は存在しない。逆に短期的な株価パフォーマンスに関しては,市場の動向などの影響があるため企業価値の創造が即座に適正に株価に反映されることは保証されない。株主という共同出資者に損をさせないために,投資期間が短期間であれば投資をしないように警告をしているのである。

 

バフェットは,メディアやアナリストのレポートに基づき売買する投資家は自社に相応しい株主ではないと考えている。自身が理解できる事業に長期的投資をしたいという理由や事業が賛同できる方針に従っているという理由でバークシャー・ハサウェイに参画する「パートナー」を,株主として望んでいる。バフェット自身が実践しているように,投資家に対しても投資先についてしっかりと分析した後に投資をすることを求めている。

 

バフェットは,バークシャー・ハサウェイの経営にあたっては,方針,業績,コミュニケーションを通じ,自社の経営を理解し,時間軸を共有し,そして自己の評価と同様な評価をする株主を引き寄せる努力をしている。このような株主を継続的に引き寄せること(反対に,短期的で非現実的な期待を持った投資家にとっては興味がない会社であり続けること)ができていれば,企業の株式は事業価値に相応しい価格で持続的に取引されるはずである。経営戦略,財務戦略,IR戦略を通じ投資家は経営者の「本音」を見破る。自社の株主が短期的であるとすれば,自社の経営が短期的であることが原因であり,「自業自得」なのである。

 

バフェットが自社の株主に求めるのは,価格ではなく価値に注目する投資家。価値ではなく価格を重視するような投機家が株主を構成するようであれば,株価が根拠なく変動するだけでなく,企業が長期的な経営を実践することも困難になりかねない。長期株主の比率が高い株主構成を構築しようと考えるのであれば,企業は言葉だけではなく,長期的な経営にコミットする姿勢を実際に行動で示さなければならない。

 

 

戦略の首尾一貫性

 

ターゲットとなる投資家の自己選択により自社の株主になってもらうためには,彼らの判断をサポートする十分な材料を提供しなければならない。そこで重要となるのが,投資家から見た企業行動が首尾一貫しているかどうか,ということである。ここで,経営戦略と財務戦略の首尾一貫性がポイントとなる。例えば,経営戦略は長期的な視点に立っているにもかかわらず,財務戦略が短期的なROE改善を重視していると投資家に判断されれば,経営戦略と財務戦略との一貫性が欠けてしまうことになる。これでは,短期的な経営を行う企業と判断して株主となる短期的な投資家が混在することになる。実際,日本企業の最近の財務戦略を見る限り,短期的と判断されかねないケースが少なくない。

 

 

経営指標

 

企業が自ら設定する業績指標の目標を達成できているかどうかは投資家にとっては経営状況を判断するうえで有効な情報となる。ROEやEPSなどさまざまな財務指標が業績指標の目標として設定されるが,バフェットが目標設定において考慮しているのは,長期的な経営指標を業績指標として選定することである。バフェットは,一株当たりの内在価値の平均年間成長率を指標としている。これにより,長期的にキャッシュフローを改善することが経営上優先されることが投資家には理解できる。よって,長期投資家にとってはバークシャー・ハサウェイが投資対象の一社となる。

 

指標は事前に設定し変更しない,という点も重要である。これにより,業績という矢が刺さった場所を確認した後に,その周辺に標的を描こうとする衝動を抑えることができる。業績が悪化すると,多くの経営者は指標を捨てることを望む目標として設定する業績指標は,長期的に企業価値を創造するためのカギとなるものでなければならないため,状況によって指標を変更することは不適切であり,一度選んだ指標は一貫して使い続けなればならない。

 

バフェットは,「株主の手紙」の最初のページに一株当たりの純資産(内在価値の算出は困難なため純資産で代用)とS&P500指数(配当含む)の年間変動率の時系列データを示しており,彼の業績指標実現への高いコミットメントが表れている。

 

 

財務戦略

 

