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経営を本業としており,その現場で毎日活動しています。このブログは,旧司法試験の問題を中心に,新たに実務的視点で考えてみるブログでしたが,最近は,ビジネス関連の雑考や法律・ビジネス関連の書籍紹介の記事が多くなっています。

民主制・司法権・裁判所(旧司法試験 憲法 平成9年度第2問)

【問題】

住民訴訟地方自治法242条の2)の規定は、憲法76条1項及び裁判所法3条1項とどのような関係にあるかにあるかについて論ぜよ。 また、条例が法律に違反することを理由として、住民は当該条例の無効確認の訴えを裁判所に提起できる旨の規定を法律で定めた場合についても論ぜよ。

 

【問題の整理】

地方自治法の規定を確認しましょうか。このような条文を読み,制度構造を把握することは観念論,概念の遊びから脱却し地に足のついた議論をするために大変有効です。

地方自治法 第9章 財政 第10節 住民による監査請求及び訴訟

    第十節 住民による監査請求及び訴訟

(住民監査請求)
第二百四十二条  普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
 第一項の規定による請求があつた場合において、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合においては、監査委員は、当該勧告の内容を第一項の規定による請求人(以下本条において「請求人」という。)に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
 第一項の規定による請求があつた場合においては、監査委員は、監査を行い、請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知するとともに、これを公表し、請求に理由があると認めるときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
 前項の規定による監査委員の監査及び勧告は、第一項の規定による請求があつた日から六十日以内にこれを行なわなければならない。
 監査委員は、第四項の規定による監査を行うに当たつては、請求人に証拠の提出及び陳述の機会を与えなければならない。
 監査委員は、前項の規定による陳述の聴取を行う場合又は関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員の陳述の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員又は請求人を立ち会わせることができる。
 第三項の規定による勧告並びに第四項の規定による監査及び勧告についての決定は、監査委員の合議によるものとする。
 第四項の規定による監査委員の勧告があつたときは、当該勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員は、当該勧告に示された期間内に必要な措置を講ずるとともに、その旨を監査委員に通知しなければならない。この場合においては、監査委員は、当該通知に係る事項を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
第二百四十二条の二  普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
 前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる期間内に提起しなければならない。
 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合は、当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合は、当該措置に係る監査委員の通知があつた日から三十日以内
 監査委員が請求をした日から六十日を経過しても監査又は勧告を行なわない場合は、当該六十日を経過した日から三十日以内
 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合は、当該勧告に示された期間を経過した日から三十日以内
 前項の期間は、不変期間とする。
 第一項の規定による訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもつて同一の請求をすることができない。
 第一項の規定による訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
 第一項第一号の規定による請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。
 第一項第四号の規定による訴訟が提起された場合には、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実の相手方に対して、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない。
 前項の訴訟告知は、当該訴訟に係る損害賠償又は不当利得返還の請求権の時効の中断に関しては、民法第百四十七条第一号 の請求とみなす。
 第七項の訴訟告知は、第一項第四号の規定による訴訟が終了した日から六月以内に裁判上の請求、破産手続参加、仮差押若しくは仮処分又は第二百三十一条に規定する納入の通知をしなければ時効中断の効力を生じない。
10  第一項に規定する違法な行為又は怠る事実については、民事保全法 (平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
11  第二項から前項までに定めるもののほか、第一項の規定による訴訟については、行政事件訴訟法第四十三条 の規定の適用があるものとする。
12  第一項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
(訴訟の提起)
第二百四十二条の三  前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。
 前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。
 前項の訴訟の提起については、第九十六条第一項第十二号の規定にかかわらず、当該普通地方公共団体の議会の議決を要しない。
 前条第一項第四号本文の規定による訴訟の裁判が同条第七項の訴訟告知を受けた者に対してもその効力を有するときは、当該訴訟の裁判は、当該普通地方公共団体と当該訴訟告知を受けた者との間においてもその効力を有する。
 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、普通地方公共団体の執行機関又は職員に損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合において、当該普通地方公共団体がその長に対し当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起するときは、当該訴訟については、代表監査委員が当該普通地方公共団体を代表する。

 

 

【回答】
 
(設問前段)
 
原則と例外の関係
 
1.原則
 
司法権:具体的な争いが生じているとき、法を適用してその争いを解決する作用
→事件性が司法権行使の要件となる
 
事件性:特定の者の具体的な権利義務関係についての争いが存在していること
 
判例:「我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下す権限はない」
 
日本の司法は「司法権型」→行政裁判所がない
理由: 憲法上規定がない、憲法81条は「処分」の合憲性を通常裁判所で審査できるものとされている。
 
裁判所法3条1項の「法律上の争訟」を裁判する権限=憲法76条1項「司法権
 
2.例外
 
個人の具体的な権利義務関係についての争いが存在していなくても、法令を適用することによって解決できる具体的争訟があり(内在的要件)、国権の最高機関が立法が政策的見地から手続を認めた場合(形式的要件)、例外的に認められる。
 
理由:
憲法が禁止していない。
・法令の適用は必ずしも自然人や法人の権利義務関係のみになしうるものではない。客観的法規範(予算、法律と条例、機関の権限等)はあり、これも法の適用により紛争を解決する具体的争訟に近いと言うことができるものがある。
 
ただ、それにも限界があり、例えば統治行為のような高度に政治性の高い事項や、出訴要件が広がりすぎるような抽象的規範統制は、裁判所が政争の場となり司法への国民の信頼を毀損するおそれがあったり、国会や内閣の憲法上の権限を変更することにより憲法上の矛盾が生じたりするため、不可(司法権の外在的限界)。
 
3.まとめ
 
裁判所の権限は狭義的な意味での司法権の範囲よりは少し広く、立法により一定程度広げることが可能。ただし、裁判所の特性に根ざした司法権の本質からの内在的制約や、民主制とリーガルカルチャーのゆるやかな分離と相互牽制を掘り崩すような過剰な司法の抑制と言う要請による外在的制約に服する。
 
 
(設問前段の当てはめと設問後段)
 
住民訴訟地方自治法242条の2)とは、自治体の具体的争訟(自治体と知事の争訟)を住民が代位して遂行する訴訟のことをいう。会社法上の株主代表訴訟にも類似するため、事件性があり、OK。
 
条例無効確認訴訟に関しては、自治体がどことも争っているわけではなく、具体的争訟がなく単に抽象的規範統制となる。立法で認めたとしても、裁判所が解決すべき争訟がなく、裁判所は適切に機能しないため、当該立法は憲法76条1項に照らして無効とされる。
 
民主的基盤を有しない裁判所が、法令の解釈適用に名を借りて、条例の無効を宣言することにより実質的に立法作用を行うことになると、裁判所が政争の場と化し、裁判所に対する国民の信頼を害する。
 
また、条例制定者たる地方議会とそれを支える住民自治の理念を非民主的機関による統制で大きく害する恐れなしとしない。民主制とリーガルカルチャーのゆるやかな分離と相互牽制が今の立憲主義を支えている。
 
