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k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

政治的信条・私的空間での表現行為を理由とした公務員の正式採用拒否(新司法試験 平成27年度 公法系第一問 〔憲法〕)

憲法 司法試験 新司法試験 公法

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新司法試験の問題にチャレンジしてみました。旧司法試験の頃よりは長文の問題であることや問題もこなれておらず,受験当時は苦労しましたが,最近の新司法試験の問題はとてもこなれており書きやすくなりました。

解答作成には1時間半程度かかっています。

 

【問題の整理】

新司法試験平成27年度公法系第一問〔憲法〕は,シェールガスの採掘を題材にしたような問題。A市と市民の合意形成プロセスの渦中にあるY対策課のメンバーとしてのBの能力・資質をA市がどのように判断したかが問題となる。憲法で許されないような考慮事項の考慮,憲法で保護すべき法益の侵害をA市がやっていないか,チェックが必要。

本問では,「B」,「C」,「Dら」の採用に当たり,信条による差別を行ったのではないか,表現内容の規制に実質を持つような表現の自由の侵害を行ったのではないかが問題となる。信条による差別は切り札としての人権を侵害する話で,表現の自由の侵害は全く事実的根拠のない制限であれば切り札としての人権の侵害にはなるものの,萎縮効果を重視して侵害を認定する場合は,公共財としての人権の侵害となり,利益衡量に乗ってくると考えられる。

 

【解答(案)】

問題文から,原告Bの主張は以上の内容に整理されている。

①Bは,Cと自分とでは,A市におけるY採掘事業に関して公の場で反対意見を表明したことがある点では同じであるが,その具体的な内容やその意見表明に当たってとった手法・行動に大きな違いがあるにもかかわらず,Cと自分を同一に扱ったことについて差別であると考えている。

②また,Bは,自分と同程度あるいは下回る勤務実績の者も含まれているDらが正式採用されたにもかかわらず,A市におけるY採掘事業に反対意見を持っていることを理由として正式採用されなかったことについても差別であると考えている。

③さらに,差別以外にも,Bは,Y採掘事業を安全に行う上での基本的条件に関する自分の意見・評価を甲市シンポジウムで述べたことが正式採用されなかった理由の一つとされていることには,憲法上問題があると考えている。

 

第1 主張①について

 平等は,等しいものは等しく,等しくないものは等しくなくという命題で語られるが,憲法第14条第1項の規定内容は,人種等により,政治的,経済的,又は社会的関係において,差別されないという内容であり,ある立法目的とirrelevantな要素に着目しての法的取扱いの区別を禁止しているにとどまる。「等しいものは等しく」はあくまでも一人の人間として等しく扱うという意味であり,それが法の下の平等の規範内容であり,本問のように自分を誰かとグルーピングされてそのグループ員として不当に不利に扱われる場合までも平等権侵害の問題は生じない。むしろ,そこで,グループ外の対象とグループ内の自分を比較して政治的,経済的,又は社会的関係において差別されているかどうかを検討するのが平等権の正しい使い方であり,それが本問では主張②となる。

 

第2 主張②について

 勤務実績はDらと同等のBが正式採用されなかった理由は,Y採掘事業に関するBの考えであるとはっきりとA市が表明しており,「Bの考え」により,採用関係においてDらと別異取扱いが生じている。憲法第14条第1項の予定する相対的平等観では,そのような別異取扱いについての合理的根拠があれば憲法第14条第1項の違反は生じないが,合理的根拠がなければ違反となる。

 ここで,信条による差別ということが言えれば,それをBlindにして取り扱っているかどうかを厳格に問うことになるため,まず,Y採掘事業についての反対意見が,Bの憲法第14条第1項「信条」といえるかどうかが問題となる。この点,信条とは,人間としての基本的な人生観,世界観,政治観に限り,単なる政治的意見は含まないとする見解もあるが,政治的意見による差別を許容することは政治的思想による差別を導入しやすく,むしろ,宗教上の信仰及び思想上の主義を指すと広く解し,国や地方公共団体の具体的な政治の方向についての政治的意見もそこに含まれると解するのが妥当である。BのY採掘事業についての反対意見は,A市の具体的な政治の方向についての反対意見であり,「信条」に当たる。

