読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

k's point of view

経営の現場で,サラリーマンとフリーランスの境目にいる者です。旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログです。その他ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介もいろいろ記載していく予定です。最近は映画についての感想も縷々書いています。

【憲法】積極目的規制(旧司法試験 憲法 昭和60年度第1問)

【問題】

国会は、国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るため、外国からの輸入を規制し、その生産物の価格の安定を図る措置を講ずる法律を制定した。

A会社は、その生産物を原料として商品を製造しているところ、右の法律による規制措置のため外国から自由に安く輸入できず、コスト高による収益の著しい低下に見舞われた。

A会社は、右立法行為は憲法に違反すると主張し、国を相手に損害賠償を求める訴えを提起した。

右の訴えに含まれる憲法上の問題点

 

【問題点の整理】

Aのどんな権利が侵害されているか。

法律の内容はAの憲法上の権利を侵害し憲法に違反するか。

法律の内容が憲法に違反する場合、立法行為そのものが国賠法上違法となるか。

 

 

 

憲法 (新法学ライブラリ)

憲法 (新法学ライブラリ)

 

 

 

司法試験論文本試験過去問 憲法

司法試験論文本試験過去問 憲法

 

 

 

憲法解釈演習(人権・統治機構)【第2版】

憲法解釈演習(人権・統治機構)【第2版】

 

 

【回答】

 

1.Aのどんな権利が侵害されているか。

Aの営業の自由を侵害している。

A会社は特定の生産物を原料として商品を製造し、ビジネスを成り立たせている。それに基づいて事業計画を立て、資金を借り入れ経営を行っているものであり、本問法律によりビジネスが立ち行かなくなる可能性が顕著に認められる。

財産権(憲法29条1項 規制二分論が当てはまらない) 代表的判例 森林法(個人・単独・所有権)

営業の自由(憲法27条、29条1項 規制二分論が当てはまる) 代表的判例 小売小事件(大規模小売店の営業許可)

輸入は所有権の取得の場面であり、既に有している所有権を事後的に剥奪するものではない。他方、取引における予測可能性という側面では、営業権(財産権)の規制に近いと見ることもできる。

営業の自由は財産権の行使も含まれており、本件は営業の自由に含まれると解する(西陣ネクタイ事件判例同旨) 。

規制目的の積極・消去の区別、個人の人権の重要度、侵害の強度、規制目的の重要性、規制の態様を考慮して合憲性を判断する。

 

2.法律の内容はAの憲法上の権利を侵害し憲法に違反するか。

憲法に違反しない。

まず、特定の思想との関連がある人権ではなく、社会的相互関連性の強い経済的規制であり、厳格な審査基準は該当しない。

立法者は「国際的競争力の弱いある産業を保護」する目的を掲げており、当然、A会社のようなところが何らかの不利益を被ることを織り込んで立法をしている。民主制のプロセスが正常に機能している場面である。

このような場合は、立法者の判断を尊重し、合憲性の推定が働き、目的が不合理、手段が不当、得られる利益に比して失われる利益が大きすぎる、のいずれかが明白な場合に限り、違憲となる(明白の原則)。 目的は合理的(目的の認定は立法者が掲げたものに依拠すべき)。手段も外国品との価格競争にさらされて危機に瀕している産業の保護のために輸入制限して、国内での価格低下を予防するというものであり、適切にフィットしている。得られる利益は特定産業全体の保護であり、失われる利益は特定の輸入品を原料に製品を製造する業者であり、そのBenefit/Cost比較は、高度なCaluculationが必要で、官僚機構(本件で言えば経済産業省農林水産省法務省)及び国会(多元的利益の代表者の討議の場)にゆだねられるべき性質の事項である。特定の立法により1社や2社倒産したというところで当該立法が違憲の謗りを免れないとなれば明らかに行き過ぎであり、このような場面では、立法者も予測しなかったような極めて大規模な損害が発生しているという特別の事情が立証されない限り、「得られる利益に比して失われる利益が大きすぎる」ことが明白であるとは言えない。本問ではそのような事情はないと言わざるをえない。

以上から、本問法律は合憲である。

 

3.法律の内容が憲法に違反する場合、立法行為そのものが国賠法上違法となるか。

法律の内容が憲法に違反する場合でも、立法行為そのものが国賠法上違法となることは原則としてない。

また、国賠法上違法とされたとしても、①過失の認定をどうするか(相当に高度な注意義務を課されていると解さないと過失を認定できる場合が容易に思い浮かばない。)や、②因果関係の認定(損害の発生までには、市場というファクターや第三者の行為や自然環境要因など、因果関係が遠く直接の損害の原因が別にあったり、当該立法行為と重畳的になっている場合が多いと思われる。)や、③損害の認定(例えば慰謝料などは、害意や差別的意図がない限り認められないであろう。)の諸点において立証上問題があるものと思われる。

基本的には、違法とまではいえなくとも実情に合っていなかったり、利益考量に再考の余地がある立法は、代表民主制の政治プロセスの中で是正されていくようにすることが、長期的視点に立った民主制の健全な運営のためには望ましいというのが、裁判所の独立を認め、政治と一定の距離を置くようにし党派的になるのを防止している憲法の趣旨及び明白の原則を認める判例の背後にある考え方だと思われる。