究極的には、すでに述べたように、憲法による権利の保護は、単純多数に基盤を求めるべきものなのです。原理上は、多数派の意見が憲法に直接に表現されていても、後世の憲法の再解釈に反映されていても同じことなのです。大切なのは、法律が多数派の、一時的な気まぐれでなく、熟考された意見を反映することなのです。その意味では、情熱や利害に影響されやすい憲法制定会議よりも、ゆるやかに進化してゆくリーガル・カルチャーに信頼をおく方が理にかなっているということができます。しかしながら、リーガル・カルチャーは法廷での決定に対するやわらかな制約にすぎず、憲法起草世代の意見でもなく現代の多数派の熟考された意見でもないものを反映する決定がなされる余地は、つねに残されています。それどころか、法廷が少数派のイデオロギーに――あるいは多数派の一過的な情熱に――振り回されることもありうるのです。

 【参考文献】ヲタ〜いつの間にやら読書備忘録〜:人権について

 

――― こんな感じでどうでしょうか。

 

 

 

 

 参考書籍

 

リーガルカルチャーの固有の正当性については,こちらのヤン・エルスターの論考を参照すると目からウロコです。プロセス憲法観に対するカウンター的見方があります。

 

 

人権について―オックスフォード・アムネスティ・レクチャーズ

人権について―オックスフォード・アムネスティ・レクチャーズ

 

 

 また,正義論的観点も民主制とリーガルカルチャーの相互の分離・抑制均衡を理由づける大きな視点です。こちらも裁判所がどのように司法の場において正義を実現したかが,理論的バックグラウンドと合わせて学べる本で,話題先行でしたが,そういった観点で法律を学ぶ・関心があるみなさんにも読んでいただけるとよいかと思います。

 

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

 

 

 

地政学と軍事学のススメ

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日本においては,地政学軍事学は,敗戦後の政策により,大学から淘汰されてしまいました。しかし,現代史や現代の国際情勢を理解するうえでは全く欠かせないものです。歴史と地政学の違いは,「人を軸にして語る」か「地形を軸にして語る」かの違いです。新しい見方(味方)を身に付けてみてください!

 

プラグマティックに世界を見るために必須なので,ぜひ目を向けてみてください。3冊本を紹介します。

 

地政学

 

1冊目はややアメリカ礼賛の本ですが,うまく読みこなせば,欧州やカナダやアフリカや中国など,広く世界の地政学を学べる内容になっています。また,他の地政学の本と異なり情報が新しいところがメリットです。

地政学で読む世界覇権2030

地政学で読む世界覇権2030

 

 

 これは私の好きな茂木先生の本なのですが,地政学をエッセンス的に用いて基本的には現代につながる世界史を解説している本です。多少なりとも歴史と地政学の関連をつけているので,一応あげておきます。

世界史で学べ! 地政学

世界史で学べ! 地政学

 

 

軍事学

 兵頭先生は日本の軍事学の第一人者であり,元陸上自衛隊の隊員という経験も相まってリアルな軍事の世界を教えてくれます。本書は,日・米・中・韓の軍事について基礎的な解説してくれます。文章がうまく,とても読みやすい本です。

日本人が知らない軍事学の常識

日本人が知らない軍事学の常識

 

 

 

 

ぜひ参考にしてみてください。

新海誠「君の名は。」の感想

www.kiminona.com

 

ミーハーなのは充分わかっていますが・・・


先日「君の名は。」のDVDを買いました。私は昨年映画館で5回観ました。 

 

 

 

 

アニメ作品はあまり観ないのですが(エヴァンゲリヲンはとても好きでしたが),自分の中で今まで見た映画の中で真に最高と言えるものでした。

 

新海誠というクリエイターがすごく気になり,「言の葉の庭」や「秒速5センチメートル」という彼の他の作品を観たり,彼のインタビューを聞いたりしています。

 

www.kotonohanoniwa.jp

 

 

新海監督は,インディーズの頃は25分くらいの作品を一人で家で作っていたというのもとても興味深かったです。

初音ミクなどとも通底するのですが,無名のクリエイターがITのおかげで作品を製作し,発表でき,世に出られ,メジャーになれるというのがとてもexcitingだと思います。

 

さて,「君の名は。」の劇中では,いろいろと心に染みるようなシーンがありました。

 

たくさんあるのですが,

 

彗星のシーンは冒頭と中盤で全く同じものが,文脈が変わると全く違って見えるのも,ひとつ見どころではないでしょうか。

 

三葉がなぜ髪を切ったのか考えたりして,とても切なくなりました。

 

お互いの名前や思い出がどんどん消えていくのは,時空の歪みを是正しようとする宇宙の法則によるものなのではないかと解釈されますが,その圧倒的な力の前に,「赤い組紐」が手掛かりになり,瀧と三葉が再会できるというちっぽけなひとつの「抗い」になんとも言えない希望を感じました

 

ひとつひとつのシーンが心に迫ってきて最初から最後まで涙が止まりませんでした。

 

 

 

こちらも一読されることをお薦めします!

 

君の名は。 Another Side:Earthbound (角川スニーカー文庫)
 

 

憲法における三段階審査論

はじめに

 

スターバックス憲法??と思いましたが結構良い本です。今回は憲法における三段階審査論についてご紹介します。

 

 

スターバックスでラテを飲みながら憲法を考える

スターバックスでラテを飲みながら憲法を考える

 

 

 

 

定義

 

三段階審査とは,違憲審査を三段階に分けて,

まず一段階目で原告が制限されていると主張する利益が憲法上の権利かどうか,それが保護範囲に含まれているかどうか,

二段階目は事案で問題となっている法令や処分が実際にこの保護範囲に含まれている権利を制限しているかどうか,

三段階目は一段階目と二段階目を踏まえ,保護範囲の中核にある権利を直接に制約していたら厳格な審査をするというように,その制限を正当化できるかどうか

をみる,というものです。

 

 

学術的な解説はこちら,

 

三段階審査とは、いわゆる防禦権について、①「保護範囲(領域)」→②「制限(侵害・制約)」→③「正当化」の三段階に区分して、規制の合憲性を段階を追って判断しようとする枠組みである。三段階審査は、必ずしも、政府の行為の合憲性を審査する際に一般的に用いられるべきものとされているものでもなければ、「防禦権について」という限定を付したように、憲法上の「権利」の制約の合憲性を審査する際に一般的に用いられるべきものとされているわけでもない。それでも、憲法上の「権利」の典型を、「国家からの自由」としての「防禦権」として観念する思考をとる場合には、少なくとも、憲法上の「権利」に対する制約の合憲性を判断するためのモデルとして、アメリカに由来する違憲審査基準と比肩しうる地位を持ちうる。違憲審査基準も、違憲審査基準という名称にもかかわらず、政府の行為の合憲性を審査する際に一般的に用いられるべきものとして語られることは稀であり、憲法上の「権利」の典型を、「国家からの自由」として観念する発想を前提にしているからである。
三段階審査において、①「保護範囲(領域)」とは、規制されている行為(=被侵害利益)が憲法上の保障を受けるものなのか、またどの程度の保護を受けるのかを考える作業である。ここで保護の対象になると、今度は、②「制限(侵害・制約)」の段階に進み、規制が憲法上保障された権利を制約しているのか、どの程度制約しているのかを検討することになる。制約を受けているということになると、違憲であるとの一応の推定が働き、最後の③「正当化」の段階に進み、制約が正当化されるかどうかが判断されることになる。ただし、憲法上絶対的に禁止されている「制限」、たとえば、絶対的禁止として「検閲」を理解する説をとる場合、ここで「制限」に該当すれば違憲となることがある。「正当化」の段階は、規制が「法律の留保」を満たしているかどうかという「形成的正当化」と、規制の目的が正当なものかどうか(目的審査)、規制手段が目的に照らして正当といえるか(手段審査)、という「実質的正当化」の2つによって構成される。そして、この手段審査は、比例原則を用いてなされるが、具体的には、①手段が目的達成のために有用か(適合性・合理性)、②手段が目的達成のために必要か(必要性)、③手段により得られる利益は手段によって失われる利益を上回っているか(この③のみをつかまえて「狭義の比例原則」と呼ばれることがある)によってなされる。比例原則を用いる場合の審査密度は、どの程度重要な権利が侵害されているのか、どの程度制約が厳しいものかによって変化する。

