k's point of view

経営を本業とし,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

【憲法】議員の発言と免責特権(旧司法試験 憲法 平成6年度第2問)

【問題】
国会議員が院内で人の名誉を侵害する発言をした場合、民事上、刑事上の責任を問われるか。 また、所属議院において、右発言を理由に除名の決議がなされた場合、当該議員はその決議の効力を訴訟で争うことができるか。地方議会の議員の場合と対比して、憲法上の観点から論ぜよ。

 

【問題の整理】

(設問前段)

 

1.設問前段

2.比較

原告

名誉毀損被害者

名誉毀損被害者

被告

国会議員又は国

地方議会又は地方公共団体

訴訟物・訴因

損害賠償請求(民法709条、724条)

損害賠償請求(国家賠償法1条)

名誉毀損罪(刑法230条)

損害賠償請求(民法709条、724条)

損害賠償請求(国家賠償法1条)

名誉毀損罪(刑法230条)

被告の行為

院内での、人の名誉を侵害する発言

院内での、人の名誉を毀損する発言

争点

民事上、刑事上の責任を問われるか

民事上、刑事上の責任を問われるか

 

(設問後段)

 

3.設問後段

4.比較

原告

国会議員

名誉毀損被害者

被告

地方議会又は地方公共団体

訴訟物

議員の地位の確認請求

議員の地位の確認請求

被告の行為

院内での、人の名誉を毀損する発言を理由とする懲戒処分

院内での、人の名誉を毀損する発言を理由とする懲戒処分

争点

懲戒処分(除名処分)の決議の効力を訴訟で争えるか

・訴訟要件

・本案での請求認容基準

懲戒処分(除名処分)の決議の効力を訴訟で争えるか

・訴訟要件

・本案での請求認容基準

 

 

【回答】
 
1.国会議員が院内で人の名誉を侵害する発言をした場合、民事上、刑事上の責任を問われるか。
 
民事・刑事ともに問われない。
 
憲法51条 両議院の議員は、議員で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。
 
責任=法的責任(民事・刑事)であり、政治的責任を意味しない(憲法58条2項本文「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。」参照。同項ただし書きにて、除名の要件についても言及されている)。
 
→司法による個々の議員への介入を避け、その独立性(国民からの自由委任による立法への関与(憲法43条1項「全国民の代表」の趣旨))を担保し、立法と司法(裁判所)・行政(検察庁)が適切なバランスを保つ政策。民事にまで免責特権を及ぼすことは、被害者の裁判を受ける権利(憲法32条)を制限することになるが、演説・討論・表決により個人の生命・身体等のシビアな損害が生じることは想定されず、やむをえない限度の制限と考えられる。
 
◎「演説、討論又は表決」に該当しない場合(暴行行為や脅迫行為)、院外で責任を問われると解釈する余地あり。
 
 
2.地方議会の議員が院内で人の名誉を侵害する発言をした場合、民事上、刑事上の責任を問われるか。
 
民事・刑事ともに問われる。
 
憲法51条は適用されない。両議院:衆・参両院(憲法42条)。地方議会は含まない。また、憲法第8章にも免責特権の規定はない。
国会議員のように特別に免責する趣旨ではない。その背後には直接委任的な色彩があり、法的手続きに対して有権者からの追及がオープンになっていたり、民事・刑事責任を負ったりと法的責任に対してオープンな制度設計になっている。憲法51条の類推適用の余地もない。
◎ただし、ことさらに検察や司法が責任を追及することで、行政や司法が権力を及ぼし、議会運営に萎縮的効果や歪みを生じさせるべきではなく、刑事・民事ともに、演説、討論又は表決において不可避的に生じた第三者への権利侵害に関しては、違法性阻却が認められる(正当行為)。
 
 
3.所属議院において、右発言を理由に除名の決議がなされた場合、当該国会議員はその決議の効力を訴訟で争うことができるか。
 
決議の効力を争えない。
 
決議の効力を争える条文はない。権力のバランス・議院自立尊重・法的責任と政治的責任の各分野の峻別の観点と見られる。裁判所が政争に巻き込まれることでその中立性が害され、その独自の正統性が失われることも懸念される。裁判を受ける権利(憲法32条)の制限になるが、法的責任から開放されている一方で、政治的責任追及に関しては全面的に服し、その政治的責任追及の正当性も選挙等の有権者による判断に委ねるという制度設計。
 
 
4.地方議会の場合はどうか。
 
決議の効力を争える。
 
除名に対しても政治責任絶対の法理が完全に当てはまるわけではないため、その帰結として、法的判断の余地がある。ただし、民主的正統性を有する地方議員の集団で構成される地方議会の議員の内部決定であるため、一定の自律権が当然にあるものと考えるべきであり、除名決定に関する司法の介入は謙抑的であるべき。裁量権で説明することが考えられ、判断過程統制型司法審査が適切。