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k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

公務員の人権 憲法問題解析

【問題】

国家公務員法は,公務員の政治活動の自由及び労働基本権を制限しており,判例はいずれに対しても国民全体の共同利益を理由として合憲判決を下している。これらについて論ぜよ。

(参照)

国家公務員法第102条第1項 職員は・・・・・・人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

同法第98条第2項 職員は・・・・・・争議行為をなし,又は・・・・・・怠業的行為をしてはならない。

 

【解答】

 

1 問題の所在

 国家公務員法表現の自由に含まれる政治的活動の自由,労働基本権に含まれる争議権を制約しており,それぞれ最高裁によって合憲と判断されている。最高裁判例を手がかりとして公務員の政治的活動の自由及び争議権を制約する法理を検討することが以下の課題である。

 

2 公的領域と私的領域

 労使関係的に捉えると,公務員は業務時間中の公的領域と時間外の私的領域を生きている。公的領域においては,一般の企業よろしく業務遂行のためのルールが設定されており,それに対しては少なくとも包括的には同意している。一方で,私的領域における自由もこれに伴い制約されることがあり得る。これらの契約・合意に直接的に由来する公的領域での権利の制約と,契約・合意に随伴してもたらされる私的領域における自由の制約を分けて考える必要がある。

 

3 公務員と一般の企業の人

 争議権など,労使関係の構造的非対等を是正するための制度的権利保障に関しては,公務員も一般の企業の人も基本的には同等に扱われるべきである。争議権などは放棄の許されていない権利であり,合意理論で制約を基礎づけることは難しい,すなわち,「公務員だから包括的に放棄に同意しているだろう」という論法は使えないのが憲法の規定の趣旨である。公務員の特別な業務の必要性から制約されることは一概に否定しきれないが,それは国の側がそれに見合った報酬やその遂行に耐えうる人材をその努力で獲得するものであり,法律の力を使って無理やり権利をはく奪することは正当化できない。付言すると,医師や傭兵など,民間でも公務員に匹敵する特別な業務の必要性が認められる仕事もたくさんある。彼らの争議権を奪うことはどう考えてもできなく,契約・合意理論においての公務員と一般の企業の人の区別は恣意的と言わざるを得ない。

 

4 内在的制約論

 基本的人権の制約を可能にするのは,他者の人権を保護する必要がある場合のみである。これを内在的制約論という。憲法の公共の福祉の内容が漠然としており,これを広く解釈するとなんでも人権の制約が正当化されてしまうので,このような枠付で人権保障を図るのが妥当であり,本問でも国民全体の利益のため個人の人権の制約が許されるという「功利主義」の考え方は厳に慎むべきである。

 

5 リベラリズム

 個人が人権を行使する際は,その結果がどうなろうとそれが正しいから保護されるというのが,個人の人格の根源的平等を尊重するリベラリズムに立脚したはずの現在の憲法基本的人権の考え方である。それを国が勝手に結果だけに着目してしかも後知恵的にその人権行使を否定してしまうのは個人の生き方の否定であり,憲法に反する。

 

6 政治活動の自由の制約

(1) 概観

 政治的意見表明の事由など,政治活動の自由は民主主義にとり不可欠であることは論を待たず,優越的地位を有するとされる表現の自由の主要な内容をなすといえる。にもかかわらず,公務員の政治活動の自由については,主体が公務員であるというだけの理由で,具体的な公務の種類を問わず,勤務時間外も含めて,一定の行為類型が国家公務員法第102条及び人事院規則により禁止されている。これは政治活動であるという表現内容を理由とする制約に他ならない。

(2) 猿払事件最判の検討

 猿払事件最判は,国公法の制約目的は,「公務員の政治的中立性を維持し,国民全体の共同利益を実現すること」にあるとする。具体的には,公務員が政治的中立を保つことによって,①国民の信頼を確保することで行政効率を維持する,②政治的介入を防ぐことができる,③内部の政治的対立を防ぎ行政効率を維持することができる,としている。

 同判決は「政治的中立性」を中心に据える。公務員の職務内容は法治主義の下では法に規律され,職員個人の政治的変更が行政に反映してはならないのは当然である。問題は,なぜ公務員が勤務時間外の庁舎外での表現行為の内容にまで,広く政治的中立を要求されるかである。判旨が挙げる理由は,国民の信頼を確保することで行政効率を維持する,というに尽きる。公務員の政治的活動の自由という表現内容の自由が,行政効率という利益のために制約されている。