 

 

https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/18755/2/hogaku0090300310.pdf

 

 

保護範囲については理解が難しいですが,

 

 

自由権の保護範囲論の大原則ですが、
「自分の財産を使った行為」だけが、保護範囲にはいる、というのが大原則です。

他人の土地を使った宗教活動、
他人の著作権を侵害する表現活動、
他人の建物を(賃借などがないのに)使った営業活動は保護されません。

そして、財産の配分がどうも不自由だ、という問題は
「公共の福祉にしたがった財産法をつくれ」という請求権(29条2項)の問題になります。

そこから先、
基本的には、保障根拠論から保護範囲が定まります。

たとえば、営業活動は、分業社会での人格の発現であり、
一回的・単発的行為(ヤフオクでの販売など)は、
人格との結びつきが弱く保護されない、とか、

国家が人の思想を誰何するのは、
思想弾圧目的以外ではあり得ないから
思想を守るという19条の趣旨から沈黙の自由が保護される

といった感じで、保護範囲を確定します。

 

 

blog.goo.ne.jp

 

 

憲法I  基本権

憲法I 基本権

 

 

 

憲法上の権利(防禦権)の侵害の有無を,まずは原告が主張している具体的な利益が憲法上の条文によって保護されている権利といえるかをまずチェックし,次にそれが公権力により制限されているかということをチェックします。それぞれの段階でその保護の程度,あるいは制限制約の態様等を分析しておいた上で,比例原則により,正当化されるかどうか判断を行います。

 

 

 

民事刑事行政分野との架橋

 

10年以上前,当時からこれを提唱していた学者はいたようだが,自分も学生のころに独自にこのようなことを考え,松井茂記教授(大阪大学ブリティッシュ・コロンビア大学)と少し議論させてもらったことがあるが,考えてみれば法律家として当たり前の考え方で,保護範囲・制限・正当化の枠組みは,刑法でいうと構成要件該当性→違法性阻却の判断をしているのと同じ。一学生の試論に対し,松井教授も当時好意的に受け止めてくださったように記憶している。

 

日本国憲法 第3版

日本国憲法 第3版

 

 

これは一般的な法学のものの考え方で憲法上の権利侵害というものを見直してみようというだけのことです。付随的審査制の下で日常民事刑事行政のあらゆる法律問題に対処している裁判所はもともとこのような考え方で憲法審査に取り組んでいたはず。

 

 

LAW IN CONTEXT 憲法 - 法律問題を読み解く35の事例

LAW IN CONTEXT 憲法 - 法律問題を読み解く35の事例

 

 

 

 

さいごに

 

徹底して判例をベースにした基本書が最近出ております。これは大変オススメできる本です。

 

 

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

 

 

 

 

海外旅行の自由(旧司法試験 憲法 昭和61年度第1問)

【問題】
 
基本的人権の保障の限界に関しては,憲法第12条,第13条などにいう「公共の福祉」との関係において説が分かれているが,その相違を論拠とともに説明し,それと関連付けながら,海外旅行の自由の制約について,集会の自由の場合と比較して,説明せよ。』
 
 
【問題の整理】
 
問題文はやたらと修飾語が多いが,本問題のメインポイントは,「海外旅行の自由の制約(保障の限界)について説明すること」。
 
海外旅行の自由は「経済的自由か精神的自由か」「自由権の請求権的側面」の説明の軸がある。
 
さてどう料理するか。
 
 
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【回答】
 
総論
 
「海外旅行の自由とは,一時的な海外への移転の自由であり,憲法第22条第1項(何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。)の「移転」の自由として保障される。」
 
このように,文理上,移転の自由に含まれることを指摘し,国内・海外の区別なく保障される人権であることを指摘する必要がまずあると思われる。
 
次に,移転の自由の沿革・保障根拠・保障の限界(合憲的制約)について説明することが必要(「海外」の特殊性にいきなり飛びつかないこと。)。
 
(沿革)
憲法第22条第1項に規定する移転の自由は,歴史的には,職業を選択する自由の前提として,身分制の下で人を一定の土地と結び付けていた制度を廃止した結果生じたものであり,経済的自由としての側面を持つ。」
 
(保障根拠)
「しかし,上記の経済的自由の側面とともに,自ら生活の場を選択し,自由に他の地域の人々と情報や意見を交換するための条件をも保障するもので,人格の発展を基礎づける精神的自由としての側面もある。」
 
(保障の限界(合憲的制約))
「移転の自由が右のように多面的な性格を有していることから,その保障については,制約の目的に対する注意深い分析が必要になる。」
 
制約の目的が,経済的なものであれば経済的自由の側面のロジック(内在的制約のみならず政策的制約まで許容,目的二分論)で,精神的なものであれば精神的自由の側面のロジック(内在的制約まで,厳格審査)で処理するようになると思われる。そこで,一旦人権の制約事由である「公共の福祉」について考察をする必要がある。
 
 
公共の福祉の学説
 
「公共の福祉(人権保障の限界)の学説については,次のような学説の対立があり,C説が通説である。
A説 一元的外在制約説 公共の福祉は,憲法上の権利を一般的に制約する根拠となる外在的原理であるとする説。
B説 二元的制約説 公共の福祉による外在的制約が許されるのは,憲法第22条及び第29条の保障する経済的自由と,国家権力による積極的な施策を求める社会権に限られる。それ以外の自由権に関しては,「公共の福祉」ではなく,権利自由に内在する制約のみが許されるとする説。
C説 一元的内在制約説 人権相互間の矛盾衝突を調整するための公平の原理が「公共の福祉」であり,一元的に内在的制約で説明する説。憲法第12条,第13条の公共の福祉は「自由国家的公共の福祉」とされ,人権一般の制約原理となる。一方,憲法第22条,第29条の公共の福祉は「社会国家的公共の福祉」(憲法25条等の社会権規定の趣旨から)とされ,経済的自由に妥当するの制約原理となる。」
 