財務戦略では株価への影響を意識しないことが重要である。配当や自社株買いなど財務戦略は株価に影響することが多いが,企業が株価を意識した行動を取れば,同様に株価を意識する投資家が近寄ってくる。価値ではなく価格を重視する株主が増えれば株主構成が悪化することになる。バークシャー・ハサウェイの財務戦略は非常に保守的だが,これは財務戦略を材料に短期的な投資をする投資家を近寄らせないことが理由の一つである。特に財務戦略は,意図せぬ誤解を生むことが多いため,一挙手一投足に気を配る必要がある。

 

バフェットは,自社の株主の一人一人が,自社が実現する一株当たりの内在価値の成長性と比例するリターンを株式保有期間に得て欲しいと考えている。これが実現するためには,自社の株式の内在価値と市場価値の関係が一定であることが必要となる。そのためバフェットは,自社の株価が高水準であることよりも公正な水準であることを望んでいる。自社の方針やコミュニケーションを通じて,株主が合理的な行動を取るように促進しており,こうした行動が結果的に株価も合理的にすることになる。このアプローチにより,他の株主の投資の失敗からではなく,会社の成長から利益を得ようとする長期的な株主を引き寄せる可能性が最大になる。

 

バフェットの財務戦略について特徴的なポイントの一つは株式分割に対する姿勢である。バフェットは株式分割に非常に否定的である。株式分割などの,事業価値ではなく株価に着目した行動を取れば,既存株主よりも質の低い買い手(新たな株主)を引き寄せることになる。分割で得をすると考えたり,分割を理由に株式に投資したりする投資家は,当社の現在の株主構成の質を確実に悪化させるとバフェットは考えている。バークシャー・ハザウェイはA種株式に関しては株式分割を行わず,その結果,株価は2006年には10万ドル,2014年には20万ドルを突破している。簡単に投資ができる株価水準ではないが,バフェットは株式分割がもたらす株主構成の質の悪化というマイナス面を重視している。株式分割により期待される流動性の改善に関しても非常に否定的であり,次のように述べている。「パートナー数人と共同で事業を行っている場合に,パートナーが共同事業から頻繁に退出することを望むならば,我々は落胆するだろう。上場企業を経営する際にも,我々は同じように考える。」

 

バフェットは株式の発行に対しても特徴的なアプローチをとるバークシャー・ハザウェイは,1996年にB種株式という種類株を発行した。2010年1月に50分割されたため,現在では発行価格はA種株式の1500分の1,議決権は1万分の1となっている。種類株式の存在は,ガバナンスの面で望ましくないとされることが多く,バフェットも種類株式の影響は理解しているが,株式分割を回避して株主構成の質を維持するために種類株式を発行する決断をした。その背景には,同社の高水準の株価を逆に利用しようとするユニット型投資信託の販売の話が持ち上がっていたことがある。このユニット型投資信託が集めた資金がバークシャー・ハザウェイ社の株式に投資されれば,業績とは無関係に株価は一時的には上昇することになり,さらにそれにつられて信託に投資をする投資家が増えることになる。バフェットはユニット型投資信託の販売を阻止するために,(通常であれば,株式分割により株価を下げることを選ぶと思われるが,)種類株式の発行に踏み切った。この手法でも株主構成の悪化は避けられないので,さらに細心の注意を払ったのは,種類株式の発行(IPO)の仕組みであり,売り出しの規模をオープンエンド(上限がない形式)にすることにより,過小供給局面で生じる短期な価格上昇のチャンスをうかがうIPO投資家を近づけなかった。こうした工夫によりIPO直後のB種株式の出来高は,一般的な水準を大幅に下回る結果となった。

 

 

IR戦略

 

バークシャー・ハザウェイ社は,IR部門を持たず,アナリストを情報拡散のチャネルとして使うこともなく,利益予想も提供しない。その代わり,経営者と株主の直接的なコミュニケーションを好み,株主総会がアイディアの交換に最適な場所としている。バフェットは,株主総会で話すことは株主にとって効率的あり,またすべての参加者が同時に経営者の発言を聞くことができるという点で公平である,と考えている。バフェットがCEOとして直接的にオープンに株主とコミュニケーションするのがバークシャー・ハザウェイ社の情報開示の基本姿勢であり,IR部門を中心に組織的に情報開示を行う大企業の仕組みとは大きく異なる。これは,株主構成に占める長期株主の比率が高いため,短期的な業績の説明に労力を割く必要がないことに加えて,バフェットによる情報開示が投資家や株主の情報ニーズを十分に満たしていることも要因だと思われる。