 私的領域での政治的活動を制約することによって国民の信頼を確保するというのは,主体のない集団的「国民」を想定し,さらに「信頼」などという二重にFictionalな前提に頼っており,私的領域での基本的人権の行使を制約を正当化するには困難な論理である。また,内部の政治的対立を招き行政が効率的に運営できないというのは明らかに就業上の規則違反であり直接的にその対立行為を処罰すべきでありその遠因となるかもしれない政治的活動を私的領域にもわたり制約するのはやはり行きすぎである。具体的な個人の人権が害される危険があることを求めるのが「公共の福祉」に関する内在的制約論である。政治的中立性を制約目的とする政治活動の制約は違憲というべきである。

 

7 争議権の制約

(1) 概観

 国家公務員法第98条第2項は,公務員が「政府を代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業,怠業その他の争議行為」を行うことを禁止している。民間労働者が,「団体交渉その他の行為」について正当な労働基本権の行使であれば刑事及び民事責任を免れる(労働組合法第1条第2項,同法第8条)とされていることに比べると,公務員の労働基本権の制約の程度は大きい。公務員も勤労者であり憲法第28条の権利の保障を受けるのであれば,何ゆえにその争議権を職種や目的にかかわらず一律に禁止できるのか。

(2) 全農林警職法事件最判の検討

 全逓東京中郵事件最判が打ち出し,都教祖事件最判に継承された流れは以下のとおり。①「全体の奉仕者論」によって公務員の労働基本権を一律に否定することは許されない,②公務員の労働基本権の制約は,国民生活全体の利益の保障という見地からの内在的制約に限り許される,③公務員の労働基本権の制約は,労働基本権の利益と国民全体の利益を比較考量して,必要最小限のものでなければならない,というものであった。

 全農林警職法事件判決は右の①~③を逐一否定した。①に対しては,「国民全体の共同利益」という概念で「全体の奉仕者」に代えようとしているかに見える。また②については,公務員の職務を一律に公共性が強いものとし,公務の停滞は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすおそれがあることを制約の理由とする。③については,比較考量論と必要最小限度の基準は排除され,(限定解釈をしない)文面どおりの制約が「必要やむをえない限度の制約」で合憲とされる。

 全農林警職法事件最判が自身を補強するために新たに創出した理屈は次のようなものであった。(イ)公務員の争議行為は,議会制民主主義という憲法上の原則に反する。(ロ)ロックアウトや市場抑止力による制約が働かない。(ハ)人事院勧告という代償措置の存在。(ニ)二重の絞り論は明確性の原則に反する。

 しかし,労働基本権には自由権的側面が指摘されるから,「内在的制約」という観点自体は認めることが可能であるとしても,「国民全体の共同利益」というマジックワードでは内在的制約であることを基礎づけえず,違憲である。

 付言すると,議会制民主主義,勤務条件法定主義,財政民主主義の指摘は,国会だけが予算や法律を制定する権限を持つという,制度上の事柄を述べるに過ぎない。右の理屈では,国会の法案や予算の審議ぶりを批判するデモ行進は議会制民主主義等を理由に制約されうることになる。また,争議行為を行う公務員の側にとっては,勤務条件の決定に現実に影響を及ぼす「世論」が市場の抑止力の代わりに抑止力として働く。さらに,代償措置論は,労働基本権は生存権保障を実現するための手段的権利との認識を基礎とするが,労働基本権は,労働者が職場において経営者と対等の立場で雇用条件の改善を迫ることを可能とする人権であって,労働者の尊厳の実現にとって不可欠な人権である。労働基本権が勤労権(憲法第27条)と並んで規定されていることのうちにもこのような趣旨をうかがうことができる。すなわち,労働基本権の保障は,生存さえ実現できれば手段を問わないというという考え方とは相容れない。

※ここまであからさまな判例変更は後にも先にもなく,おそらく当時の右派左派の政治的対立を見て最高裁がひよったか政権与党から何らかの政治的圧力を受けて出された判決だと推測する。