「海外旅行の自由は,基本的には経済的自由であり,自由国家的公共の福祉と社会国家的公共の福祉双方の制約を受ける。ただし,個別の場面で,精神的自由としての側面が強い場合,換言すると制約理由が経済的理由でない場合(海外の政治集会に出席させない理由での制約など),自由国家的公共の福祉の観点からの制約のみに服し,社会国家的公共の福祉(積極目的規制)が合憲的な制約理由とはならない(目的違憲となる)。」
  
(規範定立)
「海外旅行の自由を制限する場合,他人の人権を保護する目的ではなく社会経済の発展などの政策的目的を達成するための制限は,それが主として経済的規制となっている場合のほかは許容されない(憲法第22条1項の「公共の福祉」は,移転の自由が政策的制約に服する場合もあるということを明示したものである。)。そのため,制限されている自由が具体的に専ら経済的側面を対象としているかどうか,対象となる人の行為の目的・客観面や政府の規制の目的が専ら経済的側面を目的としているか精神的側面を目的としているかどうか,という複合的観点から,制限されている自由の内容・制限の目的を分析した上で,政策的目的による制限の可否を判断することになる。」
 
海外旅行の自由は移転の自由一般に対して,何か特殊な点があるか,検討し説明する必要がある。
 
「現在,海外旅行は,パスポートの発給を受けなければできない法制度となっており,また,外務大臣が,著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者について,パスポートの発行を拒否できるようになっている。この制約が合憲かが海外旅行の自由の制約に関して問題となる。」
 
 
旅券法の許可規定の合憲性
 
(法令の合憲性)
「まず旅券法の許可規定の合憲性について判断する。上記から,当然,移転の自由一般と同様,経済的自由の側面があるため政策的制約に服する場合がある。また,日本政府の保護を受けあるいはそれを期待しつつ一時的に海外へ旅行する自由は,一般の移転の自由と性格を大きく異にしており,人の生まれながらの自由としての性格とは異なる部分がある。旅券法の規定は海外旅行の自由の広範な制限になり,また,外務大臣の裁量も認められ,人権制約の程度が高い特殊な規制態様となっているが,合理的な制限であり,旅券法の規定が法令として違憲とはいえない。」
 
(法令の適用の合憲性)  
「ただし,たとえ旅券法の規定が法令として違憲とはいえないとしても,海外旅行の自由が持つ重要性(精神的自由の側面)を考慮するならば,個別事例において,外務大臣の裁量逸脱を認めるべき場合が存するものと思われる。たとえば,ビジネストリップではなく,海外での講演活動・政治集会への出席のための海外旅行であれば,精神的自由としての側面が濃厚で,内乱・外患の蓋然性が客観的に存在し,日本国の利益又は公安を著しく害する場合に当たる場合(内在的制約,憲法第12条,第13条の「公共の福祉」)を除き,その旅券発給拒否は旅券法の適用上違憲となる。」
 
 
集会の自由との比較 
 
「集会の自由は市民会館等の公共用物を使用して実現することが多く,自由権であるとともに場所の提供を求めるという請求権的側面を有している。海外旅行の自由も同じように,現地の大使館や条約に由来するの一定の特別な保護を受けながら,日本の警察力の及ばない海外でも,「日本国民」ということで特別に安全で快適な旅行を図ることができ,一部請求権的側面を有するという点で共通している。しかし,集会の自由が精神的自由の核心の一つであり,明白かつ現在の危険で制約の合憲性がテストされるのとことなり,海外旅行の自由は「国益」という観点から外務大臣の専門的判断の裁量にゆだねられる人権という点では異なる。」

 

まとめ
 
「経済的自由か精神的自由か」 → 制約事由の許容範囲の問題
自由権の請求権的側面」 → 行政庁の要件裁量の範囲の問題
 
 

【参考文献】

伊藤正己「居住移転の自由」の論文は非常に明晰で,一読の価値があります。

 

 

法律学講座双書 憲法

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司法試験論文本試験過去問 憲法

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株主と経営者

本稿では,株主の役割と経営者がどう企業を経営し,どう株主に接するべきか,バークシャー・ハサウェイのケースをベースにして考察した。

 

 

株主

 

バークシャー・ハサウェイの株主は一般的な株主像とは大きく異なる。同社のウォーレン・バフェットは次のように述べている。「当社は,上場企業の母集団において,投資期間が最長である株主基盤を持っており,この特徴は今後も変わることはないはずだ。実際,当社の株式のほとんどは,死んでも保有していたいと思う株主が保有している。90%以上の株主は5年前から変わっていない。また,当社の株式の95%以上は,ポートフォリオにおいて当社の株式が最大の投資となる株主に保有されている。少なくとも数千人の株主が存在し,時価総額が10億ドルを超える企業の中で,株主がオーナーのように考え,行動するという点では当社はナンバーワンである。大株主であれ,少数株主であれ,株主が当社の経営哲学に共感してくれることは,素晴らしいことであり,また満足できることでもある。」

 

 バフェットは株主は企業が選ぶべきものだと考えており,以下のようにして質の高い株主構成を構築してきた。

・求める株主像を明確にすること

・実際の経営や情報開示をすること

・自社の株主になるように自己選択を促すこと

 

株主は,価格が日々動き,経済的もしくは政治的な出来事により神経質になった時に売却する候補となる紙切れを保有しているに過ぎないと考えるべきではない。家族と共同で農場やアパートを保有しているのと同様に,永久に関与し続けたいと考える事業の一部を保有していると考えるべきである。

 

バフェットは,少なくとも5年以上の保有を推奨し,レバレッジを活用する短期的な投機家を拒絶する。長期的に企業価値を創造する自信がなければこのような主張はできない。長期的に優れた株価パフォーマンスを生むことを期待できない企業に長期的に投資する株主は存在しない。逆に短期的な株価パフォーマンスに関しては,市場の動向などの影響があるため企業価値の創造が即座に適正に株価に反映されることは保証されない。株主という共同出資者に損をさせないために,投資期間が短期間であれば投資をしないように警告をしているのである。

 

バフェットは,メディアやアナリストのレポートに基づき売買する投資家は自社に相応しい株主ではないと考えている。自身が理解できる事業に長期的投資をしたいという理由や事業が賛同できる方針に従っているという理由でバークシャー・ハサウェイに参画する「パートナー」を,株主として望んでいる。バフェット自身が実践しているように,投資家に対しても投資先についてしっかりと分析した後に投資をすることを求めている。

 

バフェットは,バークシャー・ハサウェイの経営にあたっては,方針,業績,コミュニケーションを通じ,自社の経営を理解し,時間軸を共有し,そして自己の評価と同様な評価をする株主を引き寄せる努力をしている。このような株主を継続的に引き寄せること(反対に,短期的で非現実的な期待を持った投資家にとっては興味がない会社であり続けること)ができていれば,企業の株式は事業価値に相応しい価格で持続的に取引されるはずである。経営戦略,財務戦略,IR戦略を通じ投資家は経営者の「本音」を見破る。自社の株主が短期的であるとすれば,自社の経営が短期的であることが原因であり,「自業自得」なのである。

 

バフェットが自社の株主に求めるのは,価格ではなく価値に注目する投資家。価値ではなく価格を重視するような投機家が株主を構成するようであれば,株価が根拠なく変動するだけでなく,企業が長期的な経営を実践することも困難になりかねない。長期株主の比率が高い株主構成を構築しようと考えるのであれば,企業は言葉だけではなく,長期的な経営にコミットする姿勢を実際に行動で示さなければならない。

