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k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

【民法】債権譲渡・相殺(旧司法試験 民法 昭和60年度第2問)

【問題】

Aは、Bに対して貸金債権を有し、Bは、Aに対し売掛代金債権を有していたが、Bは、この売掛代金債権をCとDとに二重に譲渡し、いずれの譲渡についても確定日附のある証書によってAに通知し、この通知は同時にAに到達した。その後、Cは、Aに対し、この売掛代金債権を自働債権とし、AがCに対して有していた貸金債権を受働債権として相殺する旨の意思表示をしたところ、Aは、Cに対し、AのBに対する前記貸金債権を自働債権とし、この売掛代金債権を受働債権として相殺する旨の意思表示をした。 この場合におけるA・C間の法律関係を論ぜよ。

 

 

 

司法試験 論文本試験過去問 民法 Professor Ver.

司法試験 論文本試験過去問 民法 Professor Ver.

 

 

【回答】

 

Aは貸金債権を有しております。Cに対する貸金債権(β債権)です。Cは,取得した(すでに遅滞に陥っているとみられる)売掛債権を自働債権とし,β債権を受働債権として相殺の意思表示をしました。

 

これに承服しかねるAは,AC間の金銭消費貸借契約上の期限の利益喪失条項の適用かβ債権の期限の到来を待ってβ債権を請求していくでしょう。ここで相殺と債権譲渡の問題になっていきます。

 

〔債権譲渡関連〕

Cは,相殺の抗弁を放つ。Aに対し,自らがBの売掛債権の譲受人であることを対抗できる。確定日付付き譲渡通知。AがDへの譲渡に関する通知がCへのそれより先に到達したことを証明できない。なお,Aは債権者不確知を理由に供託はできない(同時到達であればどちらに払ってもよいため。)。

 

〔相殺関連〕

Cの借入債務 受働債権 Cが譲り受けたAに対する債権 自働債権 相殺適状になったから相殺の意思表示をしたとみられる。受働債権は期限前弁済可能(民法第136条2項本文)。 なお,相殺の意思表示より前にAがBかDに買掛債務を支払っている場合は相殺の無効を主張できる(民法第468条第2項)が,今回はAが相殺を主張しようとしていることから,そういった事実はないのであろう。

 

◎相殺で対抗できるか?(民法第468条第2項「事由」)

相殺の優劣は意思表示の先後で決まる(先に相殺の意思表示をされてしまった場合はもはや「事由」主張できない)。理由は,先に相殺をすることにより,相殺適状時に遡及して債権債務が消滅することにより,対抗相手方は相殺すべき債権を失い相殺適状が実現できないため。なお,相殺適状の先後とするのが最も論理的だが,一旦消滅した債権債務関係がいつまでも確定しないことも想定されるので,民法の解釈としては意思表示の先後が相当。 今回はCが先に相殺しており,Aは今更相殺で対抗できない。

 

民法136条2項但書き 「相手方の利益を害すること」 =相殺に対する正当な利益を有すること
・自働債権弁済期先〔貸金債権の弁済期が先ということもありうる〕
・期限の利益喪失特約〔金銭消費貸借契約をよくチェックすべき〕
売掛債権 せいぜい3か月 末締め翌々末
貸金債権 1年以上 普通に考えてどちらにも当てはまらず,正当な利益は認められない(民法第511条の判例は当てはまらない。民法第468条第2項の判例も特殊事案。)。

Aは相殺の淡い期待を,「正当な利益」として主張できない。

 

【要件事実的整理】

 

当事者 原告 A 被告 C

訴訟物 消費貸借契約に基づく貸金返還請求権

請求原因(A)

抗弁(C)

①  金銭消費貸借契約成立

② 期限の到来

・相殺の抗弁

 ①相殺の意思表示

 ②相殺適状

  ・A→B売買契約

  ・B→C債権譲渡

 

再抗弁(A)

再再抗弁(C)

(1)   債権譲渡対抗要件の再抗弁(権利抗弁)

 

(2)   債権譲渡の無効の再抗弁 ・B→D 債権譲渡 ・B→A 先立つ確定日付付債権譲渡通知(本件は先立つことの証明不能)

 

(3)   Cの自働債権に付着した抗弁の承継の再抗弁

・A→B 貸金債権

民法第468条第2項「事由」   

→「事由」=先に相殺の意思表示をされてしまっており,事由をもはや主張できない。

・Cに先行する相殺の意思表示(本件は先行することの証明不能)

 

(4)   貸金債権の期限前弁済はAの正当な利益を害する(民法第136条第2項但書き)

→期限の利益の喪失条項がない限りNG

←   Bによる確定日付ある債権譲渡通知

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【発展問題 破産法との関係】

 

実際,これはどんな紛争として顕在化するのでしょうか。結構考えても難しいです。

おそらくBは取引先から金を借り,また,その売掛債権を二重に譲渡するような輩でしょうから,破産寸前だったというのが一つありうるストーリーで,Aは,Bの破産管財人に対し,相殺権の行使により,自己の有する貸金債権の優先弁済効果の実現を図る(破産法第67条第1項)のではないでしょうか(そうしないと,Aは破産管財人から売掛債権を請求されるだけされて貸金債権は配当に甘んじなければならなくなります。)。

 

この場合は,期限付きであっても相殺できます(破産法第67条第2項)。破産法の規定ぶりからは,自働債権と受働債権の弁済期の先後は問わないでしょう。

 

Bは既にCに売掛債権を譲渡していることもあり,破産管財人は売掛債権の保全には動かないでしょう。相殺を承認するのではないでしょうか。

 

ただ,別訴で先行してCの相殺が(判決理由中で)認められてAのCに対する貸金債権の請求ができなくなった又はAがCに対する貸金債権請求の旗色が悪い場合は, Aはなけなしの価値のα債権をBの管財人に主張して配当を求めるでしょう。