 

バフェットによる情報開示の1つ目の特徴は,業績予想を開示せずバリュードライバーの数値(内在価値を推定するのに必要な情報)を開示することである。投資家による内在価値の算出をサポートすることを指針にしている。バフェット自身が投資家であることから,バフェットは投資家が内在価値を算出する際に必要とする情報を理解している。企業には多くの利益の源泉が存在するため,企業をセグメントに分けて,それぞれのバリュードライバーについて数値を開示することが,通常必要になる。株主や投資家は,その情報に基づきセグメント別の内在価値を算出し,それらを合算することにより同社の内在価値を算出することが可能となる。そして,その結果に基づき株価水準が割安なのか割高なのかを判断することになる(バフェットもまったく同じ情報を活用して,同社の内在価値を算出している)。一方で,業績予想は開示しないため,予想EPSに予想PERを掛け合わせて株価予想をするような投資家にとっては同社の情報開示は非常に都合が悪いものとなる。

 

2番目の特徴は,CEOが自分の言葉で説明をすること。バフェットは投資家の視点から次のように述べている。「株主は,経営の現状とCEOによる現在と将来の事業評価についてCEOから直接聞く権利を持つと私は信じている。非上場企業であれば当然な要求であるが,上場企業にも同じことを期待するはずだ。年次のスチュワードシップに関する報告をスタッフやPRコンサルタントに任せてはいけない。彼らは経営者と株主という関係で率直に語る立場にはないのだ。」バフェット自身も投資家の立場から,バークシャー・ハサウェイ傘下の企業のCEOに対して全く同様のことを求めており,彼らから得られた情報に基づき自分の結論をまとめ,株主に伝えている。彼は次のように述べている。「本当に重要な数値と情報をアニュアルレポートにおいて株主に提供する。チャーリーと私は,当社の業績にかなりの注意を払っているし,各事業が運営される環境を理解する努力もしている。たとえば,当社の事業は追い風を受けているのか,もしくは逆風を受けているのか。チャーリーと私は,どちらの状況が優勢なのかを正確に理解し,それに合わせて見通しを修正する必要がある。我々は,自身の結論を株主に伝える。」

 

3番目の特徴は,公平性の高い情報開示を実践すること。大株主であろうが,著名アナリストであろうが,情報面で有利になることはない。同じ情報を同時に開示するのが,バークシャー・ハサウェイの方針となっている同社は,アナリスト及び大株主に収益予想やその他の価値ある情報を提供するという一般的な慣習には従わない。同社の目標は,すべての株主が同時に新たな情報を得るようにすることである。バフェットは次のように述べている。「我々にとっては,完全な会計報告とは,30万人のパートナーに同時に情報を伝えることだ。よって,我々は年間決算と四半期決算を金曜日の取引終了時刻と翌朝の間にインターネット上に掲載する。そうすることにより,株主と当社に関心を持つ投資家はこれらの重要なリリースにタイムリーにアクセスすることができ,また月曜日の取引開始時刻の前にリリースの情報を十分な時間をかけて消化することができる。」IR部門がなく1対1のコミュニケーションを行わないため,情報開示はインターネット上での決算資料の掲載と株主総会での直接的なコミュニケーションに限られる。IR部門の人数やホームページの美しさは関係ない。なお,2016年の株主総会は初めてインターネットでライブ中継された。総会に参加できない株主も含めて同時に情報開示をすることが実現したのである。 

 