 

 

戦略の首尾一貫性

 

ターゲットとなる投資家の自己選択により自社の株主になってもらうためには,彼らの判断をサポートする十分な材料を提供しなければならない。そこで重要となるのが,投資家から見た企業行動が首尾一貫しているかどうか,ということである。ここで,経営戦略と財務戦略の首尾一貫性がポイントとなる。例えば,経営戦略は長期的な視点に立っているにもかかわらず,財務戦略が短期的なROE改善を重視していると投資家に判断されれば,経営戦略と財務戦略との一貫性が欠けてしまうことになる。これでは,短期的な経営を行う企業と判断して株主となる短期的な投資家が混在することになる。実際,日本企業の最近の財務戦略を見る限り,短期的と判断されかねないケースが少なくない。

 

 

経営指標

 

企業が自ら設定する業績指標の目標を達成できているかどうかは投資家にとっては経営状況を判断するうえで有効な情報となる。ROEやEPSなどさまざまな財務指標が業績指標の目標として設定されるが,バフェットが目標設定において考慮しているのは,長期的な経営指標を業績指標として選定することである。バフェットは,一株当たりの内在価値の平均年間成長率を指標としている。これにより,長期的にキャッシュフローを改善することが経営上優先されることが投資家には理解できる。よって,長期投資家にとってはバークシャー・ハサウェイが投資対象の一社となる。

 

指標は事前に設定し変更しない,という点も重要である。これにより,業績という矢が刺さった場所を確認した後に,その周辺に標的を描こうとする衝動を抑えることができる。業績が悪化すると,多くの経営者は指標を捨てることを望む目標として設定する業績指標は,長期的に企業価値を創造するためのカギとなるものでなければならないため,状況によって指標を変更することは不適切であり,一度選んだ指標は一貫して使い続けなればならない。

 

バフェットは,「株主の手紙」の最初のページに一株当たりの純資産(内在価値の算出は困難なため純資産で代用)とS&P500指数(配当含む)の年間変動率の時系列データを示しており,彼の業績指標実現への高いコミットメントが表れている。

 

 

財務戦略

 

財務戦略では株価への影響を意識しないことが重要である。配当や自社株買いなど財務戦略は株価に影響することが多いが,企業が株価を意識した行動を取れば,同様に株価を意識する投資家が近寄ってくる。価値ではなく価格を重視する株主が増えれば株主構成が悪化することになる。バークシャー・ハサウェイの財務戦略は非常に保守的だが,これは財務戦略を材料に短期的な投資をする投資家を近寄らせないことが理由の一つである。特に財務戦略は,意図せぬ誤解を生むことが多いため,一挙手一投足に気を配る必要がある。

 

バフェットは,自社の株主の一人一人が,自社が実現する一株当たりの内在価値の成長性と比例するリターンを株式保有期間に得て欲しいと考えている。これが実現するためには,自社の株式の内在価値と市場価値の関係が一定であることが必要となる。そのためバフェットは,自社の株価が高水準であることよりも公正な水準であることを望んでいる。自社の方針やコミュニケーションを通じて,株主が合理的な行動を取るように促進しており,こうした行動が結果的に株価も合理的にすることになる。このアプローチにより,他の株主の投資の失敗からではなく,会社の成長から利益を得ようとする長期的な株主を引き寄せる可能性が最大になる。

 

バフェットの財務戦略について特徴的なポイントの一つは株式分割に対する姿勢である。バフェットは株式分割に非常に否定的である。株式分割などの,事業価値ではなく株価に着目した行動を取れば,既存株主よりも質の低い買い手(新たな株主)を引き寄せることになる。分割で得をすると考えたり,分割を理由に株式に投資したりする投資家は,当社の現在の株主構成の質を確実に悪化させるとバフェットは考えている。バークシャー・ハザウェイはA種株式に関しては株式分割を行わず,その結果,株価は2006年には10万ドル,2014年には20万ドルを突破している。簡単に投資ができる株価水準ではないが,バフェットは株式分割がもたらす株主構成の質の悪化というマイナス面を重視している。株式分割により期待される流動性の改善に関しても非常に否定的であり,次のように述べている。「パートナー数人と共同で事業を行っている場合に,パートナーが共同事業から頻繁に退出することを望むならば,我々は落胆するだろう。上場企業を経営する際にも,我々は同じように考える。」

 

バフェットは株式の発行に対しても特徴的なアプローチをとるバークシャー・ハザウェイは,1996年にB種株式という種類株を発行した。2010年1月に50分割されたため,現在では発行価格はA種株式の1500分の1,議決権は1万分の1となっている。種類株式の存在は,ガバナンスの面で望ましくないとされることが多く,バフェットも種類株式の影響は理解しているが,株式分割を回避して株主構成の質を維持するために種類株式を発行する決断をした。その背景には,同社の高水準の株価を逆に利用しようとするユニット型投資信託の販売の話が持ち上がっていたことがある。このユニット型投資信託が集めた資金がバークシャー・ハザウェイ社の株式に投資されれば,業績とは無関係に株価は一時的には上昇することになり,さらにそれにつられて信託に投資をする投資家が増えることになる。バフェットはユニット型投資信託の販売を阻止するために,(通常であれば,株式分割により株価を下げることを選ぶと思われるが,)種類株式の発行に踏み切った。この手法でも株主構成の悪化は避けられないので,さらに細心の注意を払ったのは,種類株式の発行(IPO)の仕組みであり,売り出しの規模をオープンエンド(上限がない形式)にすることにより,過小供給局面で生じる短期な価格上昇のチャンスをうかがうIPO投資家を近づけなかった。こうした工夫によりIPO直後のB種株式の出来高は,一般的な水準を大幅に下回る結果となった。

 

 

IR戦略

 

バークシャー・ハザウェイ社は,IR部門を持たず,アナリストを情報拡散のチャネルとして使うこともなく,利益予想も提供しない。その代わり,経営者と株主の直接的なコミュニケーションを好み,株主総会がアイディアの交換に最適な場所としている。バフェットは,株主総会で話すことは株主にとって効率的あり,またすべての参加者が同時に経営者の発言を聞くことができるという点で公平である,と考えている。バフェットがCEOとして直接的にオープンに株主とコミュニケーションするのがバークシャー・ハザウェイ社の情報開示の基本姿勢であり,IR部門を中心に組織的に情報開示を行う大企業の仕組みとは大きく異なる。これは,株主構成に占める長期株主の比率が高いため,短期的な業績の説明に労力を割く必要がないことに加えて,バフェットによる情報開示が投資家や株主の情報ニーズを十分に満たしていることも要因だと思われる。

 

