k's point of view

経営を本業としており,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

アメリカ大統領選 トランプに関しての雑感

http://www.dispatch.com/content/stories/local/2016/11/13/j-d--vance-says-trump-presented-change-voters-wanted.htmlwww.theguardian.com

 

最近ニュースになっているしみなさん注目してたくさんのコメントが出ているので,自分が書いても何の意味もないかもしれないが…

 

1年くらい今回の代表選を見てきていて非常にトランプ当選については驚いた。

 

ただ,共和党の候補選の時から注目はしていた。

 

まだ彼を評価するには早いと思う。良い政治をする可能性もあると思う。

 

オバマの時は初の黒人大統領, "Change", "Yes, we can."ということで結構期待していたがやはりエリート層の空論で空回りの感あり。(ノーベル平和賞も受賞したのに…)

 

今回のトランプ躍進は,後知恵的であるが,Counter "Obama=Harverd" Cultureが相当数あると思う。演説だけはうまく実際は評論家的・偽善者的なオバマがいたからこそ今回のトランプ大統領出現につながったと思う。

 

思えば8年前はマイケル・サンデルも出てきて結構ハーバードカルチャーや正義論がもてはやされた。ただ,哲学では到底事実認識の問題には対応できず,白人 対 黒人というような表層的な話で思考実験を繰り広げる。

 

今回はRedneck=Hillbillyがその存在を現し,ハーバードのエリートたちの哲学では対処できない領域に達したと思うし,結局エリートであるオバマやハーバードカルチャーの鼻持ちならないところに庶民が辟易していたことを表していたと思う。

 

“You don’t have to agree with him. He was going against the mainstream consensus,” Vance said of Trump. “People were looking to shake up the system.”

 

レッドネック - Wikipedia

 

www.dispatch.com

 

 

 

 

 

 

自分が大企業を去った理由と電通の問題

www.huffingtonpost.jp

日本社会の縮図です。

 

自分が在籍していた某大企業の印象は,

・結構ブラック。電通の事件を見て十分ありうると思った。

・理念は絵に描いた餅で,それを現場に落とし込もうとしている人間がいない(結局サラリーマン)。

・社内手続が全て,いいビジネスにするのは二の次。

・事務処理的に物事を進めていくようなことはうまいが,本質をとらえていない(数字の根拠がおざなりなど)。

・部長クラスでも基本的にはプレーヤーであり,人のマネジメントがわかっている管理職がいない。

・まれにいい人はいるが,そのネットワークで会社が変わるような感じがしない。

・無駄なことや,理不尽なことが多い。人間性やシステムに由来している。

 

要するにろくな会社じゃない。結構このニュースを見て他人事ではないと思った。

 

自分はサラリーマン気質の人間や組織を嫌悪していることがよくわかった。自分のキャリアに対してほとんど実質的な意味がなかった(反面教師的な意味はあっても)。

 

また,法務をとってみても,だいたい全体を見たが,周りはレベルが低く,学べることがない。仕事も遅く,一緒にやっているとみていられないくらいつたない人が結構いて,こちらにもとばっちりが来ることがあった。契約をストラクチャリングしたり起案したり審査する仕事をせず,会議室の調整ばかりやっている(それを仕事と思い込んでいる)人が,感覚的に4分の1くらいいる。あと,残業しすぎ

 

総じてかなりレベルが低い。

 

上の世代はサラリーマン気質で「とにかく耐えて上に行き」発言権を獲得していくようなふうに考えているが,今の世の中そんなことがまだ必要なのかきわめて疑問。

 

同性愛者の団体に対する公共施設の利用拒否 憲法問題解析

【事案】

同性愛に関する正確な知識の普及と社会的偏見の解消を目的とする男性の同性愛者の団体A会の代表者Xらは,会員の活動報告の合宿のため,Y県に青年の家の宿泊利用を申し込んだところ,Y県当局は利用を認めなかった。その理由は次のようなものであった。

第1に,同施設は青少年の健全な育成を助成する目的で運営されており,A会の会員が数人ずつ同室で宿泊することは,居合わせた他の団体の18歳以下の青少年の同性愛行為に対する性的好奇心を煽り,教育上有害。