最後の特徴は,悪いニュースを早く正直に伝えることである。企業が,悪いニュースについて正直に伝えることは投資家からの信頼を得るには不可欠なことである。バフェット自身も投資家として傘下の事業経営者に対して同じことを要求しており,「悪いニュースだけ教えてくれ。良いニュースは放っておけばよい」という格言を信じている。バフェットはすでに起こった悪いニュースだけでなく,今後起こりうる悪いニュースも警告として伝えている。投資家のリスク許容度によっては,そもそもバークシャー・ハサウェイの株主になることが不適切であることも考えられる。事実,同社の保険事業は大災害に対する保険を引き受けているため,大災害が連続して発生するようなことがあれば,同社の収益が大幅に悪化することも考えられる。そのことを警告をしておくことにより,リスクを許容できる投資家だけが株主となるため,実際に大災害が発生して収益が大幅に悪化したとしても,大量の売りが発生して株価が過度な水準にまで下落することを回避することができるのである。

 

 

経営モニタリング

 

投資先経営者に対しては,大株主として経営に自由や安定性を提供し,自由を与えるのがバフェットの基本姿勢である。彼のステークホルダーに対する対応は,経営者としてでも,あるいは投資家としてでも,相手の立場で考えることを基本とする。例えば,彼の情報開示の基本姿勢は,自分が投資家の立場として知りたいと考える情報を伝えるというものである。まさに経営者と投資家の両者の立場を知る「二刀流」ならではの対応だと言える。この点,経営者としてのバフェットは株主に期待するのは,自由に経営させてもらうことである。そのために,バフェットの経営に共感する投資家を株主として引き寄せる努力をしてきたのである。この結果,実質的には非上場企業のように経営することが可能となった。

 

投資先へのモニタリングについては,長期的な視点で業績評価を行う,非アクティビスト型アプローチに特化する,上場企業の経営に安定性を提供する,そして傘下の企業の潜在能力を引き出すという4点がある。

 

バフェットの投資先の業績評価手法は非常にシンプルである。バフェットは四半期決算や短期的な株価パフォーマンスに基づき業績評価して大騒ぎをすることはない。彼が評価するのは,投資判断のタイミングにおいて重視する特性が投資後も維持されているかどうかということだけなのである。バフェットが重視する特性は定性的なものであるため,財務数値や株価パフォーマンスだけでは正しくモニタリングすることは不可能である。それどころか,そうした定量データだけでは判断を誤る可能性があるというのがバフェットの考え方であり,次のように述べている。「前年比較がいつも我々に有利になるとは限らない。我々が少数株主である上場企業の投資先も,経済的な意味ではパフォーマンスが良くても株式市場ではパフォーマンスが悪い時もある。そうした時には当社の純資産が大幅に減少することもあるが,私たちはそうしたことに影響されることはない。投資先の事業が魅力的であり,当社に十分な現金があれば,さらに割安の水準で追加投資をするだけの話だ。」短期的には業績の変化と株価パフォーマンスが連動しないことも多いため,株価ではなく事業の経済性に注目すべきだというのがバフェットの考え方である。また,彼は自分のアプローチを野球にたとえて次のように述べている。「長期的には投資決定のスコアボード(業績評価)は市場価格であることは事実だ。しかし,価格は将来の利益で決定される。投資においては,野球と同じようにスコアボードに得点を入れるためには,スコアボードではなくフィールドを見なければならない。」野球ではランナーが出て,ホームに帰らなければ得点ができないように,株価を高めるためには業績やキャッシュフローを改善する必要があり,そのためにはバリュードライバーを改善する必要がある。

 

バークシャー・ハサウェイでは一株当たりの内在価値の成長率が業績指標として利用されていますが,明確な業績指標が存在せず,CEOの評価が曖昧になっている企業が多い,というのがバフェットの不満である。業績が悪いCEOが解任されることはあまりない。その理由の一つは,多くの場合においてCEOの業績評価基準が存在しないことである。仮に存在したとしても曖昧なものが多く,もしくは,業績が著しく悪く,またそれが繰り返されたとしても,業績評価基準が撤回されたり,言い逃れされたりすることになる。明確な業績評価基準がなければ,CEOを評価することはできず,またCEOのコミットメントを引き出しにくくなる。実際,日本では中期経営計画の達成度が低くなっているが,今後業績連動型報酬制度がより一般的になるにつれて,業績目標が明確に定義されることになるため,こうした問題は徐々に解決されていくと考えられる。