バフェットによる情報開示の1つ目の特徴は,業績予想を開示せずバリュードライバーの数値(内在価値を推定するのに必要な情報)を開示することである。投資家による内在価値の算出をサポートすることを指針にしている。バフェット自身が投資家であることから,バフェットは投資家が内在価値を算出する際に必要とする情報を理解している。企業には多くの利益の源泉が存在するため,企業をセグメントに分けて,それぞれのバリュードライバーについて数値を開示することが,通常必要になる。株主や投資家は,その情報に基づきセグメント別の内在価値を算出し,それらを合算することにより同社の内在価値を算出することが可能となる。そして,その結果に基づき株価水準が割安なのか割高なのかを判断することになる(バフェットもまったく同じ情報を活用して,同社の内在価値を算出している)。一方で,業績予想は開示しないため,予想EPSに予想PERを掛け合わせて株価予想をするような投資家にとっては同社の情報開示は非常に都合が悪いものとなる。

 

2番目の特徴は,CEOが自分の言葉で説明をすること。バフェットは投資家の視点から次のように述べている。「株主は,経営の現状とCEOによる現在と将来の事業評価についてCEOから直接聞く権利を持つと私は信じている。非上場企業であれば当然な要求であるが,上場企業にも同じことを期待するはずだ。年次のスチュワードシップに関する報告をスタッフやPRコンサルタントに任せてはいけない。彼らは経営者と株主という関係で率直に語る立場にはないのだ。」バフェット自身も投資家の立場から,バークシャー・ハサウェイ傘下の企業のCEOに対して全く同様のことを求めており,彼らから得られた情報に基づき自分の結論をまとめ,株主に伝えている。彼は次のように述べている。「本当に重要な数値と情報をアニュアルレポートにおいて株主に提供する。チャーリーと私は,当社の業績にかなりの注意を払っているし,各事業が運営される環境を理解する努力もしている。たとえば,当社の事業は追い風を受けているのか,もしくは逆風を受けているのか。チャーリーと私は,どちらの状況が優勢なのかを正確に理解し,それに合わせて見通しを修正する必要がある。我々は,自身の結論を株主に伝える。」

 

3番目の特徴は,公平性の高い情報開示を実践すること。大株主であろうが,著名アナリストであろうが,情報面で有利になることはない。同じ情報を同時に開示するのが,バークシャー・ハサウェイの方針となっている同社は,アナリスト及び大株主に収益予想やその他の価値ある情報を提供するという一般的な慣習には従わない。同社の目標は,すべての株主が同時に新たな情報を得るようにすることである。バフェットは次のように述べている。「我々にとっては,完全な会計報告とは,30万人のパートナーに同時に情報を伝えることだ。よって,我々は年間決算と四半期決算を金曜日の取引終了時刻と翌朝の間にインターネット上に掲載する。そうすることにより,株主と当社に関心を持つ投資家はこれらの重要なリリースにタイムリーにアクセスすることができ,また月曜日の取引開始時刻の前にリリースの情報を十分な時間をかけて消化することができる。」IR部門がなく1対1のコミュニケーションを行わないため,情報開示はインターネット上での決算資料の掲載と株主総会での直接的なコミュニケーションに限られる。IR部門の人数やホームページの美しさは関係ない。なお,2016年の株主総会は初めてインターネットでライブ中継された。総会に参加できない株主も含めて同時に情報開示をすることが実現したのである。 

 

最後の特徴は,悪いニュースを早く正直に伝えることである。企業が,悪いニュースについて正直に伝えることは投資家からの信頼を得るには不可欠なことである。バフェット自身も投資家として傘下の事業経営者に対して同じことを要求しており,「悪いニュースだけ教えてくれ。良いニュースは放っておけばよい」という格言を信じている。バフェットはすでに起こった悪いニュースだけでなく,今後起こりうる悪いニュースも警告として伝えている。投資家のリスク許容度によっては,そもそもバークシャー・ハサウェイの株主になることが不適切であることも考えられる。事実,同社の保険事業は大災害に対する保険を引き受けているため,大災害が連続して発生するようなことがあれば,同社の収益が大幅に悪化することも考えられる。そのことを警告をしておくことにより,リスクを許容できる投資家だけが株主となるため,実際に大災害が発生して収益が大幅に悪化したとしても,大量の売りが発生して株価が過度な水準にまで下落することを回避することができるのである。

 

 

経営モニタリング

 

投資先経営者に対しては,大株主として経営に自由や安定性を提供し,自由を与えるのがバフェットの基本姿勢である。彼のステークホルダーに対する対応は,経営者としてでも,あるいは投資家としてでも,相手の立場で考えることを基本とする。例えば,彼の情報開示の基本姿勢は,自分が投資家の立場として知りたいと考える情報を伝えるというものである。まさに経営者と投資家の両者の立場を知る「二刀流」ならではの対応だと言える。この点,経営者としてのバフェットは株主に期待するのは,自由に経営させてもらうことである。そのために,バフェットの経営に共感する投資家を株主として引き寄せる努力をしてきたのである。この結果,実質的には非上場企業のように経営することが可能となった。

 

投資先へのモニタリングについては,長期的な視点で業績評価を行う,非アクティビスト型アプローチに特化する,上場企業の経営に安定性を提供する,そして傘下の企業の潜在能力を引き出すという4点がある。

 

バフェットの投資先の業績評価手法は非常にシンプルである。バフェットは四半期決算や短期的な株価パフォーマンスに基づき業績評価して大騒ぎをすることはない。彼が評価するのは,投資判断のタイミングにおいて重視する特性が投資後も維持されているかどうかということだけなのである。バフェットが重視する特性は定性的なものであるため,財務数値や株価パフォーマンスだけでは正しくモニタリングすることは不可能である。それどころか,そうした定量データだけでは判断を誤る可能性があるというのがバフェットの考え方であり,次のように述べている。「前年比較がいつも我々に有利になるとは限らない。我々が少数株主である上場企業の投資先も,経済的な意味ではパフォーマンスが良くても株式市場ではパフォーマンスが悪い時もある。そうした時には当社の純資産が大幅に減少することもあるが,私たちはそうしたことに影響されることはない。投資先の事業が魅力的であり,当社に十分な現金があれば,さらに割安の水準で追加投資をするだけの話だ。」短期的には業績の変化と株価パフォーマンスが連動しないことも多いため,株価ではなく事業の経済性に注目すべきだというのがバフェットの考え方である。また,彼は自分のアプローチを野球にたとえて次のように述べている。「長期的には投資決定のスコアボード(業績評価)は市場価格であることは事実だ。しかし,価格は将来の利益で決定される。投資においては,野球と同じようにスコアボードに得点を入れるためには,スコアボードではなくフィールドを見なければならない。」野球ではランナーが出て,ホームに帰らなければ得点ができないように,株価を高めるためには業績やキャッシュフローを改善する必要があり,そのためにはバリュードライバーを改善する必要がある。

 

バークシャー・ハサウェイでは一株当たりの内在価値の成長率が業績指標として利用されていますが,明確な業績指標が存在せず,CEOの評価が曖昧になっている企業が多い,というのがバフェットの不満である。業績が悪いCEOが解任されることはあまりない。その理由の一つは,多くの場合においてCEOの業績評価基準が存在しないことである。仮に存在したとしても曖昧なものが多く,もしくは,業績が著しく悪く,またそれが繰り返されたとしても,業績評価基準が撤回されたり,言い逃れされたりすることになる。明確な業績評価基準がなければ,CEOを評価することはできず,またCEOのコミットメントを引き出しにくくなる。実際,日本では中期経営計画の達成度が低くなっているが,今後業績連動型報酬制度がより一般的になるにつれて,業績目標が明確に定義されることになるため,こうした問題は徐々に解決されていくと考えられる。

