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k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

売買目的物の滅失 民法問題解析

【問題】

 AとBは,当年収穫のジャガイモ1トンの売買契約(12月1日に引渡し,代金を支払う)を結んだ。ところが売主Aが期日に買主Bへジャガイモを運んだにもかかわらず,Bは品質が悪いといって受け取らなかった。Aが持って帰り,倉庫の自分の他のジャガイモと一緒に入れ保管していたところ,異常寒波のために凍結し全部だめになった。この場合のABの法律関係を述べよ。

 

【問題の所在】

 特定と危険負担の問題。AとBがどのような請求を望むか,それらの請求が認められるか,という観点から考えていく必要がある。

 

【解説】

Ⅰ 買主Bからの履行請求,解除,損害賠償請求

 Bは,あくまでもジャガイモをほしいときには,別のジャガイモ1トンを引き渡せと主張し,この契約をやめにしたいときは解除する。ジャガイモなら他から調達するのが自然である。この意味で解除と損害賠償が普通である。期日にまともなジャガイモを受け取れなかったために受けた損害の賠償を請求するであろう。具体的には,Bが他からジャガイモを購入するために余計にかかった費用である。

 第1のジャガイモの引渡請求は認められるか。これは,目的物が滅失したときに売主は他から調達して,契約した本来の給付をしなければならないか,という問題である(給付危険の問題)。本問は種類物売買の場合である(特定物売買か種類物売買か,あるいは制限種類物売買かは契約時の目的物の指示の仕方で決まる。したがって,後で他のジャガイモと一緒に倉庫に入れても制限種類物売買になるわけではない)。種類物売買の場合には,「債務者が物の給付をなすに必要な行為を完了し」たときに目的物が特定する(民法第401条第2項)から,その後に滅失したのであれば,他の物を調達して履行する義務はない。この「物の給付をなすに必要な行為」とは何か。本問のように債務者が現物を持参したときは,特定することに異論はない。ただ注意が必要なのは,契約の趣旨に適合しない目的物の提供ではだめだということである。本問の場合,品質に合意がなかったとすると,中等の品質(民法第401条第1項)のジャガイモを提供したときは特定が生じ,Aは別の物を給付する義務を負わない。

 第2の解除と第3の損害賠償請求は,いずれもAに債務不履行があるときに認められるが,その債務不履行の有無も,Aが適切な品質のジャガイモを提供していたか否かによる。これは弁済の提供の効果である(民法第492条。弁済の提供の方法については民法第493条)。まず,ジャガイモの品質が適切でなかった場合には,そのことが債務不履行であり,免責事由が立証されない限り,Bは損害賠償を請求できる。さらに,品質が適切でなかった場合には特定も生じていないので履行遅滞解除が問題となり,Bが催告をして相当期間内にAが履行しなければ,契約を解除できる(民法第541条)。次に,ジャガイモの品質が適切であったときには,この点で債務不履行はない。もっとも,このときには,目的物が特定し,Aはその保管義務を負うのでその不履行が問題となる。この義務は民法第400条の善管注意義務であるが,適切な品質のジャガイモの受領を拒んでいるので,受領遅滞が発生し,その効果として債務者Aの保管義務が軽減される。保管義務は「自己のためにすると同一の注意義務」となる。したがって,Aは自己の所有する他のジャガイモと同じように保管していたのであるから,凍結による賠償責任を負わず,また,Bから解除されることもない。

 

Ⅱ 売主Aからの代金請求

 Aの側で問題になるのは代金請求である。その可否は,Bがどの権利を行使するかに左右される。まず,ⅠでみたところによりAに債務不履行があってBが売買契約を有効に解除した場合には,Aは代金を請求できない(民法第545条第1項本文)。次に,Bが契約を解除しない場合(解除できない場合も含む)のうち,Aの提供したジャガイモの品質が適切でなかった場合には,Bが別のジャガイモを請求でき,それに応じてAが履行したときは,Aはその代金を請求できる。

 問題は,Bが契約を解除しない(できない)場合のうち,Aが適切な品質のジャガイモを提供し目的物が特定していたために,Bが別のジャガイモを請求できないときである。このときAはBに対し代金を請求できるか。危険負担の問題である。民法によれば,以下のように処理される。

(a) 債務者Aの責めに帰すべき事由による場合は,AのBに対する損害賠償債務が存続するから存続上の牽連性の問題は顕在化せず,危険負担の問題から外れる。

(b) 債権者Bの責めに帰すべき事由による場合は,Bの債権は消滅するが,Aの代金債権は存続する(民法第536条第2項)。

(c) ABいずれの責めにも帰せられない事由による場合には,原則としてAは代金を請求できない(民法第536条第1項)が,本問のように目的物が特定しているときには請求できる(民法第534条の債権者主義)。

 Aが適切な品質のジャガイモを提供した場合には目的物は特定しているので(c)の類型となり,Aの代金債権は存続する。債権者主義の合理性には疑問も呈されているが,ここで想定している事態(Aが適切な品質のジャガイモを提供した場合)に関していえば,Bに受領遅滞も認められることから,実質的には(b)の類型と同視でき,民法第536条の規定には疑問は呈されていないので,合理的な解決であるということができる。