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k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

公務員の労働基本権の判決

公務員の労働基本権に関する諸判例は,日本の憲法裁判史を考える上で重要である。

 

当初,公務員の労働組合が争議行為を行うことを事実上可能にするようなものではないか,ということで最高裁の中でリベラルな勢力があるのではないかというふうに当時の政権が危機感を抱き,人事院が抜本的な最高裁判事の人選を変えたのではないかという話がある。

 

全逓東京中郵事件:当時国営だった郵便局の局員がストを行うということが問題になった事件。ストを呼びかけたことで処罰されるというときの根拠規定は郵便法第79条(郵便物の不取扱罪)であった。つまり,公務員の労働基本権の制限を目的とした規定ではない。よく正月近くになると,年賀状を運ぶのが面倒くさいということで,勝手に捨ててしまう郵便局員が話題に出ることがあるが,それを取り締まるということが,郵便法第79条の規定。

東京都教組事件:公務員の争議行為の違法性に強弱がある,許される争議行為とそうでない争議行為があるということを考えなければならない。さらには,争議行為を呼びかける,そして処罰されるということが念頭に置かれている行為についても違法性の強弱がある。したがって,公務員法上,争議行為を呼びかける行為は処罰の対象になってはいるが,憲法上の労働基本権の保障を踏まえれば,違法性の薄い争議行為について,違法性の強い煽り方をしたという場合だけが処罰の対象になるのではないという二重の絞り論。

全農林事件:全面的な争議行為の制限およびそれを煽る行為を全面的に処罰することが合憲であるとされた。

全逓名古屋中郵事件:ここで問題になっている処罰の根拠規定は,郵便法。そもそも郵便事業の適正を確保する,郵便法の免責の規定,郵便業務を取り扱っている人と同じような,基本的には郵便事業を確保するという規定。この全逓関係の事件では,公務員の労働基本権としてとらえたときに困った問題が起きる。地方公務員法国家公務員法上,争議行為をしたとして処罰されるのは一般の争議行為をしたヒラの人が処罰されるわけではなくて,争議行為を煽った人である。これに対して郵便法は,郵便物を取り扱わなかった人を処罰するという構成要件になっている。つまり,今では民営化されるくらい,公務員の中では,それほど権力的な作用を持っていなかった,郵便局員でストに参加した人達,ストを呼びかけた人ではなくストに参加した人まで一網打尽で処罰しないと話が合わなくなってしまう。これは非常におかしく,地方公務員,国家公務員について組合活動をした幹部,組合の幹部の指示に従ってストを行った人は懲戒処分にはなっても刑事処罰の対象にはならないのに対し,郵便局員についてはストに参加しただけで刑事処罰の対象になり平仄が合わない。

 

東京都教組事件では地方公務員法,それから全農林事件においては国家公務員法上の争議行為の禁止として争議行為を煽った人に対する刑事罰の規定が問題になっている。問題の現れ方が,それぞれの判決群において微妙な違いを生じさせる。都教組事件,全農林事件では公務員による労働争議,組合活動を禁止する規定がまずあり,したがってそれは憲法第28条の関係で許されるかが問題になる。さらには,それに対して争議行為を呼びかける,組合の幹部の指示・指令というものが争議行為を呼びかけたということで処罰の対象となるかということが争われた。

 

一方,全逓東京中郵事件・全逓名古屋中郵事件においてはこのような一般的なストかどうかは関係なく,一般的な郵便業務の,郵便物を取り扱わなかった人達についても労働組合法第1条第2項の適用があるということが問題となる。労働組合法第1条第2項は刑事免責を認める規定。憲法第28条の労働基本権の保障には自由権的側面と社会的側面がある。自由権的側面である刑事免責を具体化した規定が労働組合法第1条第2項。郵便局員について労働活動として郵便物を取り扱わなかったという場合にも,この労働組合法の適用があるので,正当行為として不可罰になるのかという形で問題が現れていた。

また,一般的義務の免除という側面からは,エホバの証人の生徒に対する剣道受講強制事件や公立学校の教職員の君が代起立拒否事件も参考になるものと思われる。

※社会的側面:労働基本権を確実に実現するための立法を国家が行わなければならない。積極的な作為を行う義務,具体的には労働基本法を整備するというような社会的な側面

自由権的側面:労働活動をした労働基本権の正当な行使をした人を処罰してはならない,つまり労働基本権の行使という自由権に対して国家が制裁を加えるということは許されないという側面(民事免責・刑事免責)

 

なお,全農林事件によって公務員の基本権の行使全体が制限されてもやむを得ないという立場をとったとしても「単純参加者についてはこれを刑事罰から解放する趣旨」とされている。いずれの事件においても基本的には処罰の対象となるのは組合の幹部だけということが前提になっている。