第2に,同性愛者に対して社会的偏見が強い現状では,居合わせた他の団体との間でトラブルに発展する危険性がある。

これに対してXらは,Y県の右措置は同性愛者を不当に差別するものであるとして,Y県を相手取り,慰謝料の支払いを求めて国賠請求

 

【問題の所在】

国や自治体が,同性愛者が性行為を行う可能性があることを理由に公共施設の利用を拒否しても,それだけで性的自己決定権の直接の規制であるということはできない。また,同性愛団体の社会活動を行うことを理由に,同団体の利用を拒否してもそれだけではやはり結社の自由の直接の規制ともいえない。いずれの場合にも,単なる施設の利用拒否によって同性愛行為や同性愛者の結社そのものが禁止されることにはならないからである。

しかしながら他方で,公共施設の利用許可・不許可の決定に際しては,国や公共団体は不合理な差別を行ってはならず(憲法第14条第1項),また,公民館や青年の家などの施設は「パブリックフォーラム」の一種といいうるので,表現行為のための利用は原則としてこれを認めなければならないと解される。

 

【考え方】

1 公共施設の利用基準

 本問施設の利用を不許可とする場合には,泉佐野市民会館事件最判と同様に,集会結社という表現の自由の規制にあたることに配慮し,人の生命,身体または財産に対する明白かつ現在の危険の存在が必要であるというべきである。

※ 泉佐野市民会館事件:「本件条例は,地方自治法244条の2第1項に基づき,条例7条の各号は,その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものである」。条例同条は「『公の秩序をみだすおそれがある場合』を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが,同号は,広義の表現を採っているとはいえ,右の趣旨からして,本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも,本件会館で集会が行われることによって,人の生命,身体又は財産が侵害され,公共の安全が損なわれる危険を回避し,防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり,その危険性の程度としては,単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず,明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要。客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならない」

※ 京都府中青年の家事件(本問と類似のケース):1審:(1)他の青少年が同性愛者の性的行為を目撃する可能性は極めて小さい。同性愛者の同室宿泊の事実から性的行為を他の青少年が想像するとも断定できず,仮に想像できたとしてもそれによって青少年の健全な育成が直ちに損なわれるとはいえない。(2)他の青少年によって原告らに対する嫌がらせ等が起きても,それが原告らによる利用を制限する理由とはなりえない。(3)憲法第21条,第26条,地方自治法第244条に鑑みると原告らは本件青年の家について利用権を有している。(4)同性愛者が青年の家における同室宿泊を拒否された場合には,別々の部屋に分かれて宿泊するのは個室数との関係で不可能であるから,その結果利用自体が不可能となる。これは男女が同室を拒否されても別々の部屋に分かれて集団で宿泊しうることと比べて著しく不利である。同性愛者の利用権を不当に奪う。(5)性的行為を行うという具体的な可能性がない以上,本件拒否処分は違法である。

 

2 同性愛団体と宿泊施設の利用

泉佐野:政治集会

本件:同性愛団体の同室宿泊を含む合宿

Xらの言い分からすれば,同性愛団体が同性愛の社会的認知を求めて行う研修集会の一環として合宿を行うのであるから,利用拒否は泉佐野市民会館事件と同様に原告らの集会の自由にかかわる事実だということになるのであろう。

対してYは,青少年の健全育成の目的のためには同性愛者の同室宿泊を阻止しなければならず,利用拒否は正当であると主張する(理由1)。被告側の発想は,青年の家は青少年の教育目的の施設であるから,成人による公民館の利用の規制とは異なり,たとえ集会の自由といえども教育的見地から規制することが許される,というものである。

どのように考えるか。成人から構成される本問Xらの同性愛団体は,青年の家や教育委員会による教育目的の規制の対象とはならない(また青少年の同性愛も個人の自己決定の問題であって「教育」の名で禁圧することは許されない)。青年の家における性的行為の連想が他の青少年にとって教育上好ましくないのは事実であるが,右地裁判決はそのような連想の有害性を否定した。そのような教育上の不都合は,社会の受け止め方の問題である。とすると,関連性すらなく,必要最小限度の基準は当然満たさない。

さらにYは,原告らの宿泊によって他の団体とのトラブルが発生する可能性があるという(理由2)が,この点の可能性は明白かつ現在の危険が必要である。それにそもそも,トラブルの原因は他の団体が同性愛者に偏見を有するからであって,偏見に基づく挑発行為に対しては,その他団体の施設利用こそYは規制すべきである。