 

バフェットは,アクティビスト型のアプローチを取ることは一切ない。株主の発言力が高まっている中で,バフェットは真逆の行動を取っている。物を言う必要がない企業にしか投資をしないことが大きな要因だが,そもそもそうしたアプローチ自体をバフェットが好まないことも要因となっている。バフェットは,次のように述べている。「たしかに,ある種の敵対的買収は正当化される。CEOの中には,株主のために働くべきことを忘れているものもいれば,かなり無能なものもいる。いずれのケースでも,取締役は問題に気づいていないか,それとも変化を起こそうとしないかだ。その時は新たな人物が必要とされる。しかし,そうした「機会」は他人にまかせる。当社は,歓迎される場所にしか行くことはない。」このような考えである以上,物を言う必要がない企業にしか投資をしないことになるが,経営の支配権を握ったところでうまく活かすことはできないというバフェットの謙虚な考え方もその要因となっており,次のように述べている。「支配権を握ることにより,経営を行ったり,企業の資源を管理したりする機会(義務)が与えられるが,我々は現状を改善することはできない。実際,支配権を握る場合よりもそうでない場合の方が,良い経営上の結果が得られている。」「投資の神様」といえども,優秀な経営者が経営する企業をよりうまく経営するのは無理な話である。結局,バフェットにとって大株主であることは,支配権を握ることではなく,より多くの価値を投資先から得ることを意味するのである。

 

 

投資家が企業に提供する価値

 

バフェットは,大株主として上場企業の経営に安定性を提供することを基本スタイルとしている。彼のような長期的にコミットする大株主が存在することにより,株主などから短期的な業績動向への圧力などのノイズの少ない非上場企業のような環境で経営をすることが可能となる。上場企業の中には実際に非上場になる企業もありますが,同じメリットをコストをかけずに享受できるのである。バフェットは,1985年にキャピタルシティーズ・ABCの大株主になった時に,あえて株式売却を制限する合意をしたのだが,その理由を次のように述べている。「このような合意があれば,一流の経営者と我々の利害は合致し,経営者は事業の運営と長期的な株主価値の最大化だけに集中することができる。この状況は,資本家に入れ替わり立ち代り「ゲーム」の対象とさせられて,経営に集中できない状況とは比べものにならない。今日,企業が不安定になっているのは,議決権付株式が広く分散保有されていることが原因である。大株主が現れると,調子の良い美辞麗句を口にすることが多いが,彼らは通常無意味な考えを心に秘めている。我々は保有する大量株式の売却を制限することを常としているが,これは安定性を高めるためだ。素晴らしい経営者と素晴らしい事業が安定性と組み合わさることによって,十分な財務上の収穫を生み出す最高の土壌が作り出される。」バフェットが述べているのは,売らない大株主がいることにより,経営者は投資家に邪魔されることなく経営に集中できるということである。これは,彼自身が議決権の33%を保有するバークシャー・ハサウェイの大株主であることに加えて,ほとんどの株主が長期株主であるという安定的な環境でこれまで持続的に優れた業績を出してきたことが影響していると考えられる。実際,英国や米国の企業の多くにおいて,ファンドが上位株主となっている一方で,種類株式の発行により創業者や創業者一族が大株主の地位を維持する企業も少なくない。

 

トヨタ自動車は持ち合いや系列という安定性に重きを置く仕組みの中で継続的に業績を拡大してきた。また,2015年には種類株式を発行することにより,長期株主の比率を高めている。一方,日産自動車は持ち合いや系列というトヨタと同じ仕組みの下で長期にわたり業績が低迷し,仏ルノーの傘下に入る結果となった。その後,新経営陣が持ち合いや系列を否定し安定性よりも競争を重視することにより,短期間で優良企業として復活した。興味深いのは,持ち合いや系列に代わり,ルノーというコミットメントの高い大株主が日産の経営に安定性を提供していることである。つまり,形は変わっても,安定性は担保されている。ルノーはバフェットとは異なり,日産に経営陣を送り込み経営に積極的に関与するが,経営に安定性を提供する大株主である点では同様である。今後,日本企業による持ち合いの解消が継続的に行われていくと考えられるが,株式市場からの牽制が強化される分,どこかで安定性を補いバランスを取る必要があると思われる。

 

バフェットは,企業の潜在能力を引き出せるようにするため,投資先の企業の経営に口を挟むことはない。買収基準の一つに優秀な経営がいることという条件があるため,その必要はないのである。バークシャー・ハサウェイ保有する全事業は,かなりの水準で自律的に経営されている。ほとんどのケースで,長期にわたり保有する主要事業の経営者は本社にあるオマハに来たことはないし,事業経営者同士がお互いに会うこともない。バークシャー・ハサウェイが事業を買収するときには,売り手は,売却前と全く同じように経営する。同社が彼らのやり方に適応するのであって,その逆ではない。 

 

自主経営であればバークシャー・ハサウェイに売却しなければ維持できるはずだが,なぜわざわざ売却をするのであろうか。それは,もちろん経営者が保有する持ち株を同社に売却することにより資金を得ることもあるが,同社の傘下に入ることにより,事業経営により集中することができ,事業の潜在能力を引き出す可能性が高まることも理由のひとつである。というのも,同社の傘下に入ることにより,CEOの業務にまつわる儀式的で非生産的な活動(取締役会,広報インタビュー,投資銀行のプレゼン,証券アナリストとの会話,資金調達,格付け,EPSの予想)から解放されることになる。

 

とはいえ,問題がないわけではなく,自主経営の行き過ぎが時に生じることをバフェットは次のように認めている。「当社の数多くの子会社には,我々の監督や監視はまったくなく,自律的に経営をさせている。そのため,経営上の問題を発見するのが遅くなったり,また相談を受けたならばチャーリーと私が反対したはずの経営上および資本上の決定がなされたりすることが時にはある。しかし,ほとんどの事業経営者は,我々が与えた独立性を堂々と使い,大組織ではめったにお目にかかれない非常に貴重な株主志向の姿勢を維持することによって,我々の信頼に報いている。息苦しい官僚制が原因となり,意思決定が遅くなったり,まったく意思決定が実行されなかったりすることから生じる多くの見えざるコストを被るよりも,いくつかの悪い意思決定という見えるコストを被るほうが良い。」

 

このような問題がありながらも,現在は約90社の企業がバークシャー・ハサウェイの傘下に入っていることを考えれば,問題点よりも利点の方がはるかに多いのだと考えられる。自主経営を認めることが買い手としての信頼につながり,さらに多くの企業が傘下に入るという好循環が生まれているのである。

 

 

まとめ

 

理想的な株主構成を実現するためには首尾一貫した経営行動が求められる。

 

業績指標を明確にすることにより投資家による業績の判断をサポートする必要がある。選定する業績指標を短期的な財務指標ではなく,長期的な企業価値創造に求められるバリュードライバーに設定することが,長期的にコミットする投資家を引き寄せるのに効果的なアプローチとなる。