 信条による差別の場合は,目的がcompellingで手段がnarrowly tailoredであることが必要である。本件では特に,民主制下での行政の中立的運営の確保の目的であれば目的はcompellingといえるが,単に中立的運営の「信頼」の確保という目的では見かけだけの話であり,compellingとは言えない。

 本件では,Y対策課の設置目的は,将来実施されることとなるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することであり,これはcompellingといえる。なお,信頼という点についても,中立的運営の信頼ではなく,安全性を市民に信頼してもらい安心を提供するという意味で重要な行政サービスの一環であり,やはりcompellingである。それで,一旦試用で雇い入れたBをその信条のゆえに正式採用しないという手段が,目的との関係でnarrowly tailoredされているかどうかが次に問題となる。この点,公務員の就業関係は内部関係規則等で規定されており,組織の方針に反することは懲戒処分等の制裁で対応することになっており,具体的な規則違反行為は十分予防されている。Bは是是非非の態度で,頭から何でも反対というわけではなく,本件事業の社会的必要性を専門的見地から認識しており,また,熱意も十分である。このような属性の人物を採用しないというのは,目的との関係でnarrowly tailoredとは言えない。

 以上から,信条による差別に当たり,憲法第14条第1項に違反している。

 

第3 主張③について

 憲法第21条第1項の保障する表現の自由の侵害が問題となる。シンポジウムでの発言は表現行為に当たる。本件は,公務員が,私人としての立場で表現行為をしたことについて,その内容に着目されて不利に取り扱われたものであり,事案類型としては,猿払事件や寺西判事補事件と同類型であると考える。制約の態様は,表現行為の禁止か,単に,正式採用時に消極的な事情として斟酌されただけかの違いはあるものの,それは具体的事案検討のところで考量すればよい。

 上記の各事件で確立された最高裁判例の基準でいえば,①目的が正当かどうか,②手段が目的と合理的に関連しているかどうか,③得られる利益と失われる利益が均衡しているかどうか,の3要素での判断となるが,その判断に際しては,本件が表現内容に着目した制約であることであることから,目的はcompellingといえるほどである必要があり,目的と手段の関連性に関しては事実関係を精査し綿密に審査をすることが必要となる。また,利益の均衡についても表現の自由を重視した判断が必要である。

 本件は,Y対策課の設置目的は,将来実施されることとなるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することであり,これは正当(compellingといえるほど)である。

 一方,手段は,制約の態様は表現行為の禁止ではなく正式採用時に消極的な事情として斟酌されただけというものである。公務員とはいえ私的空間での発言が一切禁止されるようなものではなく,Y対策課にいる者としてふさわしくない行為と考えられなくもない。もともと試用期間であり正式採用に至る前には私的空間での行動にも十分な注意が必要であることは十分に予測可能であり,その点での軽率さに着目することは,A市にとって十分に理由のあることである。しかし,基本的には勤務実績で能力や資格を判定するものであり,私的空間での活動に着目して採用時に消極的な事情として斟酌するのは望ましくないといえる。また,軽率な部分については指導によって是正が可能である。また,言論空間でのBの行為に着目した,Bへの社会的不利益供与は,A市の頑なな態度とA市民の目には映り,A市民の不安をかえってあおるような逆効果の懸念もある。目的と手段が合理的に関連しているとは言えない。

 得られる利益と失われる利益の均衡については,シンポジウムでの発言を理由としたBの不採用により,いたずらに言論空間に圧力をかけてでも本事業を推進しようというA市の頑なな態度は,本来の目的であるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することには逆効果であり,Bの不採用により確保される利益は,ほとんど考えられず,一方失われる利益は,確かに規制態様は表現の禁止ではなく,正式採用時に消極的な事情として斟酌されたにとどまるけれども,Bの見解が誤っているかのような決めつけを公権力が行ったというstigmaの問題を考えれば,制裁の大きさはあまり関係がない。Bの見解や是是非非で議論してよりよい行政運営をしたいという態度そのものに対する否定のメッセージを発していることが大問題である。また,今後のシンポジウム参加者やその他の言論空間での本事業やその他のA市の事業に関する政治的発言に対する萎縮効果が懸念され,民主制のプロセスへのダメージが大きい。以上から,均衡を失しているといえる。