公務員の労働基本権の判決

公務員の労働基本権に関する諸判例は,日本の憲法裁判史を考える上で重要である。

 

当初,公務員の労働組合が争議行為を行うことを事実上可能にするようなものではないか,ということで最高裁の中でリベラルな勢力があるのではないかというふうに当時の政権が危機感を抱き,人事院が抜本的な最高裁判事の人選をガラッと変えたといわれている。

 

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 ※全然関係ないですが,SLの盛んな真岡駅デス。

 

全逓東京中郵事件:当時国営だった郵便局の局員がストを行うことが問題になった事件。ストを呼びかけたことで処罰されるというときの根拠規定は郵便法第79条(郵便物の不取扱罪)で,公務員の労働基本権の制限を目的とした規定ではない。よく正月近くになると,年賀状を運ぶのが面倒くさいということで,勝手に捨ててしまう郵便局員が話題に出ることがあるが,それを取り締まるということが,郵便法第79条の規定。

東京都教組事件:公務員の争議行為の違法性に強弱があり,許される争議行為とそうでない争議行為がある。さらには,争議行為を呼びかける,そして処罰されるということが念頭に置かれている行為についても違法性の強弱がある。したがって,公務員法上,争議行為を呼びかける行為は処罰の対象になってはいるが,憲法上の労働基本権の保障を踏まえれば,違法性の薄い争議行為について,違法性の強い煽り方をしたという場合だけが処罰の対象になるのではない(いわぬゆ二重の絞り論)。

全農林事件:全面的な争議行為の制限およびそれを煽る行為を全面的に処罰することが合憲であるとされた。

全逓名古屋中郵事件:ここで問題になっている処罰の根拠規定は,郵便法。そもそも郵便事業の適正を確保する,郵便法の免責の規定,郵便業務を取り扱っている人と同じような,基本的には郵便事業を確保するという規定。この全逓関係の事件では,公務員の労働基本権としてとらえたときに困った問題が起きる。地方公務員法国家公務員法上,争議行為をしたとして処罰されるのは一般の争議行為をしたヒラの人が処罰されるわけではなくて,争議行為を煽った人である。これに対して郵便法は,郵便物を取り扱わなかった人を処罰するという構成要件になっている。つまり,今では民営化されるくらい,公務員の中では,それほど権力的な作用を持っていなかった,郵便局員でストに参加した人達,ストを呼びかけた人ではなくストに参加した人まで一網打尽で処罰しないと話が合わなくなってしまう。これは非常におかしく,地方公務員,国家公務員について組合活動をした幹部,組合の幹部の指示に従ってストを行った人は懲戒処分にはなっても刑事処罰の対象にはならないのに対し,郵便局員についてはストに参加しただけで刑事処罰の対象になり平仄が合わない。

 

東京都教組事件では地方公務員法,それから全農林事件においては国家公務員法上の争議行為の禁止として争議行為を煽った人に対する刑事罰の規定が問題になっている。問題の現れ方が,それぞれの判決群において微妙な違いを生じさせる。都教組事件,全農林事件では公務員による労働争議,組合活動を禁止する規定がまずあり,したがってそれは憲法第28条の関係で許されるかが問題になる。さらには,それに対して争議行為を呼びかける,組合の幹部の指示・指令というものが争議行為を呼びかけたということで処罰の対象となるかということが争われた。

 

一方,全逓東京中郵事件・全逓名古屋中郵事件においてはこのような一般的なストかどうかは関係なく,一般的な郵便業務の,郵便物を取り扱わなかった人達についても労働組合法第1条第2項の適用があるということが問題となる。労働組合法第1条第2項は刑事免責を認める規定。憲法第28条の労働基本権の保障には自由権的側面と社会的側面がある。自由権的側面である刑事免責を具体化した規定が労働組合法第1条第2項。郵便局員について労働活動として郵便物を取り扱わなかったという場合にも,この労働組合法の適用があるので,正当行為として不可罰になるのかという形で問題が現れる。

自由権的側面:労働活動をした労働基本権の正当な行使をした人を処罰してはならない,つまり労働基本権の行使という自由権に対して国家が制裁を加えるということは許されないという側面(民事免責・刑事免責)

※社会的側面:労働基本権を確実に実現するための立法を国家が行わなければならない,具体的には労働基本法を整備するというような社会的な側面

 