 

バフェットは,アクティビスト型のアプローチを取ることは一切ない。株主の発言力が高まっている中で,バフェットは真逆の行動を取っている。物を言う必要がない企業にしか投資をしないことが大きな要因だが,そもそもそうしたアプローチ自体をバフェットが好まないことも要因となっている。バフェットは,次のように述べている。「たしかに,ある種の敵対的買収は正当化される。CEOの中には,株主のために働くべきことを忘れているものもいれば,かなり無能なものもいる。いずれのケースでも,取締役は問題に気づいていないか,それとも変化を起こそうとしないかだ。その時は新たな人物が必要とされる。しかし,そうした「機会」は他人にまかせる。当社は,歓迎される場所にしか行くことはない。」このような考えである以上,物を言う必要がない企業にしか投資をしないことになるが,経営の支配権を握ったところでうまく活かすことはできないというバフェットの謙虚な考え方もその要因となっており,次のように述べている。「支配権を握ることにより,経営を行ったり,企業の資源を管理したりする機会(義務)が与えられるが,我々は現状を改善することはできない。実際,支配権を握る場合よりもそうでない場合の方が,良い経営上の結果が得られている。」「投資の神様」といえども,優秀な経営者が経営する企業をよりうまく経営するのは無理な話である。結局,バフェットにとって大株主であることは,支配権を握ることではなく,より多くの価値を投資先から得ることを意味するのである。

 

 

投資家が企業に提供する価値

 

バフェットは,大株主として上場企業の経営に安定性を提供することを基本スタイルとしている。彼のような長期的にコミットする大株主が存在することにより,株主などから短期的な業績動向への圧力などのノイズの少ない非上場企業のような環境で経営をすることが可能となる。上場企業の中には実際に非上場になる企業もありますが,同じメリットをコストをかけずに享受できるのである。バフェットは,1985年にキャピタルシティーズ・ABCの大株主になった時に,あえて株式売却を制限する合意をしたのだが,その理由を次のように述べている。「このような合意があれば,一流の経営者と我々の利害は合致し,経営者は事業の運営と長期的な株主価値の最大化だけに集中することができる。この状況は,資本家に入れ替わり立ち代り「ゲーム」の対象とさせられて,経営に集中できない状況とは比べものにならない。今日,企業が不安定になっているのは,議決権付株式が広く分散保有されていることが原因である。大株主が現れると,調子の良い美辞麗句を口にすることが多いが,彼らは通常無意味な考えを心に秘めている。我々は保有する大量株式の売却を制限することを常としているが,これは安定性を高めるためだ。素晴らしい経営者と素晴らしい事業が安定性と組み合わさることによって,十分な財務上の収穫を生み出す最高の土壌が作り出される。」バフェットが述べているのは,売らない大株主がいることにより,経営者は投資家に邪魔されることなく経営に集中できるということである。これは,彼自身が議決権の33%を保有するバークシャー・ハサウェイの大株主であることに加えて,ほとんどの株主が長期株主であるという安定的な環境でこれまで持続的に優れた業績を出してきたことが影響していると考えられる。実際,英国や米国の企業の多くにおいて,ファンドが上位株主となっている一方で,種類株式の発行により創業者や創業者一族が大株主の地位を維持する企業も少なくない。

 

トヨタ自動車は持ち合いや系列という安定性に重きを置く仕組みの中で継続的に業績を拡大してきた。また,2015年には種類株式を発行することにより,長期株主の比率を高めている。一方,日産自動車は持ち合いや系列というトヨタと同じ仕組みの下で長期にわたり業績が低迷し,仏ルノーの傘下に入る結果となった。その後,新経営陣が持ち合いや系列を否定し安定性よりも競争を重視することにより,短期間で優良企業として復活した。興味深いのは,持ち合いや系列に代わり,ルノーというコミットメントの高い大株主が日産の経営に安定性を提供していることである。つまり,形は変わっても,安定性は担保されている。ルノーはバフェットとは異なり,日産に経営陣を送り込み経営に積極的に関与するが,経営に安定性を提供する大株主である点では同様である。今後,日本企業による持ち合いの解消が継続的に行われていくと考えられるが,株式市場からの牽制が強化される分,どこかで安定性を補いバランスを取る必要があると思われる。