 以上から,表現の自由の侵害に当たり,憲法第21条第1項に違反している。

 

【参考文献】

蟻川教授の起案講義憲法の,下記の各号で詳細に本問の解説があります。参考にはさせていただきましたが私とは書き方が大きく違います。

 

法学教室 2016年 01 月号 [雑誌]

法学教室 2016年 01 月号 [雑誌]

 

 

 

法学教室 2015年 12 月号 [雑誌]

法学教室 2015年 12 月号 [雑誌]

 

 

 

法学教室 2015年 07 月号 [雑誌]

法学教室 2015年 07 月号 [雑誌]

 

 

 

以下,私がいつも使っている基本書。

 

法律学講座双書 憲法

法律学講座双書 憲法

 

 

 

憲法 (新法学ライブラリ)

憲法 (新法学ライブラリ)

 

 

 

 

 

【平成27年度新司法試験 公法系第1問〔憲法〕】

 

20XX年,A市において,我が国がほぼ全面的に輸入に頼っている石油や石炭の代替となり得る新たな天然ガス資源Yが大量に埋蔵されていることが判明し,民間企業による採掘事業計画が持ち上がった。その採掘には極めて高い経済効果が見込まれ,A市の税収や市民の雇用の増加も期待できるものであった。

ただし,Y採掘事業には危険性が指摘されている。それは,採掘直後のYには人体に悪影響を及ぼす有害成分が含まれており,採掘の際にその有害成分が流出・拡散した場合,採掘に当たる作業員のみならず,周辺住民に重大な健康被害を与える危険性である。この有害成分を完全に無害化する技術は,いまだ開発されていなかった。また,実際,外国の採掘現場において,健康被害までは生じなかったが,小規模の有害成分の流出事故が起きたこともあった。そのため,A市においては,Y採掘事業に関して市民の間でも賛否が大きく分かれ,各々の立場から活発な議論や激しい住民運動が行われることとなった。

BとCは,A市に居住し,天然資源開発に関する研究を行っている大学院生であった。Bは,Yが有力な代替エネルギーであると考えているが,その採掘には上記のような危険性があることから,この点に関する安全確保の徹底が必要不可欠であると考えている。これに対して,Cは,上記のような危険性を完全に回避する技術の開発は困難であり,安全性確保の技術が向上したとしてもリスクが大きいと確信しており,Y採掘事業は絶対に許されないと考えている。

ところで,この頃,Bの実家がある甲市でもYの埋蔵が判明しており,Y採掘事業への賛否をめぐり,甲市が主催するYに関するシンポジウム(以下「甲市シンポジウム」という。)が開催されていた。甲市シンポジウムは,地方公共団体が主催するものとしては,日本で初めてのシンポジウムであった。Bは,実家に帰省した際,甲市シンポジウムに参加し,一般論として上記のような自らの考えを述べた。その上で,Bは,A市におけるY採掘事業計画を引き合いに出して,作業員や周辺住民への健康被害の観点から安全性が十分に確保されているとはいえず,そのような現状においては当該計画に反対せざるを得ない旨の意見を述べた。

他方で,Cは,甲市シンポジウムの開催を知り,その開催がA市を含む全国各地におけるY採掘事業に途を開くことになると考えた。そこで,Cは,甲市シンポジウムの開催自体を中止させようと思い,Yの採掘への絶対的な全面反対及び甲市シンポジウムの即刻中止を拡声器で連呼しながらその会場に入場しようとした。そして,Cは,これを制止しようとした甲市の職員ともみ合いになり,その職員を殴って怪我を負わせ,傷害罪で罰金刑に処せられた。ただし,この事件は,全国的に大きく報道されることはなかった。