また,一般的義務の免除という側面からは,エホバの証人の生徒に対する剣道受講強制事件や公立学校の教職員の君が代起立拒否事件も参考になるものと思われる。

 

なお,全農林事件によって公務員の基本権の行使全体が制限されてもやむを得ないという立場をとったとしても「単純参加者についてはこれを刑事罰から解放する趣旨」とされている。いずれの事件においても基本的には処罰の対象となるのは組合の幹部だけということが前提になっている。

売買目的物の滅失 民法問題解析

【問題】

 AとBは,当年収穫のジャガイモ1トンの売買契約(12月1日に引渡し,代金を支払う)を結んだ。ところが売主Aが期日に買主Bへジャガイモを運んだにもかかわらず,Bは品質が悪いといって受け取らなかった。Aが持って帰り,倉庫の自分の他のジャガイモと一緒に入れ保管していたところ,異常寒波のために凍結し全部だめになった。この場合のABの法律関係を述べよ。

 

【問題の所在】

 特定と危険負担の問題。AとBがどのような請求を望むか,それらの請求が認められるか,という観点から考えていく必要がある。

 

【解説】

Ⅰ 買主Bからの履行請求,解除,損害賠償請求

 Bは,あくまでもジャガイモをほしいときには,別のジャガイモ1トンを引き渡せと主張し,この契約をやめにしたいときは解除する。ジャガイモなら他から調達するのが自然である。この意味で解除と損害賠償が普通である。期日にまともなジャガイモを受け取れなかったために受けた損害の賠償を請求するであろう。具体的には,Bが他からジャガイモを購入するために余計にかかった費用である。

 第1のジャガイモの引渡請求は認められるか。これは,目的物が滅失したときに売主は他から調達して,契約した本来の給付をしなければならないか,という問題である(給付危険の問題)。本問は種類物売買の場合である(特定物売買か種類物売買か,あるいは制限種類物売買かは契約時の目的物の指示の仕方で決まる。したがって,後で他のジャガイモと一緒に倉庫に入れても制限種類物売買になるわけではない)。種類物売買の場合には,「債務者が物の給付をなすに必要な行為を完了し」たときに目的物が特定する(民法第401条第2項)から,その後に滅失したのであれば,他の物を調達して履行する義務はない。この「物の給付をなすに必要な行為」とは何か。本問のように債務者が現物を持参したときは,特定することに異論はない。ただ注意が必要なのは,契約の趣旨に適合しない目的物の提供ではだめだということである。本問の場合,品質に合意がなかったとすると,中等の品質(民法第401条第1項)のジャガイモを提供したときは特定が生じ,Aは別の物を給付する義務を負わない。

 第2の解除と第3の損害賠償請求は,いずれもAに債務不履行があるときに認められるが,その債務不履行の有無も,Aが適切な品質のジャガイモを提供していたか否かによる。これは弁済の提供の効果である(民法第492条。弁済の提供の方法については民法第493条)。まず,ジャガイモの品質が適切でなかった場合には,そのことが債務不履行であり,免責事由が立証されない限り,Bは損害賠償を請求できる。さらに,品質が適切でなかった場合には特定も生じていないので履行遅滞解除が問題となり,Bが催告をして相当期間内にAが履行しなければ,契約を解除できる(民法第541条)。次に,ジャガイモの品質が適切であったときには,この点で債務不履行はない。もっとも,このときには,目的物が特定し,Aはその保管義務を負うのでその不履行が問題となる。この義務は民法第400条の善管注意義務であるが,適切な品質のジャガイモの受領を拒んでいるので,受領遅滞が発生し,その効果として債務者Aの保管義務が軽減される。保管義務は「自己のためにすると同一の注意義務」となる。したがって,Aは自己の所有する他のジャガイモと同じように保管していたのであるから,凍結による賠償責任を負わず,また,Bから解除されることもない。

 

Ⅱ 売主Aからの代金請求

 Aの側で問題になるのは代金請求である。その可否は,Bがどの権利を行使するかに左右される。まず,ⅠでみたところによりAに債務不履行があってBが売買契約を有効に解除した場合には,Aは代金を請求できない(民法第545条第1項本文)。次に,Bが契約を解除しない場合(解除できない場合も含む)のうち,Aの提供したジャガイモの品質が適切でなかった場合には,Bが別のジャガイモを請求でき,それに応じてAが履行したときは,Aはその代金を請求できる。