 

バフェットは,企業の潜在能力を引き出せるようにするため,投資先の企業の経営に口を挟むことはない。買収基準の一つに優秀な経営がいることという条件があるため,その必要はないのである。バークシャー・ハサウェイ保有する全事業は,かなりの水準で自律的に経営されている。ほとんどのケースで,長期にわたり保有する主要事業の経営者は本社にあるオマハに来たことはないし,事業経営者同士がお互いに会うこともない。バークシャー・ハサウェイが事業を買収するときには,売り手は,売却前と全く同じように経営する。同社が彼らのやり方に適応するのであって,その逆ではない。 

 

自主経営であればバークシャー・ハサウェイに売却しなければ維持できるはずだが,なぜわざわざ売却をするのであろうか。それは,もちろん経営者が保有する持ち株を同社に売却することにより資金を得ることもあるが,同社の傘下に入ることにより,事業経営により集中することができ,事業の潜在能力を引き出す可能性が高まることも理由のひとつである。というのも,同社の傘下に入ることにより,CEOの業務にまつわる儀式的で非生産的な活動(取締役会,広報インタビュー,投資銀行のプレゼン,証券アナリストとの会話,資金調達,格付け,EPSの予想)から解放されることになる。

 

とはいえ,問題がないわけではなく,自主経営の行き過ぎが時に生じることをバフェットは次のように認めている。「当社の数多くの子会社には,我々の監督や監視はまったくなく,自律的に経営をさせている。そのため,経営上の問題を発見するのが遅くなったり,また相談を受けたならばチャーリーと私が反対したはずの経営上および資本上の決定がなされたりすることが時にはある。しかし,ほとんどの事業経営者は,我々が与えた独立性を堂々と使い,大組織ではめったにお目にかかれない非常に貴重な株主志向の姿勢を維持することによって,我々の信頼に報いている。息苦しい官僚制が原因となり,意思決定が遅くなったり,まったく意思決定が実行されなかったりすることから生じる多くの見えざるコストを被るよりも,いくつかの悪い意思決定という見えるコストを被るほうが良い。」

 

このような問題がありながらも,現在は約90社の企業がバークシャー・ハサウェイの傘下に入っていることを考えれば,問題点よりも利点の方がはるかに多いのだと考えられる。自主経営を認めることが買い手としての信頼につながり,さらに多くの企業が傘下に入るという好循環が生まれているのである。

 

 

まとめ

 

理想的な株主構成を実現するためには首尾一貫した経営行動が求められる。

 

業績指標を明確にすることにより投資家による業績の判断をサポートする必要がある。選定する業績指標を短期的な財務指標ではなく,長期的な企業価値創造に求められるバリュードライバーに設定することが,長期的にコミットする投資家を引き寄せるのに効果的なアプローチとなる。

 

財務戦略の策定においては,株価や短期的な財務指標に大きな影響を与える可能性の高いものを実行するのは避けるべき。特に株主還元政策は投資家の注目する財務戦略の一つであり,派手な方針を選択した場合,株主還元政策にしか関心を持たない投資家を引き寄せかねない。財務戦略は地味な保守的なものにとどめ,実績で投資家に注目される努力をすべき。

 

情報開示の拡充は望ましいことだが,開示すべき情報は企業が決定するものであり,投資家にコントロールされることは避けるべき。ある情報を開示すべきか否かの判断は,投資家の満足度ではなく,内在価値の算出への有効性に基づくべき。基本的な方針としては,決算結果の詳細の説明と長期的な見通しを二本柱にすることが適切だと考えられる。