k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

私人間効力 憲法問題解析

【問題】

 

 アパートの大家Yは,Xが外国人であるというだけの理由で同人からの入居申込みを断った。これに対しXは,Yによる契約の拒絶は憲法14条に違反するとして,Yに対して不法行為に基づく慰謝料請求訴訟を提起した。この訴訟における憲法上の争点につき論じよ。

 

 

【問題の整理】

 

 第1に,契約拒絶という私人間の事実行為に対して人権規定が適用されるとしてどのようにして私人間適用がなされるか。 

 

 第2に,本件外国人差別が14条1項後段に該当するとすれば,どのような厳格度で適用されるのか。

 

 

【解答】

 

 不法行為に基づく損害賠償請求の請求原因のうち,ここでは,「権利又は法律上保護される利益」の侵害があるかどうか,憲法解釈も踏まえて民法709条を解釈適用する必要がある。

 

 

1.判例

 

 三菱樹脂事件最判は,企業の側の契約締結の自由を強調し,「企業者が特定の思想信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも」当然に違法ではないとし,当該事案では,契約拒絶については拒否する私人の側の自由を重視した判断をしている。

 

 

2.民法憲法

 

 民法709条の権利利益の侵害となるかを判断するためには,具体的に本件の大家の行動は憲法上どのように評価され,その評価が民法の解釈適用にどのように反映するかを明らかにする必要がある。

 

 「国家からの自由」のみを念頭に置けば,私人間では人権規定の適用は否定され無効力説が妥当することになるが,公法と私法の区別をここまでカテゴリカルにやってしまうことには疑問が強い。むしろ個人の側からの自由の価値を直視し,公法・私法の最上位に位置する憲法の人権カタログを参照して私法である民法も解釈適用するのが当然と思われる。

 

 このことを確認するように,現行民法第1条第1項は,「私権は,公共の福祉に適合しなければならない」と規定している。契約拒絶の自由も私権の行使の一態様だが,やはりこれも公共の福祉(人権相互の矛盾衝突を調整する実質的衡平の原理)に適ったものかどうかを見なければいけない。

 

 

3.憲法第14条 

 

 それでは,外国人差別=国籍差別は,憲法上どのように評価されるか。憲法第14条の平等権の問題となるが,同条第1項後段列挙自由に該当する差別については権利又は法律上保護された利益の侵害に当たる。これは人のアイデンティティの根幹にかかわり,個人の人格の根源的平等にかかわる事由だからである。また,同項後段の「経済的,社会的関係」はまさにこのような契約交渉場面に該当する。

 

※もっとも,以上のような条文解釈のみでは不十分であり,三菱樹脂事件で示された判例法理を動揺させることはかなわない。条文解釈とともに,その解釈を支える実質的な理由,すなわち,私的自治の最低限の保障内容である契約拒絶の自由を制限できる実質的理由を十分に論証する必要がある。例えば,「国家は個人の人格の根源的平等を積極的に実現するため,既に存在する社会的偏見の除去や社会的偏見の萌芽となる差別的取扱いの除去を,その任務として負っている。アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)の許容や,人種差別撤廃条約の批准によりその任務は確証されている。」という補強理由が考えられる。

 

 

4.憲法第14条第1項後段列挙事由の考え方

 

 国籍を理由とする取扱いの区別は,憲法第14条第1項後段列挙事由に当たるか。

 

 この点は,国籍はその事由に当たらない。

 

 ただし,結局「根拠のある区別を行っているか」という実態判断をした時に,根拠がないような場合には,人種や社会的身分という法的には意味の持つべきではないレッテルにすぎないものに着目し,差別的意図で取扱いの区別をしており,権利侵害がある,という「合理的根拠」の有無の判断が実質的に先行すると考えられる。

 

※在日朝鮮人に対する差別意識が垣間見える場合があったり,実質的に見た目や肌の色で差別する場合があるので要注意。

※逆に選挙がらみは国民主権との関係上,国籍での取扱いの区別に偏見の余地がない。

 

 

5.事案の具体的検討

 

 本件でも,賃貸借の継続的契約としての特性として,信頼関係の醸成が欠かせないものであること(自分の不動産の中に住まわせたり使用収益させたりするということは,財産権行使の態様としてはリスキーな類型であり,これには合理的理由がある),また,借地借家法制で賃借人が保護されていることからも,賃借人には誠実な人柄が望ましいと合理的に言える。また,債権回収の局面でも債務者たる賃借人の信用は重要である。

 

 外国人は,もともと本国に生活の本拠を有する場合が多く,また,生活スタイルや文化も異なる場合が多いことから,賃貸借関係を結ぶかどうかについて別途の考慮を有することは明らかである。

 

 しかし,問題のない外国人がむしろ大多数であり,そのことについては契約締結時に十分確認し,日本人と同じ基準で見て問題のない外国人とは契約を締結することが「公共の福祉」に適った民法解釈である。

 

 そのあたり,本件では「外国人という理由だけで」拒絶したとあり,確認を怠っており,まさに「外国人というレッテル」だけに着目し,人種や社会的身分に着目した合理的根拠のない差別と言わざるを得ない。よって平等権を侵害し,民法第709条の権利又は法律上保護される利益の侵害が認められる。

 

 憲法上の争点は以上である。