 問題は,Bが契約を解除しない(できない)場合のうち,Aが適切な品質のジャガイモを提供し目的物が特定していたために,Bが別のジャガイモを請求できないときである。このときAはBに対し代金を請求できるか。危険負担の問題である。民法によれば,以下のように処理される。

(a) 債務者Aの責めに帰すべき事由による場合は,AのBに対する損害賠償債務が存続するから存続上の牽連性の問題は顕在化せず,危険負担の問題から外れる。

(b) 債権者Bの責めに帰すべき事由による場合は,Bの債権は消滅するが,Aの代金債権は存続する(民法第536条第2項)。

(c) ABいずれの責めにも帰せられない事由による場合には,原則としてAは代金を請求できない(民法第536条第1項)が,本問のように目的物が特定しているときには請求できる(民法第534条の債権者主義)。

 Aが適切な品質のジャガイモを提供した場合には目的物は特定しているので(c)の類型となり,Aの代金債権は存続する。債権者主義の合理性には疑問も呈されているが,ここで想定している事態(Aが適切な品質のジャガイモを提供した場合)に関していえば,Bに受領遅滞も認められることから,実質的には(b)の類型と同視でき,民法第536条の規定には疑問は呈されていないので,合理的な解決であるということができる。

瑕疵担保と債務不履行 民法問題解析

【問題】

セールスマンAは,自動車販売業者Bから中古自動車を,代金90万円の全額を払って購入した。ところが2か月目のはじめに調子が悪くなり,修理工場で見てもらったところ,エンジンに欠陥があり,このままでは50万円くらいの価値しかなく,修理には30万円ほどかかるといわれた。Aは,Bが何もしてくれないので,3か月目以降はレンタカーを借りて仕事をしている。この間,2,3か月目の収益は以前の平均と比べて20万円ほど少なかった。AはBにどのような請求ができるか。

 

【問題の所在】

 買主Aの請求として,①完全な履行を請求する(別の中古車の引渡し,あるいは,当該中古車の修理),②損害の賠償を請求する,③契約を解除する,の3つが考えられる。このうち民法典は,債務不履行責任では①②③全てを規定し(民法第414条,第415条,第540条以下),瑕疵担保責任では②③を規定している(民法第570条・第566条)。

 ところで,Aが,損害賠償請求はあきらめて,払った代金90万円の取戻しを考える場合は,③の契約解除をすることになる。民法第541条と第566条で要件はやや異なるが,本問の場合はいずれによっても解除は認められる。

 問題は,代金の取戻しでは満足せず,①や②の手段を望むときである。というのは,瑕疵担保責任でも①の完全履行を請求できるのか,また,債務不履行責任と瑕疵担保責任とで②の損害賠償の内容が違うのではないか,が問題となるからである。

 

【解説】

1 伝統的な学説(Ⅰ)と近時の学説(Ⅱ)の整理

 第1に,Ⅱは特定物売買の合意は瑕疵のない物の売買だと解するのに対し,Ⅰはそのような契約は成立していないと考える。第2に,Ⅰは債務不履行責任は有効な契約に基づくが,瑕疵担保責任は有効な契約がない部分に法律が特別に認めた責任だ(だから完全履行を請求できず,賠償は信頼利益に限られる)と考えるのに対し,Ⅱは,いずれも有効な契約に基づくが,ただ瑕疵担保責任は売主の過失を要件とせず,代わりに賠償責任が信頼利益に限られ,1年の期間制限に服すると考える。以上の違いから,第3に,特定物売買の場合に,Ⅰでは瑕疵担保責任のみが適用されるのに対し,Ⅱでは両責任が並存しえ,売主に過失があるときは,買主はどちらか有利な方を追及することができ,売主に過失がないときには瑕疵担保責任のみを追及できるとする。

 

2 完全履行請求の可否

 契約締結の際に「その物」と特定しただけで完全履行請求を否定するのは妥当でない。一般に特定物売買でも,目的物には代替性があったり,修補が可能であったりすることが多い。

 

