k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

知る権利・プライバシー権

ナントカ県に在住する太郎は,県が自分の思想信条についての個人情報を保有しているのではないかと疑い,同県の情報公開条例に基づき思想信条に係る自己情報の公開を請求した。

ところがナントカ県知事は,「条例第条では『特定の個人を識別しうる情報のうち,通常他人に知られたくない情報を含む公文書は,不開示としうる』と定められている」として,不開示決定を行った。

そこで太郎取消訴訟を提起し,条例第5条がそもそも本人のプライバシー保護を目的として設けられた条文であるという制定過程を指摘したうえで「本人自身が公開請求をしている場合には,同条を適用するのは誤りである」と主張した。

太郎の請求の当否如何。なおナントカ県においては未だに個人情報保護条例は制定されていないものとする。

 

 

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 ※ 本文とは関係ありませんが,宮島からの景色です。

 

 

Ⅰ 問題の所在

 

本問で太郎は,自己の思想信条に係る情報等,個人の人格的自律にかかわる高度にセンシティブな情報(いわゆる固有情報)の開示を,情報公開条例を用いてナントカ県に求めている。当該請求の性格を考えるに当たっては,その形式面と実体面に分けて考える必要がある。

 

まず当該開示請求は,情報公開条例に基づいてなされている。同条例は,行政過程の透明化という民主主義的意義のほか,憲法上の知る権利(憲法第21条第1項)から導かれる情報公開請求権を具体化するという一面を有する。このような側面に着目すれば,本件開示請求ももまた,知る権利ないし情報公開請求権の行使というべきである。

 

http://kenpou-jp.norio-de.com/hyogen-siru/

 

しかしながら,本件開示請求の実体は,当該情報の主体である本人自身によるプライバシー権憲法第13条)の行使に他ならない。高度情報化社会におけるプライバシー権は自己情報コントロール権として把握されるが,その旨を説く情報プライバシー権説によれば,国や自治体は固有情報の収集を禁じられ,また,市民は自己情報の開示や訂正を求める権利を有する。

 

そこで本件請求が,自己情報コントロール権としてのプライバシー権に裏付けられているとされるかどうか,また,当該プライバシー権の法的効力(権利性の有無・内容)が問題となる。

 

 

Ⅱ 情報公開請求権として

 

 条例の解釈が問題となる。条例第5条は「実質的」にプライバシー権の侵害といいうる場合にのみ不開示としうると定めているのだという解釈を採れば,太郎の請求が認められることになりうる。

 

 条例第5条がそもそも本人のプライバシー保護を目的として設けられた条文であるという制定過程を指摘したうえで「本人自身が公開請求をしている場合には,同条を適用するのは誤りである」との主張を是認することは十分可能であると思われる。

 

 ここで主張されている「第三者」とはすなわち開示請求者本人のことであるので,当該不開示決定は,違法の処分である。

 

 

Ⅲ 自己情報開示請求として

 

 一方,同条例はプライバシー権を具現化する目的はないので,自己情報開示請求権として再解釈するのは,目的論的解釈でも合憲限定解釈でも不可能である。

 

 

Ⅳ プライバシー権に基づく憲法に依拠した直接請求として

 

以上に見たように,太郎の本問請求は,当該請求を知る権利に基づくものと捉えた上でには肯定されることになる。

 

さらに進んで,プライバシー権に含まれると解される自己情報開示請求権に,具体的権利性が成り立つか(=さらに進んで,直接提訴可能かどうか)を見る。

 

プライバシー権に含まれると解される自己情報開示請求権は,固有情報に関する限りという留保付きであるが,憲法上も具体的請求権としての位置づけを認めることに困難は少なくない。なぜなら,プライバシー権自体がもともと防御的な性格を強く有しており,自己情報開示請求権という積極的請求権の形態をとる場合でも,その防御的性格が変わるわけではない。すなわち,本来行政が有すべきではない自己の固有情報を行政機関が把握しているか否かのチェック(妨害排除の前提である妨害の有無の確認)にとどまるといえるからである。本人の情報であることさえ確認できれば,第三者に対する権利侵害の恐れは相対的に見て小さいため,憲法レベルでの価値考量・基準設定に伴う弊害も相対的に見て小さいといえる。

 

本件においては,自己情報コントロール権という憲法上の具体的権利の行使という形で,権利を保護することもありうる(なお,訴訟法的には,請求の趣旨は変わらないが,訴訟物が,情報公開条例に基づく請求から憲法第13条の自己情報コントロール権に基づく請求に変わるので訴えの変更が必要である)。

 

不開示決定は,本人の正当な固有情報管理権限を否定する違憲の処分との立論も可能である。

 

※ なお,憲法に基づく直接請求を認めた事案として,河川付近地制限令事件最高裁判決がある。

財産上の犠牲が単に一般的に当然に受認すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものである場合には、これについて損失補償に関する規定がなくても、直接憲法第29条第3項を根拠にして、補償請求をする余地がないではない。」

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

 

 

Ⅴ 最後に

 

憲法上の価値考量として,自己の固有情報は自分で管理できるものと解釈される。

 

結論としてはナントカ県がプライバシー情報を含むことを理由として,本件情報公開条例第5条を盾にとって不開示とすることは許されないと解する。

 

以上

 

 

※さらに,私事に関する自己決定権と宗教的プライバシー権の法的性格を検討したものについては,こちらもご参考くださいませ。

 

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