その後,Yの採掘の際に上記の有害成分を無害化する技術の改善が進んだ。A市は,そのような技術の改善を踏まえ,Y採掘事業を認めることとした。他方で,それでもなお不安を訴える市民の意見を受け,A市は,その実施に向けて新しい専門部署として「Y対策課」を設置することとした。Y対策課の設置目的は,将来実施されることとなるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することであり,その業務内容は,Y採掘事業に関し,情報収集等による安全性監視,事業者に対する安全性に関する指導・助言,市民への対応や広報活動,異常発生時の市民への情報提供,市民を含めた関係者による意見交換会の運営等をすることであった。

そして,A市は,Y対策課のための専門職員を募集することとした。その募集要項において,採用に当たっては,Y対策課の設置目的や業務内容に照らし,当該人物がY対策課の職員としてふさわしい能力・資質等を有しているか否かを確認するために6か月の判定期間を設け,その能力・資質等を有していると認められた者が正式採用されると定められていた。

上記職員募集を知ったBは,Yの採掘技術が改善されたことを踏まえてもなお,いまだ安全性には問題が残っているので,現段階でもY採掘事業には反対であるが,少しでもその安全性を高めるために,新設されるY対策課で自分の専門知識をいかし,市民の安全な生活や安心を確保するために働きたいと考え,Y対策課の職員募集への応募書類を提出した。

他方,Cは,以前同様にY採掘事業は絶対に許されないと考えていた。Cは,Y対策課の職員になれば,Y採掘事業の現状をより詳細に知ることができるので,それをY採掘事業反対運動に役立てようと思い,Y対策課の職員募集への応募書類を提出した。

A市による選考の結果,BとCは,Yについてこれまで公に意見を述べたことがなかったDら7名(以下「Dら」という。)とともに,Y対策課の職員として採用されることとなった。しかし,その判定期間中に,外部の複数の者からA市の職員採用担当者に対して,Bについては甲市シンポジウムにおいて上記のような発言をしていたことから,また,Cについては甲市シンポジウムにおいて上記のような言動をして事件を起こし,前科にもなっていることから,いずれもY対策課の職員としては不適格である旨の申入れがなされた。そこで,A市の職員採用担当者がBとCに当該事実の有無を確認したところ,両名とも,その担当者に対し,それぞれ事実を認めた。その際,Bは,Y採掘事業には安全確保の徹底が必要不可欠であるところ,A市におけるY採掘事業には安全性にいまだ問題が残っているので,現段階では反対せざるを得ないが,少しでもその安全性を高めるために働きたいとの考えを述べた。また,Cは,Y採掘事業の危険性を完全に回避する技術の開発は困難であり,安全性確保の技術が向上したとしてもリスクが大きく,Y採掘事業は絶対に許されないとの考えを述べた。その後,BとCの両名は,判定期間の6か月経過後に正式採用されず,Dらのみが正式採用された。

BとCは正式採用されなかったことを不満に思い,それぞれA市に対し,正式採用されなかった理由の開示を求めた。これに対して,A市は,BとCそれぞれに,BとCの勤務実績はDらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであったが,いずれも甲市シンポジウムでのY採掘事業に反対する内容の発言等があることや,Y採掘事業に関するそれぞれの考えを踏まえると,Y対策課の設置目的や業務内容に照らしてふさわしい能力・資質等を有しているとは認められなかったと回答した。

Bは,Cと自分とでは,A市におけるY採掘事業に関して公の場で反対意見を表明したことがある点では同じであるが,その具体的な内容やその意見表明に当たってとった手法・行動に大きな違いがあるにもかかわらず,Cと自分を同一に扱ったことについて差別であると考えている。また,Bは,自分と同程度あるいは下回る勤務実績の者も含まれているDらが正式採用されたにもかかわらず,A市におけるY採掘事業に反対意見を持っていることを理由として正式採用されなかったことについても差別であると考えている。さらに,差別以外にも,Bは,Y採掘事業を安全に行う上での基本的条件に関する自分の意見・評価を甲市シンポジウムで述べたことが正式採用されなかった理由の一つとされていることには,憲法上問題があると考えている。

そこで,Bは,A市を被告として国家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。