 

財務戦略の策定においては,株価や短期的な財務指標に大きな影響を与える可能性の高いものを実行するのは避けるべき。特に株主還元政策は投資家の注目する財務戦略の一つであり,派手な方針を選択した場合,株主還元政策にしか関心を持たない投資家を引き寄せかねない。財務戦略は地味な保守的なものにとどめ,実績で投資家に注目される努力をすべき。

 

情報開示の拡充は望ましいことだが,開示すべき情報は企業が決定するものであり,投資家にコントロールされることは避けるべき。ある情報を開示すべきか否かの判断は,投資家の満足度ではなく,内在価値の算出への有効性に基づくべき。基本的な方針としては,決算結果の詳細の説明と長期的な見通しを二本柱にすることが適切だと考えられる。

 

公共施設における表現規制(旧司法試験 憲法 平成8年度第1問)

問題 

 団体Aが、講演会を開催するためY市の設置・管理する市民会館の使用の許可を申請したところ、Y市長は、団体Aの活動に反対している他の団体が右講演会の開催を実力で妨害しようとして市民会館の周辺に押しかけ、これによって周辺の交通が混乱し市民生活の平穏が害されるおそれがあるとして、団体Aの申請を不許可とする処分をした。
 また、団体Bが、集会のために上記市民会館の使用の許可を申請したところ、市民会館の使用目的がY市の予定している廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会を開催するものであることが判明したので、Y市長は、団体の申請を不許可とする処分をした。
 上の各事例における憲法上の問題点。

 

※ 関連テーマ

onlythegoodyoung.hatenablog.com

 

 

問題の整理

 

設問前段

設問後段

原告

団体A

団体B

被告

Y市

Y市

訴訟物

市民会館使用不許可処分の取消し

損害賠償請求

市民会館使用不許可処分の取消し

損害賠償請求

被告の行為

市民会館使用不許可処分

市民会館使用不許可処分

被告の行為の目的

団体Aの活動に反対している他の団体が団体Aの講演会の開催を実力で妨害しようとして市民会館の周辺に押しかけ、交通の混乱や生活の平穏が害される恐れがあるため

団体Bが廃棄物処理施設の建設反対の決起集会を開催しようとしており、それが施設の建設を実力で阻止するためのものであるため

 

回答

 

・訴訟要件

行政処分取消訴訟の出訴要件・当事者適格(行政事件訴訟法)はOK。

本案の取消しは法令・憲法適合性による。

 賠償請求の訴訟要件・当事者適格(国家賠償法民法行政事件訴訟法)はOK。本案の賠償は権利侵害・違法性・損害・因果関係如何、違法性は法令・憲法適合性による。

 

・市民会館の使用許可に関しての裁量(市の財産の使用・収益・処分)(公物法)

基本的に市の所有物は、財産の維持・管理に責任と利害を持つ「市」が、その利用に関してルールを決めて運用できる。また、ルールの適用の前提となる事実認定もまずもって許可権者及びその組織がその仕事として行い、第三者がチェックするのはその判断過程の適切さに限るべき。ただし、より上位の規範である憲法や国の特別な定めがある場合にはそれに従う。平等原則に違反するような狙い撃ちでの規制の禁止、基本的人権保障の観点から政策的に使用を認めていく方向の場合、法令で定められている場合(地方自治法)である。

 

・許可処分の要件

審査内容・どういう場合に自由裁量・どういう場合に許可しなければならない(羈束裁量)かが問題となる。

この点,地方自治法第244条1項では,「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設を設けるものとする。」と規定されている。

ここでいう「住民の福祉を増進」には,表現の自由・集会の自由・その他一般的自由の保障することも含まれると解される。「普通地方公共団体は、正当な理由がないかぎり、住民が公の施設を利用することを拒んではならず、住民が公の施設を利用することについて不当な差別的取り扱いをしてはならない。」(地方自治法第244条第2項・第3項)

 

・これに関連する憲法上の要請が何かあるか(合憲限定解釈や適用違憲の問題)

集会の用に供する「公の施設」における「正当な理由」について判例では,他の基本的人権が損なわれる場合には,特別に裁量の範囲が狭くなる判断をしている。なお,集会の自由の保障根拠は,憲法第21条第1項である。

 

・設問前段・設問後段の比較(被告の行為の目的でしか区別がない)

市の行為の目的上、もし害悪の発生が、表現内容・思想内容そのものから生じるため、規制の必要が生じるとされた場合(扇動やレッドバージなどの危険思想処罰やわいせつ)、人の思想の内容及びその表現を受け取った人の内面の心象形成に対して憶測を加えて判断する必要があり,類型的に,特定の表現を選別して行政に不都合な表現、特定の道徳や生き方を押し付けることがありえ,憲法第21条の趣旨などに照らして,そのような公権力の恣意に十分警戒すべきというのが憲法の合理的解釈である。ここでは,明白かつ現在の危険が認められない限り違憲違法となるという基準により,そのような公権力による特定の表現の恣意的狙い撃ちをあぶり出し,禁止するのが妥当と解される。

他方、表現手段が危険な態様によるなど、表現内容と直接的には関わらないものである場合、特定の表現への狙い撃ちかどうかは客観的に判断でき,裁判所による適正手続の下、客観的に正しく,不許可根拠があると認定される場合は、違法の問題は生じない。

施設の破壊や集会後飛び出して危険なデモ行進や破壊活動を行うおそれがあるなど、客観的に重大な危険性が認められれば不許可もOK(明白かつ現在の危険の立証までは要しない)。なお、その判断の際には、当該団体の性質や平素の活動内容や事件の有無等、思想内容に極力関わらない範囲で、過去の実績などの客観的な事実から、今後予見される集会の態様・危険性の有無を客観的に審査することが裁判所にも求められる。

また、表現者自身が全く危険な態様での表現を企図しておらず、危険が生じない場合は必ず許可しなければならない。 付言すると、第三者による妨害が懸念される場合でも、基本的には自治体等が警察力の行使で妨害を排除する責務を負う。ただし、その妨害が表現者自身の過去の行動・言動からことさらに第三者からの妨害行為を誘発しているなどの特別の事情がある場合は、当該集会のための施設利用の許可が出ないこともありうる。

 

・本問の帰結

設問前段 違憲違法 (法令の根拠を有しない処分)

設問後段 合憲適法

※ あてはめは各自のご推測にお任せします。

 

 

本的には,自分の憲法解釈は判例と,下記の解説書・基本書に依拠しています。通説とされる芦部憲法体系から判例を解釈しようとするのは実は結構困難があります。

 

※ 正義論まで踏まえており,最も影響を受けたもの  

憲法 (新法学ライブラリ)

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※ きちんとした法解釈論で最高裁判事にまでなった学者

法律学講座双書 憲法

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※ 判例及び調査官解説で構築した,実務家による憲法解説

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

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※ 実務に通用する憲法解釈演習本。実はドイツの議論・枠組みまでカバーされている地味だがすごい本。

憲法解釈演習(人権・統治機構)【第2版】

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※ 最高裁調査官による解説を手軽に

最高裁時の判例―平成元年~平成14年 (1) (ジュリスト増刊)

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