3 損害賠償の要件・内容

 信頼利益とは,目的物に瑕疵がないと信じて契約を結んだために受けた損害である。本問でいえば,Aが購入のためにかけた費用(契約費用,名義書換費用など),払った代金額(90万円)から瑕疵ある物の実際の価値(50万円)を引いた額(40万円)だけである。

 修理した場合の修理費用,レンタカーの賃料,収入の減少分は,履行利益となる。

 信頼利益賠償は,買主が瑕疵を知っていて契約を結ばなかったら現在あるであろう状態を実現するためのものである。他方,履行利益賠償は,欠陥のない目的物が給付されたと同じ状態を債権者に与えるものである。

 売主に過失がある場合にまで信頼利益に賠償を制限するのは不合理である。我妻栄はこの点を意識し契約締結上の過失の理論で履行利益賠償を認めたが,そもそも特定物ドグマを肯定することが必然でもなく単なる一学説にすぎず,過失がある場合には不完全履行に関する民法第415条の適用を認めるという解釈も十分可能である。

二重譲渡・受領遅滞・危険負担 民法問題解析

【問題】

 Bは6月1日に骨董商Aが陳列していた300万円の青磁の壺を見て,買うことにし,Aにその旨を述べて,明日現金を持ってくるから取っておくように依頼した。その後,Aは外出したが,その際に店番を頼んだ店員Dにうっかり青磁の壺が売れたことを伝えなかったところ,Dは,来店したCが青磁の壺を買いたいと申し出たのに承諾を与え,Cが明日現金を持ってくるまで壺を取っておくと約束してしまった。外出から戻ったAは,Dからその旨を聞いて困ったことになったと思ったが,壺は売却済みとして保管することにした。

 ところで,BもCも6月2日には来店せず,6月3日となったが,この日にあった大地震のためにケースが倒れ,「青磁の壺」は壊れてしまった。そしてその直後に来店したBとCは,壊れたつぼを見て,代金支払を拒絶した。

 ABCの法律関係を検討せよ。

 

【問題の所在】

 青磁の壺が破壊された原因は売主と買主の双方にとって責任のない大地震である。それゆえ,青磁の壺の破壊にもかかわらず,買主がなお代金の支払の義務を負担するかという危険負担が問題となる。

 

【解説】

1 特定物売買と危険負担

 Aは青磁の壺をまずBに売却する契約を締結したが,この売買契約は骨董たる青磁の壺を対象としているために,特定物売買であるといえる。その給付すべき特定物は大地震という契約両当事者に責任のない原因で契約成立後に滅失したのであるから,目的物の給付は不能となるものの,青磁の壺を引き渡す債務を負う売主Aは,給付不能について債務不履行責任を負わない(給付危険の問題,民法第415条反対解釈)。ここに至り,反対給付である代金債務の帰趨が問題となる(対価危険の問題)。

 特定物売買における危険負担については債権者主義が適用される(民法第534条第1項)。物の引渡しがなくても代金を支払わねばならないという債権者主義は妥当性を欠く。そのため同条項の縮小解釈が試みられる。(ここではその細かい議論は省略)

 

2 二重売買と危険負担

 設問では,店員Dも青磁の壺を買いたいとのCの申出に承諾を与えた。店員Dは店にある商品の販売に関する権限を有するゆえに(商法第26条),このCD間の売買の効果はAに帰属する。その結果二重売買が生ずる。

 特定物を二重売買した場合の危険負担については,債務者主義(民法第536条第1項)を採る解釈が妥当。債権者主義を制限しようとする傾向が強い上に,さらに二重売買では債権者主義を採ると対価を二重に受け取れることになるからである。

 Aが二重売買をした段階での危険負担は債権者主義であり,AはBCに対する代金債権を失う。

 

3 受領遅滞と危険負担

 設問においては,取立債務にもかかわらず,BCともに期日に壺を受け取りに来なかった。受領拒絶であり,受領遅滞である(民法第413条)。受領遅滞の効果として,対価危険の負担は,債権者に移転する(債権者主義,民法第536条第2項)。つまり,受領遅滞後の青磁の壺の破壊は,代金債務を消滅させない。(やや違和感があるが,民法の規定上そのように解さざるを得ない。)

 本問では,二重売買との関連で,さらにこの処理を貫徹してよいかが問題となる。結論としては,Aはいずれにも代金を請求できるとし,不真正連帯として処理するほかないように思われる。その上で,BCは求償関係に立つと解される。